「変わるアジアのパワーバランス」 Japan In-depth創刊5周年シンポ その2
Japan In-depth 編集部
【まとめ】
・朴氏「核と体制は表裏一体。朝鮮の非核化・平和ショーは賞味期限切れ」。
・元山での建設等は国際社会へのアピール。実際は国連の経済制裁が効き厳しい状況。
・島田氏「北への制裁を維持して抜け穴を防ぎ、拉致問題を日朝首脳会談により解決しなければ」と述べた。
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朴斗鎮氏(コリア国際研究所所長)は「朝鮮半島情勢の変化と展望」について話した。
▲写真 朴斗鎮コリア国際研究所所長 ©Japan In-depth編集部
「今、古森氏がお話しされたその構図の中で朝鮮半島も動いている。そういう視点で我々も分析をしている。私は日本の高等学校を卒業してから18歳以降ずっと朝鮮総連と関わりを持ってきた。朝鮮総連と関わりを持つという事は北朝鮮と関わりを持つということ。北の色々な面の活動、裏の活動も体験した。そういう意味では日本にも北朝鮮の専門家の方々は多いが、結局学問として研究している。
もちろん学問としても研究しなくてはいけないが、それでは北の本質は見分けられない。労働新聞を読んで北のことがわかるのであればそんな楽なことはない。18歳から今日77歳まで、約60年間あの国と関わりを持ちながらあの国をなんとか良い国にしたいと思いながら、色々な勉強をし分析をしてきた。そういう立場から言うと、北朝鮮については本質論がわからない限りあの国はよくわからないということ。3代にわたって結局1人で独裁をして、1人システム。これは絶対に変えない、変わらない。
そういう意味では北朝鮮の分析では専門家の方々がああだこうだと言うほど難しいことではない。あの体制は変わらない。あの体制を維持するためには核が必要である。つまり核とあの体制は表裏一体ということ。あの体制を止めなければ核はなくならないし、核をなくしたらあの体制も変化する。そういう相関関係にある。
ところが日本では、例えば金正恩が笑顔を見せると、『何かしてくれるのではないか?核を放棄するのではないか?アメリカ次第で核を放棄するのではないか?』などと言う専門家が多いが、そういう事は絶対にない。交渉の手段として核を使っても、自分から核兵器を捨てるという政策は北朝鮮にはない。だから、そこに幻想を持つと北朝鮮の策略に引っかかる。
ではなぜ今回は北朝鮮は核の問題を国際社会に持ち出して非核化というショーを行ったのか。それは北朝鮮の内部がものすごく苦しいからだ。この点についても日本のメディアや、いわゆる北朝鮮の専門家は『平壌はあれだけすごい建設をしている。いま元山(ウォンサン)も凄いことをやっている。経済もとても発達・発展しているだろう』と(言っているがこれは誤りだ)。
▲写真 ピョンヤンの街並み 2014年6月30日 出典:flickr Clay Gilliland
そして平壌詣でをする学者達が北に行き、向こうのプロパガンダを専門とする学者がそれを聞いて、例えば3.5%成長したなどと言っている。『韓国の中央銀行は3.5%をマイナスだと言っているのに、北に行ったら発展しているから日本の制裁は効いているというのは間違いだ』とか、こういうややこしい発言が日本には多い。
我々は平壌からも中国の丹東からも情報が取れている。そういった内側の情報を、平壌以外のところからどれだけとっているのかが重要だ。
今、北朝鮮は第二の「苦難の行軍」だ。内部の情報によると、やはり昨年の国連による経済制裁、特に9月以降の制裁は強烈に効いているようだ。これを隠すために、元山や平壌が発展しており、制裁は一向に効いていないので無駄だと我々にアピールしている。国民のためにやっているのではなく、金正恩体制を維持するに国際社会を欺瞞する必要があり、国際社会をだます策として発展している姿を見せている。
現在、元山では資材不足でどんどん開発が遅れている。最近、中国の制裁が少し緩んでいるが、やはり昨年の暮れの制裁は相当影響がある。セカンダリ・ボイコット(※編集部注「第2次ボイコット」。この場合北朝鮮と取引のある企業との取引を禁止すること)になれば大変なことになるから、中国もアメリカに気を遣って相当協力した部分があり、いま中朝の関係では最低限のものしか入っていない。
しかも、それらも主に密輸で入っている状況だ。小さな貿易船で正規に貿易していた人たちは、政府からストップがかかり、正規の貿易がなかなかできない。後は密輸という形になる。ご存知のように、今は「瀬取り」で油を入れているような相当厳しい状況だ。そういう状況だから非核化に出てきた。南北関係で金正恩は一切核問題を議題にしなかった。核の問題はアメリカとの問題で韓国と議論する問題ではないというスタンスだった。核を持っているため、韓国を見下している。
