超高層ビルはこれ以上必要か?その4~東京都長期ビジョンを読み解く!その77
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
【まとめ】
・水害による停電でライフラインが破綻。
・タワマン防災マニュアルに水害は考慮されていないが、東京は「世界一危ない場所にある」。
・タワマン住民の災害に対する事前周知・対策推進必要。
■被災した高層マンション
先日の台風19号で、多くの河川が氾濫して大変な状況は続いている。被災した方々、大変だと思うが、頑張ってほしい。二子玉川付近が被災した世田谷区のハザードマップを見て、ハザードマップを確認することの大切さを改めて感じた次第である。
そうした中、対岸の町である川崎市武蔵小杉、タワー・マンションが被災したことが話題になっている。
【現状】24階まで停電、全戸で断水。エレベーターが使えない
【原因】マンションの地下の配電盤が壊れ
復旧まで「1週間」とも「見込みが立っていない」とも言われている。住民の方は大変だと思う、どうにかしのぎきっていただきたい。
▲写真 武蔵小杉のタワーマンション 出典:Creative Commons ペン太
過去、京浜工業地帯を支えた工場地帯。工場の撤退・移転により、その跡地がタワーマンションが建設され、多くの住民が流入。その交通の要所でもあり、住みたいまちランキングでは軒並み上位になったが、この町も岐路を迎えそうである。
■ライフラインが完全に喪失
この連載において、高層マンション、いわゆるタワマンについて災害時のリスクを明記しようとした矢先の出来事であった。今回の台風19号もだが、災害時に停電がきたらアウトに近い。水は出ない、トイレが流せないし、そもそもエレベーターが動かないので家までたどり着く、降りるのがとても困難である。電気に依存している場合には、ほぼ何もできない。災害時はどの住居や住民も普通困難を抱えるが、その被害は莫大になる。
タワマンの防災時のリスクは、以下の図のようになる、
▲出典:筆者作成
結果、通勤通学の社会生活に、買い物ができなというライフラインが破綻する。最悪の場合、連絡不能になる。
健常者でもそうなのだから、しょうがい者や介護を受けている方にとっては危機と言っても過言ではない。今回、電気が使えない場合ということは、タワマンのメリットでもある「セキュリティ」も機能しないということでもある。「快適」というメリットも状況によってデメリットに転化してしまうのだ。
ちなみに、建築設備耐震設計・施行指針のお陰で、高圧受電装置や排水設備の耐震性やガス配管などの安全性はかなり高くなっているし、非常用発電機の設置が義務づけられていることは記しておこう。
■タワマンでの防災マニュアルはある
さて、タワマンの防災について、行政では、各区などは「マニュアル」を作成し、行動を促している。これらの特徴は水害が範囲に含まれておらず、防災=地震対策になっている。水害まで考慮はできていなかったようだ。
しかし、「荒川右岸低地氾濫の場合、浸水世帯数約51万世帯、死者約2,000人」とも言われてる。
▲出典:国土交通省 ハザードマップポータルサイトから筆者作成
どう考えても浸水域にはタワーマンションが数多くある。
利根川の東遷をはじめ、明治43年の東京大水害を契機にした荒川放水路の掘削事業など降の治水対策が功を奏したかもしれない(筆者の評価は違うが)。それでも、江戸時代は記録に残るだけでも大きな水害が市中で120回以上発生した。しかし、地球温暖化が進む中、もっと大きなものがくるかもしれない。風の巨大化は海面水温度上昇が原因なのだ。そもそも東京は「世界一危ない場所にある」。特に、堤防は都心部側を守るため右岸堤防は高くかつ厚く建設され、左岸堤防は低く・薄くつくられたため、依然江戸川区などは相当に警戒が必要だろう。
■早めの助けを!
タワマン建設の安全面に厳しく規制をかけてきたことは認めるが、やはりタワマン住民に防災についての事前周知、対策推進はもちろん必要になるだろう。町内会よりも住民とのコミュニケーションが難しいエリアだから余計にである。
今回は別だが、万が一、タワマンが被災する時は、他の多くの住宅も被災している。災害救助においても、すぐにでも着手できる低層住宅とは違い、高層まで助けに行くという困難があるのが事実。そのため、住民は優先順位的にも遅くなる可能性もあることも覚悟なり、考慮に入れた方がよさそうだ。
最後に。普通の暮らしすらできていない今、早くタワマンで被災している方を一刻も早く救っていただきたい。被災状況では普段の生活も成り立たないからだ。
次回はタワマン建設規制について考える。
トップ画像:タワーマンション(イメージ) 出典:flickr photo by Tadashi Okoshi
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。