高知東生氏自叙伝「生き直す」発売に寄せて その1 自分の過去を公にした訳
田中紀子(ギャンブル依存症問題を考える会代表)
【まとめ】
・高知東生氏、自叙伝「生き直す―私は一人ではない―」を刊行。
・ギャンブル依存症を考える会田中紀子代表が高知氏にアプローチ。
・その場で「一緒に依存症の啓発活動をやってくれないか」と頼んだ。
高知東生氏が2020年9月4日に自叙伝「生き直す―私は一人ではない―」(青志社)を刊行する。
高知氏の回復過程をつぶさに見てきたものとして、高知氏の目線以外からも高知氏の回復や葛藤、苦難の道のりを語りたいと思う。
なお、この記事を書くにあたって事前に高知氏ご本人より「隠すことは何もないので、第三者の目線で率直に書いて欲しい」と許可を得ていることを申し添える。
高知東生氏が、大麻取締法違反及び覚せい剤取締法違反で逮捕されたのは、2016年6月24日のことであった。我々依存症の回復支援に携わるものとしては、もちろん高知氏の回復過程を気にかけていたが、有名人だけになかなか接触する機会は得られなかった。
ところが2019年2月になり、高知氏がTwitterを再開していることを知った筆者が高知氏をフォローした所、高知氏がフォローを返してくれ、我々はTwitterのダイレクトメッセージ機能で直接やり取りができることとなった。
高知氏がなぜ私の様な一民間人をフォローしてくれたのか。高知氏は、逮捕の際にマスコミからは徹底的に叩かれ、かつては親しい間柄にあったと思っていた芸能記者からも「迷惑だ」などと発言され、非常に傷ついていた。もちろん自業自得と諦めてもいたが、その中で唯一、私がアゴラに書いた高知氏への論評が高知氏の救いになったとのことで、この記事の筆者であった私の名前を記憶してくれていたからである。
こうして私たちは初対面を果たすことになった。
初めて高知氏と出会った日のことは良く覚えている。高知氏は物腰も柔らかく、とても礼儀正しい人という印象を受けた。最初は、私の自己紹介やこれまでの活動など挨拶代わりにお話しさせて頂き、ぎこちない会話が続いたが、私自身がギャンブルやその他のことで様々にやらかしてきた過去について話すと、高知氏も笑いながら「すごいね~!」などと話しを聞いて下さり、打ち解けることができた。
そこで率直に「高知さん、私と一緒に依存症の啓発活動をやって下さいませんか。高知さん自身が、依存症の自助グループに繋がり、プログラムを受け、それを発信して欲しいのです。」
すると高知氏は当然のごとく「俺、もう薬物は止まっているし、やりたいという気持ちもありません。それに過去の自分のことは誰にも話したくないし、とにかく執行猶予があけるまではそっとしておいて下さい。これまでも就職活動などしたんですが、皆さん、執行猶予明けるまでは難しいというので、そこまでは自分で頑張ろうと思います。」と答えられた。
ギャンブラー気質の私はここで賭けに出た。断られてもひるまず更なる攻めに転じてみたのである。
「高知さん、今何もしてくれない人は、執行猶予が明けても何もしてくれません。体の良い言い訳に使っているだけです。大切なのは『今』たった今なんです。それに高知さんの執行猶予がいつ切れるかなんて、高知さん以外誰も気にしちゃいません。こだわっているのは高知さん自身です。」
「執行猶予は謹慎期間なんかじゃありません。社会へ再起するために期間であり、無事社会復帰すれば刑は執行しないというのが本来の意味です。芸能界の勝手な「自粛」の嵐で、執行猶予期間が誤解され我々依存症からの回復を目指すものは迷惑を受けています。今こそ高知さんがどんな回復プロセスをたどっていくのか、発信して欲しいのです。これは高知さんにしかできません。高知さんの経験が役に立つのです。」
高知氏はこの言葉に意外にも「俺の経験が人の役に立つ?それは嬉しいね・・・」と独り言のように呟かれた。私は、その言葉を逃さず「そうです。高知さんが隠したいと思っている経験は、私たちには大きな価値があります。恥を価値に変えて欲しいのです。」とたたみかけた。
すると高知氏は、「俺が人の役に立てるとは思っていなかった。必要とされることは嬉しい。でも、他にも適任者はいるんじゃない?なんで俺なんですか?」と質問された。
そこで私はここでもう一歩大勝負に出た。「だって、高知さん大穴じゃないですか。薬物だけじゃなく、愛人とラブホテルでキメセクですよね。最悪ですよ。それでも回復できるってなったら、誰だって回復できるって思えますよ!」と言った。
高知氏は「大穴かぁ」と苦笑しながら「じゃあ、何かお役に立てることがあれば・・・」と言って下さった。
のちに聞いたところによると私のこの失礼を省みない直球勝負は「この人にはかなわない」というあきらめの気持ちと、ここまでスパっとはっきり言いきってくれるところに、どこか気持ち良さがあったと語ってくれた。
ギリギリで賭けに勝った私はこの時、「まずはJapan In-depthさんのニコ生で話しをさせて貰えないか?聞いてみよう。」と心の中で考えていた。
▲動画 Japan In-depthチャンネル「薬物問題を知ろう!」 https://youtu.be/qfhk_pOnpuE
(その2に続く)
トップ写真:JIDチャンネルに出演する高知東生氏と田中紀子氏(2019/03/21) 出典:Japan In-depthチャンネル
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この記事を書いた人
田中紀子ギャンブル依存症問題を考える会 代表
1964年東京都中野区生まれ。 祖父、父、夫がギャンブル依存症者という三代目ギャンブラーの妻であり、自身もギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持つ。 2014年2月 一般社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表理事就任。 著書に「三代目ギャン妻の物語(高文研)」「ギャンブル依存症(角川新書)」がある。