朝鮮半島情勢ー金正恩の真の狙いとはー
.国際  投稿日:2019/8/26

GSOMIA破棄、抗議より無視を


島田洋一(福井県立大学教授)

「島田洋一の国際政治力」

【まとめ】

・GSOMIA破棄に日本は積極的に動く必要なし。日米安保強化に集中を。

・米の韓国への根本的不信はすでに定着。白日の下になったに過ぎず。

・予想される対米ネガキャン「韓国の愚挙は日本のせい」には厳しく反論を。

 

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韓国の文在寅政権が、米政府の度重なる説得を振り切る形で、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄した。ポンペオ米国務長官は、韓国政府に対する「失望」を表明した(日韓両政府に対する、ではない)。

またある米政府高官は、「これは、文政権が集団的安全保障に真剣に関与する意思があるのかという根本的な疑問を白日の下に晒した」と不信感を露わにしている(ウォールストリート・ジャーナル電子版、8月22日)。当然ながら、日本を批判する声は聞こえてこない。

これで十分である。

▲写真 ポンペオ米国務長官(2019年8月9日) 出典:Secretary Pompeo twitter

韓国政府が北朝鮮や中国と陰に陽に連携しつつ展開する虚偽歴史戦については、日本はしっかり反論し、制裁を含めたしかるべき対応を取っていかねばならない。主目的の1つが、いまだ東京裁判史観が蔓延する世界において、「歴史」を武器に日米を分断することにあるからだ。

しかしGSOMIA問題については、日本政府は何も積極的に動く必要はない。文在寅政権と「協議」することもない。「解決策」は文在寅政権による自主的な復帰以外になく、今後日本としては、韓国を顧慮することなく日米の安保緊密化に集中すべきだろう。その点、韓国という夾雑物が薄まった分、むしろ環境は改善されたと言える。

ところが日本政府の反応中に気になる文言が見られる。「(韓国政府に対し)断固として抗議したい」(河野太郎外相)、「政府としては韓国側には強く抗議を行っているところだ」(岩屋毅防衛相)などである。

 

▲写真 河野太郎外相(左)と岩屋毅防衛相(右)は韓国への「抗議」を表明した。 出典:河野外相(外務省ホームページ)/岩屋防衛相(防衛省ホームページ

北朝鮮の核実験、ミサイル実験に際しても日本政府は常に「抗議する」という言葉を用い(そして強い対抗措置は取らず)心ある人々の軽侮を買ってきたが、GSOMIAに関してはとりわけ不適切という他ない。

「抗議」は基本的に、力関係において弱い側が強い側に対して起こす行為である。「安倍首相の決定に自民党の一部や官僚が抗議した」とは言っても、「自民党の一部や官僚の言動に安倍首相が抗議した」とは言わない。

米政府同様に「失望」か、更に踏み込んで、「常識を取り戻すことを望む」「愚かさを憐れむ」くらいが適当だろう。

北の核実験、ミサイル実験については、「相手が後悔せざるを得ないよう強く対応していく」とし、実際措置を取っていくというのが基本だ。相手が聞くはずのない「抗議」を飽かずに繰り返す姿は恥ずかしい。実際、米政府がこうした場合に「抗議(protest)」という言葉を使った例を、筆者は寡聞にして知らない。

「とりあえず抗議だけして様子見」が、日本外交の第2の体質と化しているため、単に放置すべき韓国の愚行に対しても、ついつい「抗議」が口を突いてしまうのだろう。

北朝鮮への擦り寄りを外交の基本とする文在寅周辺は、そもそも北が強く批判する日本とのGSOMIA締結に反対だった。好機を捕らえて北の意を迎えたと見るべきで、特に驚くべき展開ではない。アメリカより北の反応を気にするのが文在寅政権である。

 

▲写真 文在寅大統領(右)と北朝鮮の金正恩委員長(左)。背を向けているのはトランプ米大統領(2019年6月30日 板門店) 出典:青瓦台 facebook

先に引いた米政府高官のコメントが、文政権の姿勢に「根本的な疑問を抱かせた」ではなく「根本的な疑問を白日の下に晒した(laying bare)」となっているのは示唆深い。すでに根本的不信は定着しているのであり、今回の件はそれを「白日の下に晒した」に過ぎない。「北の脅威に対する日米韓の連携」といった空虚な言葉は死語にすべきだろう。

今後韓国は、「ここまで愚かなことをせざるを得ないのは、過去の清算を巡って日本の対応が余りにもひどいからだ」という対米キャンペーンに全力を挙げてくるだろう。それに対しては、しっかり腰を据えて、厳しく反論していく必要がある。

トップ写真:韓国・文在寅大統領(2019年8月23日) 出典:文在寅大統領 facebook


この記事を書いた人
島田洋一福井県立大学教授

福井県立大学教授、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)評議員・企画委員、拉致被害者を救う会全国協議会副会長。1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。著書に『アメリカ・北朝鮮抗争史』など多数。月刊正論に「アメリカの深層」、月刊WILLに「天下の大道」連載中。産経新聞「正論」執筆メンバー。

島田洋一

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