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.国際  投稿日:2018/12/30

「変わるアジアのパワーバランス」 Japan In-depth創刊5周年シンポ その1


Japan In-depth 編集部

【まとめ】

・「変わるアジアのパワーバランス」をテーマにJID創刊5周年記念シンポジウム開催。

・中谷氏は「自衛隊が動ける体制作りと、日米同盟の強化し日本の主体性を高めることが大切」と述べた。

・古森氏は「米中対立原因は価値観・体制の違いなので長引く。影響を考え正面から論じなければ」と話した。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43454でお読みください。】

 

2018年11月28日「Japan In depth 創刊5周年記念シンポジウム」が日本記者クラブで開かれた。「変わるアジアのパワーバランス」をテーマに、4名の論客を迎え、流動化するアジアにおける日本の安全保障の未来について、討論が行なわれた。

はじめにモデレーター役の安倍宏行編集長が開会の挨拶を述べた。

安倍: Japan In-depthは、私が5年前にフジテレビを退社して創刊したウェブメディアです。Japan InーdepthのIn-depthの意味は真相。ニュースをより深く知るという意味でニュースのバックグラウンドが視聴者にきちんと伝わっていないのではないかという問題意識から創刊した。きょう登壇いただいているコメンテーターの皆様は寄稿者であり、多大なるご貢献を頂いている。私たちは、主に外交を中心にニュースの裏側、ニュースの持つ意味は何か、分析を加えて日々発信している。

今日は『アジアのパワーバランス』というテーマで大きく変動している国とアジアの安全保障情勢だからこそ、きちんとした分析・多角的な見方が必要だと日々感じている。そういう思いで創刊記念のシンポジウムを開いた。今回は多数の方にお越しいただき大変感謝申し上げる。これからもニュースの分析をお届けしていきたい。どうぞご愛読ください。

進行はフリーアナウンサーの桑原りさ氏。

桑原りさ: アジアのパワーバランスというと、2018年は朝鮮半島激動の時代。シンガポールでのトランプ大統領と金正恩委員長との米朝の歴史的な会談が実現するという激震が走ってから早半年が経ちました。世界中が注目した朝鮮半島の非核化はどうなったのか。トランプ氏の影響はどうなっていくのか。2018年の最大の注目点、アメリカの中間選挙を受け今後の世界情勢がどのように変わっていくのか。各専門分野に詳しい一流の論客にお集まりいただきました。早速4名のパネリストの皆様より発表いただきたいと思います。

続いて、各登壇者による問題提起が行なわれた。

中谷元(なかたに・げん)衆議院議員(自民党 元防衛大臣)は 「アジア極東圏の安全保障」について。  

▲写真 ©Japan In-depth編集部

「(JID創刊時の2013年と比べ)安全保障情勢が激変し、現在政府は防衛計画大綱の見直し作業を行っている。与党としても政府から報告を受け、防衛大綱を作成、閣議決定する。機動防衛力・統合力などの変遷に沿って、安全保障情勢に合わせて大綱をつくっていく。

わが国周辺の安全保障情勢の変化について言えば、北朝鮮の核ミサイル開発、6回の核実験、ロフテッド発射、複数同時発射、移動式発射台、潜水艦発射など、北朝鮮の技術が急速に上がってきたことがあげられる。中国も国防費を30年間で51倍に増やしている。東シナ海・南シナ海への進出を強めているが、ロシアがウクライナからクリミア半島を占領した際にとった「ハイブリッド戦」、つまり正規軍ではなく非正規軍や相手国の兵力も使った巧妙な作戦で進めている。特に東シナ海では、中国の「海警」が人民軍の指揮下に入り、軍事の系列で運用されているが、「海警」は人民警察、警察力という位置づけだから、わが国は海上保安庁が対処する。しかし、いつこれが軍になるかわからない。また、偽装漁民・漁船も警戒が必要だ。日本の水産庁にあたる「漁政」がこういった漁船をコントロールするが、これは軍事組織の系列に入った。日本は中国の巧妙なハイブリッド戦に備えなければならない。

