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.国際  投稿日:2019/9/10

北東アジア情勢は日米関係をどう変えるか その2  トランプ政権完全非核化堅持


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

 

【まとめ】

・北朝鮮政策のカギは米国が握っている。

・報道に反し、トランプ政権は「完全な非核化」政策を堅持。

・米国の威嚇が、日米が望む朝鮮半島の新秩序を展望させる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47839でお読み下さい。】

 

北東アジアでの目前の最大不安定要因といえば、やはり北朝鮮だろう。

北朝鮮が果たして公約どおりに核兵器を放棄するのか。

金正恩体制がどうなるのか。

日本にとっても拉致されたままの同胞たちの命までがからむ深刻な課題である。

 

だがこの課題を左右する最大の権能はやはり米国の手中にある。その米国の北朝鮮政策がいま多方面から疑問を呈される。

 

「北朝鮮の完全非核化はあきらめたのではないか

「金正恩委員長に操られているのでは」

北朝鮮の軍事脅威を軽視する?」

 

というような批判的な認識だといえる。

 

だがトランプ政権の姿勢は6月30日の板門店での金委員長との唐突な会談で象徴された。年来の米朝接触では北朝鮮は自国側からの周到な根回しがなければ、決して応じなかった。

 

だが今回はトランプ大統領の突然のツイッター一本で金委員長が飛んできたのだ。米側の強固な経済制裁が変わらず、北側が困窮してきたからだろう。

 

米朝両首脳の会談でトランプ大統領には在韓米軍司令官エイブラムス将軍が密着していたことはあまり報道されなかった。同司令官はその場で「米軍はいかなる軍事脅威にも即応できる態勢にある」と言明した。

写真)エイブラムス将軍(右)

出典)United States Forces Korea

 

トランプ政権全体として首脳同士がなごやかな会話を交わしても北朝鮮の核を含む軍事脅威への警戒は崩さず、米軍は臨戦態勢にあることの明示だった。

 

それでもなお未確認情報の報道が流れる。

 

「トランプ政権は当初のCVID(完全で検証可能な不可逆的非核化)の目標を後退させ、核凍結で満足するようになった」

「完全非核化を最も強く主張するボルトン国家安全保障補佐官が大統領から排された

 

こんな最近の報道だが、いずれもトランプ政権当局者はまちがいだと断じる。だが日本のメディアもその米側の不正確報道を事実であるかのように転電する。

 

だがこの種の情報は反トランプに徹するニューヨーク・タイムズのような媒体から流れる場合がほとんどだ。政治上の対立が政権の外交政策の評価をも巻き込むのである。反トランプのメディアにはトランプ政権のすることはなんでも失敗と弾じる偏向姿勢が露骨なのだ。

 

トランプ政権の当事者たちはその種の報道を一貫して否定し、「完全な非核化」政策の堅持を強調する。ボルトン補佐官もなお北朝鮮政策の中核に位置している。だがワシントンでのそんな実情は東京にはなかなか伝わらない。

 

日本でのトランプ政権の北朝鮮政策の正しい読み方のカギはこのへんの偏向フィルターを除くことである。

 

表面でみる限り北朝鮮はこの2年ほどで国家としてのあり方を根幹から変えた。建国以来の米国敵視を止め、憲法で明記した核兵器保有も止めると宣言した。朝鮮民主主義人民共和国ではなくなるような変化だった。

 

この変化を起こしたのはトランプ大統領の2017年の国連演説での「北朝鮮の完全破壊」の威嚇だとする見解が米側では支配的である。ボルトン補佐官の次席として国家安全保障会議で活動したフレッド・フライツ氏はそう明言した。北があくまで核兵器や長距離ミサイルを保持するならば究極は軍事攻撃だというトランプ大統領の宣言に金委員長が恐怖に駆られたというのだ。

▲写真 ジョン・ボルトン大統領補佐官(左)とフレッド・フライツ安全保障政策センター所長(2018年3月) 出典:Fred Flieitz.com Photo Gallery

 

トランプ大統領は軍事手段をちらつかせて、厳しい経済制裁を続ければ、金委員長は必ず非核への道を進むとみているようだ。北朝鮮という核武装の無法国家の危険性を骨抜きにしつつあるという自信でもあろう。その先には朝鮮半島の米国が望む新秩序の展望がちらつくわけだ。日本にとっても歓迎できる新秩序である。

 

だから同大統領はゆとりをみせ、北朝鮮の短距離ミサイル発射にも動揺を示さない。日本にとっては不満な反応だが、北朝鮮の脅威の本質を抑えれば、韓国にしか届かない短距離ミサイルは危険ではなくなるという思考なのだろう。

 

トランプ政権の日本人拉致事件の解決への協力姿勢はなお堅固にみえる。日本人拉致を北朝鮮の人権弾圧全体の重要部分に組み込んで解決を迫る構えを強め始めたことは歓迎すべきだ。

 

だがなお金正恩委員長が米側への約束を実行するか否か。予断を許さぬ緊迫が当面は続くといえよう。

 

(その3に続く。その1。全4回)

 

編集部註 この記事は古森義久氏が自由民主党の機関紙「自由民主」に依頼されて、掲載された寄稿論文の転載です。同論文は「不透明さを増す北東アジア情勢と日米関係」というタイトルで4回の連載となっています。今回の転載はそのうちの第2回目、「米国が迫る北朝鮮の大転換」という題の記事です。

 

トップ写真)金委員長とトランプ大統領

出典)Flickr; The White House

 


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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