神宮外苑再開発にも一応の意味はある~東京都長期ビジョンを読み解く!その102~
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・外苑の再開発問題を多くのメディアが取り上げるようになった。
・再開発のメリットは、税を投入せずスポーツ施設の建て替えが可能になったこと。
・都が「再開発等促進区」を設定したことで、民間主体の都市再開発が可能になった。
東京都の神宮外苑問題。以前から私は神宮外苑の再開発問題を指摘してきたのだが、多くのメディアがやっと取り上げるようになった。説明会も行われたものの、裁判に訴える動きもでているので、そこで白黒つけてもらえればとしか思えない。神宮外苑地区は「都心最後の一等地」であり、東京五輪の際にも問題になっていたのだが、なぜか世論の注目は浴びなかった。
説明会での質疑応答を見ていると、この計画は進行中であり「今さら」感はあるものの、外苑のイチョウの木を残したい人は行動すればいい。ただし、行政主導の再開発ではないので、納得いかなくても仕方ない面もあることは理解しておいた方がいい。個人的に長年批判してきたが、再開発にもそれなりの意味があることを忘れてはいけない。
それはなぜか、再開発のメリットは、神宮球場など、税金を投入しないで建て替えが可能になったことなのだ。
【出典】東京都都市整備局「神宮外苑地区 よくある質問と回答」
■ 神宮外苑の再開発で
宗教法人明治神宮、独立行政法人日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事株式会社、三井不動産株式会社が主体となった都市開発。
28.4ヘクタールにわたる広大な土地ではあるが、
・広場空間の不足
・スポーツ施設の老朽化
・狭い道路が多く、歩行者の回遊性が乏しいことなど
といった課題を解決していこうとしている。工事着工は2024年、2036年に完成する予定だそうだ。
【出典】神宮外苑まちづくりHPより前後比較
過去の経緯を整理すると以下のようになる。
1926年:明治神宮外苑地区一帯は景観保護のため日本初の「風
致地区」に指定
1970年:条例で高さ制限が15メートルに
2003年11月:共同機構、東京都都市再生協議会、東京防災ま
ちづくり協議会が「東京都防災まちづくり計画事業提案書」
を作成
2013年6月:東京都が「再開発等促進区」を設定
2015年4月:都、JSC、明治神宮、高度技術社会推進協会、
伊藤忠商事、日本オラクル、三井不動産らが「神宮外苑地区
まちづくりに係る基本覚書」を締結、再開発へ
2018年11月:東京都にて
2021年7月:東京五輪
2022年3月:聖徳記念絵画館前のエリアを加えた整備計画の範
囲にて、東京都より都市計画決定告示
2023年2月:神宮外苑地区第一種市街地再開発事業、東京都知
事より施行認可の公告
2036年:神宮外苑地区市街地再開発事業、全体完成
【出典】筆者作成
上記のような経緯があるのだが、2013年6月に東京都が「再開発等促進区」を設定したことがそもそもの発端である。容積率を緩和し、建物の高さを最高で80メートルまで緩和してしまったのだ(この問題は連載で指摘していく)。民間主体の都市再開発が可能になった理由である。
■ 企業の利益
今回、三井不動産に対しても批判が集まっているが、ディベロッパーのビジネスはそんなビジネスなのだ。東京都心は「都市再生」のもとに高層ビルだらけになってしまった。なぜかというと小泉政権時の「都市再生」で規制緩和をしたことによって、都市開発は儲かるビッグビジネスになってしまった。簡単に考えてみれば、頑張って地権者を説得して土地を集約し、高層ビルを建設、新たに地上の空間を部屋にして転売し、金に換えるということだ。
【出典】東京都都市整備局HP
大都市なのだし、建物は歴史・時代と共に入れ替わってきた。江戸開府以来、何年もの変化が続いてきたわけである。「企業利益優先」と批判するのもいいが、企業のビジネスに頼らない場合、公的資金、いわゆる税金で補足しないといけなくなる。今回の外苑の問題は、税金からスポーツ施設などの建設費をねん出しないで済んだことを押さえるべきだ。
ただし、民主主義的に言うと、「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針」の策定に当たり、パブリックコメントを実施していたが、全く話題にすらならなかったし、東京都知事選挙も2回ほどあった。政治とメディアの問題は、今後、問題提起を行っていく。
トップ写真:神宮外苑のイチョウ並木 出典:Hajime Seki / Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。