[藤田正美]<「クリミア併合」急ぐプーチン>欧米に打つ手はあるのか 金融市場は大荒れの予感
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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3月16日に行われたクリミア自治共和国の住民投票。この住民投票でロシア編入に96.7%の賛成が得られたという結果を受けて、ロシアのプーチン大統領は、ロシアの議会で行った演説でこう表明した。「市民の自由意思の表明に基づいてクリミア共和国とセバストポリのロシア連邦に受け入れる」
この急な動きはおそらく欧米諸国の想定を超えるものだったはずだ。キッシンジャー元米国務長官は、ワシントンポスト紙への寄稿でこう書いた。
「クリミアを併合することは、現在の世界秩序に反するものだ。しかしクリミアとウクライナの関係をより安定したものにすることは可能であり、そのためにロシアはクリミアに対するウクライナの主権を認め、ウクライナはクリミアの自治権をさらに拡大すべきである」(How the Ukraine crisis ends By Henry A. Kissinger)
プーチン大統領がこれだけ強硬な姿勢を見せるのは、欧米は結局、たいしたことはできないと踏んでいるからだ。アメリカは制裁に踏み切ったとはいえ、その効果は限定的だ。EU(欧州連合)もアメリカと共同歩調を取っているが、加盟28カ国の足並みが揃っているとは言い難い。むしろ制裁の段階を上げていくにつれ、意見の相違が表面化する恐れは十分にある。
実際、フランスは制裁措置を強化するときには、ロシアと契約しているヘリ空母をサスペンドするとも語っている。しかしそれは加盟国が同様の制裁措置を発動することが条件であるとしている。中でも、イギリスがロンドンにあるロシアオリガークたちの資産に対して同等の制裁措置を取ることが必要だという。
イギリスだけでなくロシアの資産に頼っているような国もある。ギリシャやキプロスなどがその例だ。もしこうした資産が凍結を恐れてこれらの国から流出するようなことになれば、EUの「弱い環」が再び崩れる懸念もある。そこにウクライナというもう一つの経済的な「弱い環」が加わるということは、EUにとってもそう簡単な話ではない。
いまウクライナは、東部を中心にロシア語系住民とそれ以外の住民で対立が深まっているようだ。暫定政府はしきりに「外部勢力による挑発」に乗らないよう呼びかけている。しかしもし東部ウクライナで住民同士の対立が深まったりすれば、ロシア系住民の保護を名目にロシア軍が介入する可能性もないとはいえない。
これだけ急テンポで事態が動くと、今週の金融市場は大荒れになる懸念もある。そうなったら、日本もとても対岸の火事などと言ってはいられない。
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