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.国際  投稿日:2019/9/8

北東アジア情勢は日米関係をどう変えるか その1 韓国離反の「禍」を日米結束の「福」に


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・米は韓国の対日措置に「失望」表明も動揺せず。対日批判は皆無。

・背景に3国安保協力は崩れないとの認識と文政権への期待の低さ。

・日米同盟への信頼が期せずして増す、日本には「禍転じて福」の展開。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47787でお読み下さい。】

 

■ 北東アジア情勢が動揺と緊迫の気配を強めてきた。

日本を囲む韓国、北朝鮮、中国、ロシア、そしてこの地域の安全保障で最大の抑止勢力となってきた米国までが現状の保持か打破かをめぐる複雑なパワーのせめぎあいを始めた観となった。

激変や衝突をも懸念させるこのうねりはなにを原因とし、どう展開するのか。そしてわが日本はどう対応すべきか。

まず朝鮮半島、とくにいま日米両国に期せずして難題を突きつけた韓国関連の動きから論考を始めよう。

韓国による日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄は私がいま取材の拠点とする米国の首都ワシントンでも波紋を広げた。米国防総省報道官は韓国の文在寅政権の行動に「強い懸念と失望を表明する」と非難した。だがなおトランプ政権にはこの事態に苦痛な衝撃を受け、あわてふためくという気配はない。

理由の第一は今回の動きで米韓同盟や米韓日三国の安保協力の根幹が崩れはしないという認識だろう。

文政権は日本糾弾を強めながらも米国にはすり寄る姿勢をみせた。文在寅大統領自身、対米同盟の堅持という一線は少なくとも表面では一貫して保ってきた。やはり恩師の廬武鉉大統領が対米関係を最悪にして自壊の一途をたどった前例が教訓なのかもしれない。

第二はトランプ政権の文大統領への期待がそもそもきわめて低いという背景だろう。

トランプ大統領はかつて文在寅大統領の北朝鮮へのおもねりを「宥和」として非難した。ポンペオ国務長官は公式の場で文政権の北朝鮮認識を誤りだと断じた。文氏はトランプ氏とはそもそも世界観が違うから、対米同盟に依存しながら実際には同盟の主旨に反して漂流する本質を米側は知っているということだ。

▲写真 米韓首脳会談。トランプ政権の文在寅政権への期待は低いという。(2019年6月30日 韓国・ソウル)出典:The White House flickr (Public domain)

トランプ政権はこのところの日韓対立には直接に介入しない方針をとった。どちらかの肩をもつことで他を刺激する危険を避けたのだろう。だが政権内外では非は韓国にあり、という判断がにじんでいた。

韓国研究では米国学界でも有数の権威とされるスコット・スナイダー氏(外交問題評議会米韓政策研究部長)がいまの日韓対立は文大統領が国内政治のために対外政策を利用し、対日関係を犠牲にする形にした結果だとする見解を語ったことが注視された。スナイダー氏はワシントンでの8月の公開シンポジウムで「文大統領が慰安婦問題での日韓外相合意に基づく財団を解散し、さらに元徴用工問題での韓国最高裁の判決を放置したことが対日政策を誤らせた」と述べ、今回の日韓対立の原因はまず文政権にあるとの見解を明示した。

▲写真 スコット・スナイダー米外交問題評議会米韓政策研究部長 出典:COUNCIL on FOREIGN RELATIONS

米国メディアも日韓対立について両国の一般国民レベルでの動きの報道では韓国側の感情的な日本叩きだけを詳細に伝える形となった。日本側にはその種の乱暴な反韓行動がないことはいやでも印象づけられた。韓国のGSOMIA破棄についてのトランプ政権や米国議会の反応をみても、韓国側への非難があいつぐなかで、日本への批判がまったくないことが目立つ。

トランプ政権に限らず、米国の北東アジア政策全体で今回の韓国の措置が日米同盟への依存や信頼を期せずしてまた増すという効果が明白なのである。

日本にとっては禍が福と転じる展開だともいえよう。

だがその背後には日本にとって韓国とはなんなのか、安全保障上の対韓認識の真実の時が迫ったこともみすえねばなるまい。

(その2に続く。全4回)

編集部註:この記事は古森義久氏が自由民主党の機関紙「自由民主」に依頼された寄稿論文の転載です。同論文は「不透明さを増す北東アジア情勢と日米関係」というタイトルで4回の連載となっています。今回の掲載はそのうちの「日米韓三国体制の真実」という題の第1回です。

トップ写真:日米韓首脳会談(2017年7月6日ハンブルク)出典:外務省ホームページ


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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