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.国際  投稿日:2018/8/21

米警戒「一帯一路」の軍事的意図


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・米国防省報告で中国『一帯一路』の軍事意図に警戒表明。

・中国は海軍拠点確保に『一帯一路』構想を戦略的に利用。

・日本も『一帯一路』の軍事的意味に注目し、論じる時だ。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41639でお読み下さい。】

 

トランプ政権の国防総省は8月16日、中國の軍事力についての2018年度の年次報告書を発表した。同報告書はその冒頭で中国が軍事力を使って地域的かつグローバルな覇権を求めことが基本戦略だと宣言したうえで、中国がいま推進するインフラ建設の「一帯一路」構想への強い警戒を強調した。この構想が単にインフラ建設という経済的な意図だけではなく軍事がらみの方法で中国の影響力を拡大する重要な戦略手段だとする警戒だった。この点では日本の認識とは大きく異なることが明白となった。

この報告書は公式には「中国の軍事と安全保障の発展についての年次報告書 : Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2018」と題されている。国防総省から議会に送られる同報告書は中国の軍事力増強が顕著となり始めた2000年に米側でできた法律により、その作成と送付と公表が政府側に義務づけられている。

同報告書は要約の冒頭の「中国の戦略とはなにか」という章で、その戦略の目的は「地域的かつグローバルな中国の存在の拡大」だと定義づけ、その手段としてまず「一帯一路」を指摘し,軍事的な要素への警戒を訴えていた。その記述は以下のようだった。

・中国の「一帯一路」構想は軍事的な要素を含んでいる。中国当局はこの構想により他の諸国との強い経済的きずなを発展させ、相手国の利害関係を中国のそれと一致するように組み換え、国際的な場での中国の特殊な問題への対応に対する批判や対決を抑えることを意図している。

・「一帯一路」の投資計画の一部は中国にとっての軍事的な利点を生み出す目的を持っている。中国が軍事面で特定な外国での港の使用を必要とするとき、あるいは膨張する自国の利益をアジアやインド洋に限らず、地中海、大西洋にまで及ぶ海域での海軍の配備保持のために兵站用の拠点を確保しようとするとき、「一帯一路」のプロジェクトを利用するという戦略をすでに立てている。

▲写真 中国初の海外軍事拠点が置かれたジブチに到着した中国海軍ミサイル駆逐艦「海口(Haikou)」(2017年11月6日)出典:中国海軍ホームページ

・中国は「一帯一路」により特定の相手国に中国資本への依存状態を作り出し、それを相手の弱点として軍事関連の権益の移譲に利用する。たとえば2017年7月にはスリランカが中国の国有企業との間で自国内のハンバントタ港の99年間の貸与契約を結んだが、その理由は中国への債務の膨張だった。中国はギリシャのピレウス港、オーストラリアのダーウィン港の長期間使用のためにも「一帯一路」を利用する同様の動きをみせている。これらの港湾施設の使用権利の取得は中国の海軍の行動に役立つ。

▲写真 中国側が99年間の港湾運営権を確保したスリランカ・ハンバントタ港。出典:Photo by Deneth17

以上のようにアメリカの国防総省が中国の軍事動向全体を点検する同報告書の130ページもの冒頭で「一帯一路」の軍事利用を指摘して、その狙いへの警戒を訴えているのである。

トランプ政権のこの認識は「一帯一路」を経済的な利点だけでみる傾向の強い日本側の反応とは基本的なスタンスが異なるといえる。日本側もこのあたりで「一帯一路」の軍事的な意味を改めて論じるときがきたといえそうだ。

トップ画像:トランプ大統領と習近平国家主席(2017年11月11日 APEC首脳会議) 出典 Official White House Photo by D. Myles Cullen


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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