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.国際  投稿日:2019/1/13

「変わるアジアのパワーバランス」 Japan In-depth創刊5周年シンポ その4


Japan In-depth 編集部

【まとめ】

・朴氏「終戦宣言は国連と関係しているため重要で北と南だけでの問題ではない」 。

・古森氏「金正恩体制を諸手を挙げて受け入れようとする文在寅政権に米は懸念」 。

・米韓同盟が崩れる危険性もあり、東アジア情勢は流動的。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトでお読みください。】

 

安倍:朴先生は先ほどアメリカが強固な軍事オプションも含めた準備を着々と進めているというお話をされていましたね。

 

朴:そうです。韓国で非常に優秀な軍事専門家たちがずっと追跡をしていて、その情報によれば、一貫して着々と準備している。インド洋で真夜中にF-35Bの演習をやったり、ユタ州でF-35、60機でミサイル基地を壊滅する練習をしたり、ハワイで特殊部隊による非常に特殊な訓練を行ったりしている。

 

 ただ終戦宣言(への動きは問題だ)。これは彼ら(南北首脳)のロードマップで今年度中にやらなければならないひとつの課題だった。終戦宣言は平和協定と違うという理由で(トランプを)騙し、文在寅に至ってはいつでも(戦争状態を)やめるんだと宣言してもいいんだと、中学生レベルの話をしていたわけだが、終戦宣言が非常に重要なのは国連と関係してくることだ。

 

国連軍と中朝連合軍とが戦争したわけで、韓国と北朝鮮が戦争したわけではない。だから終戦宣言をするという事は国連はここにいなくていいということになる。日本の横田基地にも国連軍の後方基地があり、国連の旗が掲げられている。アメリカ軍にとっても国連の旗がなくなったら、これはもう大変な問題になる。

 

アメリカ軍に関しては、米韓同盟があるから大丈夫だろうと思っている人もいるが、いま文在寅がやろうとしていることは法律は一切触らない、形骸化させる。憲法も形骸化させている。韓国憲法では『自由民主主義秩序に基づく平和統一』ということになっているが、南北首脳会談の板門店宣言、平壌宣言には一言も書いていない。ということは、あれはやっていること自体が憲法違反だ。それともう一つ国家保安法をみてほしい。金正恩大歓迎とかいうことをやったら、文在寅政権以前ではしょっぴかれていた。それを公然とやっている。文在寅が先頭に立って国家保安法を形骸化させている。

 

米韓軍事同盟があってもアメリカ大使館の前で毎日のようにデモが発生している。それが何万人と膨れ上がっていって、アメリカが出て行かざるをえなくなる世論を作っていけば、アメリカだっていくら軍事同盟があったっていつまでもこんなことをやっていられるか、という気持ちになり得る。

©Japan In-depth編集部

安倍:古森さん、韓国のそういう情勢を見てアメリカが韓国に対して制裁を課す可能性もあると聞くが。

 

古森:本来、脅威であり、根本的な邪悪性を持つとされていた北朝鮮の国家体制・金正恩体制というものを、諸手を挙げてそのまま受け入れようとしている文在寅政権に対してアメリカは非常に懸念を持っている。その具体例として、ポンペオ国務長官が国務省での記者会見で韓国政府に対して警告を出している。これは非核化なのだと、北朝鮮の核をなくすことがアメリカの最大の目的だと。

 

しかし、韓国のいまの動きはそのことを軽視し、ほぼ無視してとにかく仲良くなって経済的に援助することだと、人間レベルで交流すると、そっちの方向にどんどんいってしまっていて危険だということを言っている。トランプ氏も、人間、信条、物事の考え方として、文在寅氏と全く合わないということもある。ただ、いくらトランプ氏でもそれをボンボンと出すわけにはいかない。いまは北朝鮮の非核化という重大な命題、全世界にとってといってもオーバーではないほどの課題があるわけだ。トランプ氏はそれを優先するためには米韓がピタッと団結を保っていかなければならない、関係性が強くなくてはならないという意識がとても強いので、抑えている。

 

ところが、時々Twitterでぽろっと不満が出てしまい、『文在寅のアピーズメント(宥和政策)』が心配だと(トランプ氏が)述べたことがあった。この宥和(「アピーズメント)という言葉は、第二次大戦直前にイギリスのチェンバレン首相(当時)がヒトラーと会談したときに、ヒトラーに対して非常に宥和的な態度をとって、それが結局ポーランドにドイツ、ナチスが攻めいることを招き、第二次世界大戦が始まることになってしまったという歴史的な因縁のある表現だ。だから、ものがよくわかった顔をして宥和して相手の言うことを認めてしまう事はかえって危険なのだという時に使う、外交史でも伝統的な言葉だ。

写真)ミュンヘン会談からの帰国後に会見するチェンバレン首相

出典)Ministry of Information official photographer

 

これを一国の外務大臣や首相がよその国の首相から言われたらとんでもない侮辱、罵り言葉になるが、その言葉をトランプ氏がTwitterで使ってしまった。韓国政府はあまり表には出さないが、政府間ではすごく反発をした。つまり、明らかにズレがあり、米韓同盟がボロボロと崩れていく危険性も否定できない

写真)ブルックス国連軍・米韓連合軍・在韓米軍司令官と韓国文在寅大統領 2017年6月13日

出典) United States Forces Korea Photo By: Sgt 1st Class Sean K. Harp

 

 それからもう一つ終戦宣言。北朝鮮の狙いははっきりしている。非核化、核兵器をなくす、ということから焦点を逸らせて良い所取りで経済制裁を緩和してもらおうとか、アメリカが北朝鮮を敵視するのを和らげてもらおうとかいう意図がある事は明らかだ。トランプ政権はそれを十分にわかっているから、終戦宣言にいま応じるという兆しはない

 

だが、米韓同盟の危機は日本にとっても非常に大きな影響がある。米韓同盟が崩れる気配だけだとしても、実際に起きたとき日本はどうしたらいいのかと。これにもいろいろな見方がある。いや、それの方が良いのだという考え方もあるかもしれない。アメリカは韓国から、すなわち朝鮮半島から引いて日本とだけがっちり組んで朝鮮半島への脅威、もっと大きい中国の脅威に備えていくという可能性もあると思う。だから、東アジアは流動的で危険なのだ。米韓同盟が崩れてしまうかもしれないなんてことは今まで考えられなかった

その5に続く。全5回。その1その2その3

 

トップ画像:韓国文在寅大統領と米トランプ大統領 2017年11月7日

出典:U.S. ARMY White House photo by Shealah Craighead

 


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