しかし、今回核の問題を『朝鮮半島の非核化』というキーワードで出してきた。どちらにしても核の問題を南北首脳会談で出してきたという事は初めて。だが、真面目に出してきたのかというとそうではない。世界中が北朝鮮の核について注目しているのでこれを使って何とか欺瞞したいと考えていたところに文在寅政権というちょうどいい政権が南に生まれた。
文在寅政権は平昌オリンピックの2017年11月ごろに秘書室長がレバノンで北朝鮮と会っていたという。秘書室長は北と完全につながっており、UAEから原発に関してクレームが来て、それを説得しに行くというのが口実だった。そして平昌オリンピック以降、トランプを騙してうまくやろうという作戦で全部シナリオを練り、今年に入ってそれを実行していった。
つまりは『非核化ショーと平和ショー』。世界が関心を持っている『非核化』というキーワード、いわゆる南北協調路線によってトランプ大統領をなんとか騙していこうと。トランプ大統領は安保のこともよく知らないようだしということで文在寅大統領サイドでは、アメリカに対して様々なロビー活動を行っていた。また北朝鮮も、北朝鮮に行ったり来たりしているシンガポールの財閥を通じて利益供与、鉱山の利権やカジノの利権を渡しますからと言って、イバンカさんの旦那さんのクシュナー氏を通じてロビー活動をやっていたとの情報もある。
もちろんトランプ大統領の中国から北朝鮮を離そうという作戦もあったかと思うが、そういうロビー活動もあって米朝首脳会談が実現したが、だんだんボロが出てきている。金正恩と文在寅がやった非核化ショーはそろそろ賞味期限が切れてきている。金正恩政権は変化しないということが特徴だ。ここが何か変化するとなったら、米中関係からしても、中国は朝鮮半島全体を自分のほうに引き寄せてパワーバランスを変えようとしているわけだから、日本にとっても大変なことが起こるのではないかと思っている。」
島田洋一氏(福井県立大教授)は「拉致問題解決に向けた政府への注文と懸念」について話した。
▲写真 島田洋一 福井県立大学教授 ©Japan In-depth編集部
島田氏は以下のように発言した。
「拉致問題に特化してそこから何が見えるかを考えたい。安倍首相は若い頃から拉致問題に取り組んできて、救う会副会長の立場で安倍首相とは何度も話をした。首相がどのようなことを考えているかわかっているつもりだが、最終的には日朝首脳会談の形を通じて解決しなければならない。これは首相自身が何度も繰り返している言葉だ。
大事なのは第一次小泉訪朝形式であってはならない、第二次小泉訪朝形式でなければならないということ。これは安倍さんも十分把握していることだと思う。第一次小泉訪朝の時は外務省主導で将来的な日本の支援の話がメインで、拉致被害者は5人だけ生きていると。その5人についても彼らを日本に帰すつもりは全くなかったわけだ。北朝鮮はむしろ『日本にいる両親に北に会いに来て欲しい』と言わせて、首尾よく日本から家族が北朝鮮に会いこさせようとした。そうすると『日本でとにかく救出運動はやめてくれ』、『お父さんが救出活動をやり続ける限り自分たちの命は危ない。孫がどうなってもいいのか』などということを拉致被害者に言わせて親を黙らせようと北朝鮮は進めてきた。幸い日本の世論の怒りの声もあって、その5人は日本に帰ってくることになった。
▲写真 日朝首脳会談前に握手を交わす両首脳 平成16年5月22日、小泉総理は平成14年9月以来、1年8ヶ月ぶりに北朝鮮を再訪問し、金正日国防委員長と首脳会談を行った。 出典:首相官邸
ただ、外務省は1次帰国という形で北に戻すつもりだったわけだが。北朝鮮はまた仕掛けてくると思うのでそれは排除しなければならない。第二次訪朝形式というのは、小泉さんが行って事前に話し合いをつけた上で帰りの飛行機に拉致被害者の子供を乗せて帰ってきたわけだ。
▲写真 24年ぶりの拉致被害者の帰国 2002年10月15日 拉致被害者5名(地村保志さん・富貴惠さん、蓮池薫さん・祐木子さん、曽我ひとみさん)が帰国し、家族との再会を果たした。 出典:外務省
今度もし日朝首脳会談を安倍さんが北朝鮮でやるとした場合、帰りの飛行機に横田めぐみさんを、拉致被害者を全て乗せろと合意を取り付けた上で行かなければならない。いまはそのための水面下の交渉の段階だと考えている。ちなみに横田めぐみさんに関しては生存しているとの複数の情報を得ているので、私個人は生きておられるのではないかと確信している。