南シナ海はこの5年間で軍事基地化され、アメリカの自由航行作戦に対して中国船が接近したことで非常に緊張が高まっている。

国際社会は、宇宙・サイバーの新たな領域を(重視している)。この点はNATOが非常に先進的に対応していて、武力攻撃であるのか、国際法上どうなのか、あるいは対応の仕方等について4年前にタリン・マニュアル(=「サイバー戦に適用される国際法に関するタリン・マニュアル」)を作った。米国・ロシア・中国もサイバー支援に力を入れる時代になっている。サイバーテロがあり、国家対国家の構図に加えてホームグロウン型の国際テロの脅威がある。アメリカは、ペンス副大統領の演説に象徴されるように、中国・ロシアに対して新たに脅威認識を持って覇権主義に対峙していく戦略だ。

もう一つはアジア太平洋戦略。安倍総理が以前(2012年)、ダイヤモンド構想というものを打ち上げているが、日本・インド・オーストラリア・アメリカ、このインド太平洋地域の協力関係を講じるという戦略だ。

今度の大綱の方針のキーワードは4つ

1つは「クロスドメイン」。すなわち多次元横断防衛構想。宇宙・サイバー・陸海空自衛隊別々ではなく、それぞれクロスドメインを行うということ。

2つ目は「列島線防衛」。これは中国の軍艦や航空機が沖縄と宮古島の海峡を抜けて頻繁に太平洋に出てくることに対して、どう対応していくかということ。

3番目はやはり同盟国・友好国との連携強化、「コスト・インポージング(Cost-Imposing)」。日本語で費用負荷。抵抗力を持って相手にコスト、負荷をかけて力を消耗させることで攻撃を阻止すること。

4つ目は「予算」。いくら立派な防衛大綱を作っても、5年間の中期防の予算は約25兆円に制約されている。1%枠は維持されているが、これだけのことをやるには予算も必要だ。

一番大事なのは実際に自衛隊が動ける体制をつくること。後方の整備や弾薬の補給、人の管理など所要のことをしていかなければならない、というコンセプトで考えている。同時に、従来の日米同盟の延長線ではなく、日本が主体的にできることをできるだけ増やしつつ、同盟を強化していく。特に抑止力、対抗力の面で日米のあり方について検討している」と述べた。

古森義久氏(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)は「米中関係は今」というテーマで話した。

▲写真 ©Japan In-depth編集部

「私は国際報道を長くやってきた。ワシントンが一番長く、ベトナム・中国に2年、ヨーロッパも見てきた。我々が一番関心があることは、日本の平和をどうやって守っていけばよいのか、ということ。これまでの日本の中での議論、特にマスコミの傾向は国の外を見ないものであった。平和というのは日本の国内の治安が良いということではなく、周りの国との関係において、戦争がない、安定している状況を指す。平和を考えるとき、これを崩そうとする国家群あるいはテロ組織を見ることが一番重要なことだ。

だが、日本ではマスコミも国会も、日本の平和を乱すどのような脅威があり、どんな能力があるのかということを正面から論じることが少ない傾向にある。どこかの国の軍備が異常に強力になっていて、日本を射程に入れる中距離ミサイルが無数にあるという状況になっても、その国がどこの国で、どういう能力を持っているのかということをなるべく具体的には言わない方が良いと考える傾向がある。それを言うとかえって相手を刺激してよりまずい状況を招くという感覚がある。しかし、やはりあるものはあるんだということを認めていくことが安全保障、平和を考えるときの一番最初の作業なのではないか。それが非常に欠落している状況が戦後続いてきた。

そのような背景を踏まえ、アジアのパワーバランスを改めて考えるというのは日本の国のより良いあり方を考える時、非常に良いアプローチだ。まず、米中関係の大枠について3つのポイントを話す。2001年から2018年の間の米中関係の変化はものすごく大きい。

2018年の11月現在の米中関係、1つ目のポイントは米中の対立の規模の巨大さだ。国際情勢を根底から揺るがす規模の大きさだ。世界経済面で第1のGDP、第2のGDP。軍事力でも第1、第2の大国だ。米中の対立、駆け引きによって日本と朝鮮半島の安全や安全保障が根底から揺さぶられてしまう。今の国際関係激動の最大要因はやはり米中関係だ。その米中関係が今極めて険しい厳しい状況になってきている。

