[古森義久]<G8からロシアが抜けG7に>アメリカ中心の「G7の無力」を示すだけにすぎない?
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
G8がG7になるという。
ロシアの無法なウクライナ領奪取に対しての制裁だという。 これは一体、なにを意味するのか。G7とかG8というと、東京での初めてのG5サミットを思い出す。
当時、毎日新聞のワシントン駐在特派員だった私は、時のアメリカのジミー・カーター大統領に同行して、羽田空港に着き、東京都内で取材にあたったことを思い出す。もう35年も前の1979年6月のことだった。
世界の主要国の首脳が東京に集まり、しかも日本の首相がその会議の議長になるというのだから、日本の「国際化」の華やかな幕開けとして 東京は沸きに沸いていた。 さてこのGとは、Groupの頭文字である。だからG5はGroup of Five,G7はGroup of Sevenの略となる。いくつかの諸国が集まって、グループをつくることを指すわけだ。
出発点はG5だった。1975年にフランスの首脳の主唱でイギリス、西ドイツ、アメリカ、日本の合計5カ国の首脳が集まって、会議を開いた。当時は先進国5カ国首脳会議と呼ばれた。このときの発想は厳しい東西冷戦のなかで、共産主義独裁体制のソ連と対峙する民主主義国家が団結し、経済や安全保障について協議することが目的とされた。
だからG5の声明は冒頭で「われわれ民主主義国家群は」とうたっていた。非民主主義のソ連と対決していくという基本意思の表明でもあった。そのG5はやがてイタリアを加えてG6となり、カナダを含めてG7となった。日本語での名称も「主要国首脳会議」と変わっていった。
G7の側は東西冷戦で完全な勝利をおさめた。対立相手のソ連を倒したのだ。 そしてソ連の後に非共産主義のロシアが登場したため、1998年にはG7はそのロシアを正規のメンバーに加えて、G8となった。会議の目的もマイルドになった。
今回はロシアの軍事侵略行為への制裁のために、G8をG7にするという。「主要国」の会議からロシアを除名するというわけだ。だがG8というのは、そもそもとくに拘束力も、 権限も持たない緩い協議の場にすぎなかった。
ロシアにとってその協議の場から外されても、実害はあまりないだろう。軍事力によるウクライナの一部のクリミアの奪取という既成事実はいささかも揺るがない。アメリカを中心とするG7側の無力を示すだけにすぎないだろう。
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