▲写真 横田めぐみさん 昭和52年(1977年)11月15日に拉致された。 出典:北朝鮮による日本人拉致問題
問題もある。北村滋内閣情報官が北朝鮮側と接触したとの話が出てくるが、相手は統一戦線部だ。統一戦線部は第一次小泉訪朝時に『5人だけ生きている。あとは全部死んだということでいきましょう』というシナリオ書いた連中だ。そのため、そのシナリオで行けると主張し続けないと自らの命が危ないという連中だ。北村氏は恐らくそういう連中であっても相手方の情報を取ろうということで会っているのだと思うが、その北村氏接触の情報が表に出ると統一戦線部ルートが極めて重要なものであるかのようにクローズアップされてしまう。
▲写真 北村滋内閣情報館 出典:内閣官房
リークしているのは外務省であることは間違いない。外務省は自分たちのルートを中心にしたいがために、北村氏ルートを潰そうと『北朝鮮側に北村とあってもすぐ情報が漏れるからやめておけ』というメッセージを送っているわけだ。国内の勢力争いでリーク合戦をしていると相手の思うツボになる。北朝鮮は、金正恩と金与正(キム・ヨジョン)、この2人が権力を持っている。そこにルートをつけないとお話にならない。保身にとらわれている下の連中に会っても仕方がない。金与正と話をまとめるルートを今どこまで日本政府が進めているのか明確なところは分からない。本筋のところでしっかり話をつけていってもらいたい。
▲写真 米朝首脳会談で署名する北朝鮮の金正恩委員長と金与正(キム・ヨジョン)党第一副部長(一番左) 出典:Twitter Donald J. Trump
私はトランプという人は非常に俗悪な男だが、非常にしたたかな人間だと思っている。人事は政策、パーソナル・イズ・ポリシーというが、彼の人事を見ていると極めて理念的にも明確な強硬派を国家安全保障補佐官に据えている。それだけでも私は安心できると思う。ボルトンは北に先制攻撃しろと主張してきた人だ。北がまたミサイルを売ったり、核実験をしたりすると、それこそトランプは一夜にして態度を変えるだろう。
『人間の屑だ』とトランプなら言うだろうし、側近ボルトンも軍事攻撃を主張しかねない。そういう圧力を今アメリカ側はかけている。一番大切なのは制裁をしっかり維持して抜け穴を防ぐこと。北朝鮮にとっては、お金を取ろうとしたら日本からしかないとこちらに寄ってくる。トランプはシンガポールでそういうことを言っている。核を完全廃棄したら制裁を解除するし、そこから先の経済援助が欲しければ、それは日本に頼めと言っている。これをアメリカがしてくれるというのは大変ありがたい話だ。アメリカはマキシマム・プレッシャー、最大限の圧力を維持するという言い方もしており、抜け穴を塞ぐ作業をどれだけできるのかということがポイントになってくる。
最大の抜け穴は韓国政府で、韓国の様々な代表団が北にしょっちゅう行っている。ホテル代の名目で2、3千万の金を置いてきたりしていると聞く。アメリカの財務省当局や在韓米大使館が韓国の大手金融機関に対して北に変な格好で金を渡したら金融制裁の対象にするぞという脅しをかけているようだが、日本もそれに協力して、韓国も制裁対象になるのだという意識で厳しく接していかなければいけない。
▲写真 北朝鮮金正恩委員長と握手する文在寅韓国大統領 2018年4月27日 出典:Korea.net
最後に、第1次小泉訪朝を仕切った田中均氏が、合同調査委員会を設置して拉致被害者の安否について北朝鮮と日本が共同で調べるという提案をしたらどうかと言っている。しかし、我々は以前からこの提案を批判している。安倍首相も官房長官当時に『犯人と一緒に調べようというのはおかしい』と言っていた。安倍首相が在任する限り、そんな提案に乗る心配もないとは思うが。
▲写真 田中均 日本総研国際戦略研究所理事長 2015年5月27日 出典:公益社団法人日本記者クラブ
この合同調査委員会の発想は、北朝鮮が拉致被害者はみな死亡したとの返答を出してくることを前提として、しかもそれを受け入れることを前提として、では実際どうなのかを調べましょうということにつながる。北朝鮮に行って本当にしっかりした捜索ができるはずはないわけで、その捜索を時間かけてやっていますという、世論をもみ消すための枠組み作りだ。そのように拉致問題をごまかして日朝国交正常化に持っていきたいという外務省的な、田中均氏の発想になるわけだが、こういうものをしっかりとまず潰さなければならないと思う」。
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