ゴーンと司法
.社会  投稿日:2019/3/21

薬物問題 回復への道 高知東生氏


Japan In-depth 編集部

 

【まとめ】

俳優の高知東生氏をゲストに、薬物問題を話し合った。

・依存症は治療できる病気であり支援の対象、との理解必要。

・メディアは「薬物報道ガイドライン」の順守を。

 

3月12日、俳優のピエール瀧さんが麻薬取締法違反で逮捕され、連日メディアで取り上げられている。そんな中、3月20日放送のJapan In-depthチャンネルのテーマは「薬物問題を考える」。

 

「ギャンブル依存症問題を考える会」田中紀子代表理事、精神科医で国立精神・神経医療センター、精神保健研究所、薬物依存研究部部長の松本俊彦氏、俳優でタレントの高知東生氏の3人をゲストに迎え、薬物への理解、薬物報道について話し合った。

 

高知氏は2016年に覚せい剤取締法違反などの罪で逮捕、現在は執行猶予中の身として、松本氏らの支援を受けながら回復を続けている。驚いたことに高知氏に松本医師を紹介したのは麻薬取締官だったという。高知氏は、松本氏に初めて会ったときの印象を「物腰が柔らかく僕らの立場になって、上から目線でなく話してくれる。自分の中で閉じこもっていたが、先生の前だと正直に話すことができる。」と語り、2人の信頼関係をうかがわせた。

 

田中氏、松本氏の両氏は、「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」の発起人でもある。このネットワークは、薬物やギャンブル、アルコールといった依存症の市民団体、当事者団体、家族、治療者、研究者らによって構成されており、テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアで見過せない「問題報道」がなされたときに「協議し、改善を求めていくこと」を主な活動としている。ネットワークが2017年に提案した「薬物報道ガイドライン」(※1)について、詳しく両氏に聞いた。

 

・「依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること」

 

松本氏は、依存症は「精神保健福祉法という法律にも定められたれっきとした精神障害で、治療や支援の対象」であるということを強調。また、薬物問題は刑罰の対象ではなく支援の対象とするよう、国際連合が各国に勧告していることを説明し、「日本が全面的に従う必要はないが、国際的にはそうだという視点も意識してほしい。」と、述べた。

 

高知氏は「依存症は治療可能な病気であること」を知らず、知らされた時「すごく心がほっとした。」と話す。現行犯逮捕時、麻薬取締官に「ありがとう」と発言したことが話題となったが、取締官を見て思ったことは、「これでやめられる」ということだったという。「つかまったらどうなるのだろう、ということが頭をよぎりながらも、やめられなかった。」と当時の苦しさを吐露した。ギャンブル依存症を克服した田中氏も、「(病気だとわかった時)私もほっとした。性格の問題や人格の問題といわれたらどうにもならなかった。でも病気だから治せると思ったら救われた。」と、共感を示した。

 

・相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること

・友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること

・「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと

 

松本氏は、依存症の人だけでなく、家族も自分達を責めていることや、薬物だと通報されたらどうしよう、という不安を抱えていることが多いという事実を紹介した。自分達が悪いのではなく、病気で解決策はある、あるいは同じ悩みを抱え、回復している他の家族がいる、ということを知ることは、当事者である家族の精神的な状態を良くし、それが結果として本人の回復につながる、と述べ、「病気からの回復」を周知することの重要性を説いた。

 

高知氏は当時、「(誰にも)相談できなかった。」と振り返る。特に家族に知られないために頭を使い工夫を凝らし、「ばれないことが絶対に大事」だと思って日々過ごしていた、と話した。

 

なお相談機関としては、「精神保健福祉センター」という厚生労働省の組織がある。全国に設置されており、松本氏によると薬物でも守秘義務は守られ、自助グループの情報もあるそうだ。

 

・メディアが「避けるべきこと」

・「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと

 

松本氏によると、薬物依存症の人たちは「粉」や「注射器」等のイメージショットがテレビの画面などに出るたびにまたやりたい、という欲求が起き、実際に再び使ってしまう人もいるそうだ。また同時に、薬物乱用のリスクが高い若い人たちの興味をひく危険もはらんでいるという。「回復をしている人たちの足を引っ張」り、リスクの高い人の「背中を押す」、こういった報道は「社会に危険を振りまいているような報道」だと述べた。今回ピエール瀧さんの件で、またこういった報道が増えているという。

 

・薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと

 

テレビのワイドショー等に出演する「コメンテーター」は、薬物依存という健康問題の回復支援の専門家ではないため、彼らの発言の多くは事実と乖離している、とした上で田中氏は、「何の権利があって言っているのか。」と批判した。安倍編集長も、「これはメディアリンチと言ってもいいのではないか。」と述べ、SNSの登場で個人の発信が容易になり、メディアがそれに乗っかって大衆受けするコンテンツを拡大再生産している実態に対し懸念を示した。

 

高知氏は、「『再犯』という言葉は勘弁してほしい。」とふり絞るように語った。一度薬物に手を染めた人間、特に50歳以上の人の再犯率は高い、などという言説がメディア上に流れたため、折角サポートをしようとしてくれた人たちが離れて行ってしまったという辛い経験をしたという。それを聞いた安倍編集長は、「(メディアが)立ち直ろうとしている人たちを追い詰めることはすべきではない。これから治療をし、回復して社会人としてまっとうに生きて行こうと思っている人の道を閉ざす権利は誰にもない。」とメディアの影響力を指摘した。田中氏も、「社会復帰して働いてもらって社会貢献した方が、私たちのためにもなる。なぜ受け入れられないのか。」と、疑問を呈した。

 

田中氏らは、このガイドラインについて、地道に周知活動を続けているが、一部テレビなどでは、相変わらず薬物使用者に対し直接的バッシングが見受けられる。「新たに出会った、支えてくれている人たちをもう裏切りたくない。」高知氏は真摯な面持ちでこう話す。依存症は孤立の病ともいわれる。メディアは彼のような、回復への努力を続けている人たちやその支援者の足を引っ張る存在であってはならない。

 

最後に松本氏は、「『捕まる前に助けを求めて』というメッセージを流してほしい。」とメディアに求めた。

 

薬物、アルコール、ギャンブルなどの依存症は病気であり、回復が可能だ。難しいかもしれないが、抱え込むのではなく、専門機関に足を運んでほしい。

(本記事は、2019年3月20日放送のJapan In-depthチャンネルの放送内容を要約したものです。)

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※1「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」からの提案(2017.2.1)

【望ましいこと】

・薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること

・依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること

・相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること

・友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること

・「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと

・薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること

・依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること

・依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること

 

【避けるべきこと】

・「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと

・薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと

・「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと

・薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと

・逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと

・「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと

・ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと

・「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと

・家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと

 

トップ画像:左から高知東生氏、松本俊彦氏、田中紀子氏、安倍宏行編集長 ©Japan In-depth編集部


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