2つ目は米中関係の厳しさ、険しさには長い歴史、深い根があるということ。アメリカと中国が国交樹立したのはほぼ40年前の1979年。それ以前の第二次世界大戦時は中国とアメリカは手を取り合って日本と戦った。しかし、その後すぐに1950年に朝鮮戦争が起き、今度はアメリカと中国が朝鮮半島で血みどろの激戦を展開したという歴史がある。それを乗り越えて79年にやっと国交を結んだ。それ以来のアメリカの中国政策というのは簡単に言うと関与政策、すなわちエンゲージメント政策。これは、私たちの元へいらっしゃい、仲良くしましょう、中国はまだ弱く貧しいけれど強く豊かにするために我々は援助しますよというもの。そうすれば中国はアメリカや日本など民主主義陣営に近い形になり、我々の側、すなわちアメリカが中心となって築いてきた戦後の自由民主主義の国際秩序に中国が普通の一員として入ってくれるだろうと期待していた。これが関与政策だった。

ごく最近になってこの政策が失敗だったとの認識が広がり、中国はアメリカの期待していた方向に全く動いていないという認識になってきている。今トランプ政権の周辺では「今までの対中政策がエンゲージメントであったとすれば、今からやる事はディスエンゲージメントである。今まであった絆を外していく、遠ざけてゆく」と言われている。カップリングは人と人を結びつけるときに使う言葉だが、今アメリカが中国にやろうとしているのはディカップリングだと。米中の絆というのは、いろいろな面で対立しながらも協調することが多かったが、これをやはり減らしていってしまうということ。

何故かというのは後ほど説明するが、こういう状態になったその根底には、自由民主主義のアメリカと一党独裁体制の中国という全く違う政治体制がある。今まで仲良くやってきたことが不思議なわけで、今それが変わってきた原因は本来の基本的な政治の価値観や体制の違いによるものだ。そういうことはあまり言わずに仲良くしようとやってきたが、それがあまりうまくいかなかった。

3番目のポイントは、簡単に終わらないということ。これは1と2をつなぎ合わせれば当然出てくる結論だ。簡単に手を結んで手打ちになるということはない。長く険しい米中のせめぎ合いがこれから続いていくだろうということ。米中の関税問題もなんとなくどちらかが勝ってどちらかが傷ついて負ければ終わり、お互いがこれ以上戦うのをやめようということになれば手打ちになるので、関税戦争もやがて終わるだろうと思われる。しかし、決して現在の米中の対立は関税、貿易面だけではない。政治、安全保障、社会、そして貿易の背後にある経済体制、経済を運営していく仕組み。世界貿易機関(WTO)の国際基準に反していても「まぁいいじゃないか」と。中国が変わってこちらと同じようになるプロセスなのだから大目に見ようということで今まできたのが、それはそうはいかなくなったというわけだ。

貿易・関税の問題が解決してもまだまだ軍事的な対立や政治的な対立、台湾の問題をどうするのか、チベットの問題はどうするのか、あるいは日本に対してアメリカと中国がそれぞれどんな対応を取るのか、いろいろなところにギャップがあってそう簡単には片付かない。そのことが日本に今後どのような影響があるかを我々はは考えざるを得ない局面にいる」と話した。

その2に続く。全5回)

トップ写真:©Japan In-depth編集部

 

【訂正】2018年12月31日

本記事(初掲載日2018年12月30日)の本文中、「寛容政策」とあったのは「関与政策」の間違いでした。お詫びして訂正いたします。本文では既に訂正してあります。

誤:それ以来のアメリカの中国政策というのは簡単に言うと寛容政策、すなわちエンゲージメント政策。これは、私たちの元へいらっしゃい、仲良くしましょう、中国はまだ弱く貧しいけれど強く豊かにするために我々は援助しますよというもの。そうすれば中国はアメリカや日本など民主主義陣営に近い形になり、我々の側、すなわちアメリカが中心となって築いてきた戦後の自由民主主義の国際秩序に中国が普通の一員として入ってくれるだろうと期待していた。これが寛容政策だった。

正:それ以来のアメリカの中国政策というのは簡単に言うと関与政策、すなわちエンゲージメント政策。これは、私たちの元へいらっしゃい、仲良くしましょう、中国はまだ弱く貧しいけれど強く豊かにするために我々は援助しますよというもの。そうすれば中国はアメリカや日本など民主主義陣営に近い形になり、我々の側、すなわちアメリカが中心となって築いてきた戦後の自由民主主義の国際秩序に中国が普通の一員として入ってくれるだろうと期待していた。これが関与政策だった。


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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