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.政治  投稿日:2023/3/22

英断?ばらまき?・・・子ども1人月5000円給付にみる政治的思惑と政策効果〜東京都長期ビジョンを読み解く!その101~


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・都は次年度予算に子育て支援に1兆6000億円を投資。

・正確には子育て家庭支援であり、少子化対策につながるかどうかは論理的に違う。

・低所得者層に支援を手厚くし、最低限度の生活を保障することこそ「子育て不安解消」につながる。

 

東京都は次年度予算に子育て支援に1兆6000億円を投資する。

チルドレンファーストを掲げて、小池都知事が子供1人当たり月5000円の配布を決めたことは、非常に評判が良い。正直、いろいろな意味で驚嘆した。流石である。教育費の全国平均と比較して足りない分を補填するということだ。

政策評価の専門家として言わせてもらうと・・・

・目的・必要性: 〇

・有効性: △?

・効率性:〇

・公平性: ✖

ということで、新規事業としての評価は全体としては残念ながらNOという評価である。

しかし、少子化対策に対して何らかのアクションを起こそうとする政治家、小池百合子さんのセンスは本当に凄いと思う。①特定の層へのサポート、②政治的失地回復、③岸田政権への対処と言う意味でさすがアピールだと思う。

■ 正しいばらまきなのか?

月5000円。年間6万円。この背景に東京都ならではの悩みもある。第一に、東京から近隣県に子育て家庭層が流出しているという事実がある。背景にコロナ下での生活、東京の住宅価格高騰が言われている。第二に、岸田政権の動きである。東京圏から地方に移住する世帯について、18歳未満の子供1人あたり「移住支援金」を最大100万円配布することなどに取り組んでいる。この政策への対抗と言う意味もあるだろう。

こうした政策競争が起きることは大事だが、過度な東京一極集中を見ると、小池都知事の対抗策は妥当なのかと思ってしまう。

そもそも少子化対策というより、正確には子育て家庭支援であり、少子化対策につながるかどうかは論理的に違うとは思うのだ。子育て世帯を新たな支持層にする戦略にしか見えない。はたして「正しいばらまき」なのだろうか。

中央大学の山田昌弘教授によると、これまでの「少子化対策」では待機児童解消や育休などキャリアウーマン向けの子育て支援政策はかなり行われたが、高卒女性向けに焦点を当てた支援プログラムが不十分だったと評価されている。

子育て家庭の支援が少子化対策につながるのか、と言う点で疑問もある。子育てを大変ではないという思わせる、子育てを楽にする環境づくりという意味では少子化対策の一定の効果はあるかもしれないが、限定的であろう。

「少子化は国の存亡に関わる。東京がリーダーシップをとり、発想の転換を導かなければ」として必要性を小池都知事は強調したが、この言葉を聞いて白けてしまう自分もいる。これまで何十年もの間、政治家の立場で政策を推進する責任をもつ人として、いまさら何なの?過去の検証や反省は?という疑問を感じてしまうからだ。問題は子育てする環境よりも前に、結婚しない人たち、非婚化を手当てしないと根本的な問題解決のしようがない。

■ 所得制限には意味がある

今回の所得制限なしの給付は賛同をされていることも確かだろう。確かに、子育てしている中、一定の経済的支援は助かる家庭も多いからだ。

しかし、所得制限を撤廃することには反対である。児童手当の所得制限は年間830万円からである。日本国の世帯平均所得は552万円であるなか(若い人に限定するともっと低くなる)、相当「恵まれている」人たちまで含めているのだ。それだけの余裕がある人になぜなのかが根本的な疑問である。恵まれていて、結婚できた「勝ち組」でもあるのだから、経済的支援が必要だとは思えない。

逆に、低所得者層、フードバンクに通ったりせざるを得ない、生活が苦しい、そういった人たちにこそ手厚く支援すべきであろう。税金の使い道は、裕福な人たち、余裕のある人たちに再配分していたら際限がなくなる。そもそも日本の財政は苦しいのだから。

東京都は「DX」を積極的に進めてきたはずなので、低所得の子育て家庭に世帯所得別に3タイプ、月5千円、月1万、月2万で、手厚くすることだって可能であろう。重点的に低所得者層に支援を手厚くして、最低限度の生活を保障することこそ、「子育て不安解消」につながるのではないか。

政治は困っている人のためにある。

トップ写真:イメージ 出典:yamasan/GettyImages




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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