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.社会  投稿日:2020/2/13

コロナウイルス感染症は肺炎?


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・今回のウイルスの正体はまだ不明、本当に肺炎なのか疑問。

・新型コロナウイルスは、米欧諸国の報道では「肺炎」ではなく「感染症」や「伝染病」。

・中国政府の公式発表、「新型肺炎」を日本はそのまま受け入れたのでは。

 

中国のコロナウイルス感染症の世界的な広がりに関する各国の報道をみていて、気になることがある。日本ではこの伝染病を「肺炎」と呼ぶのに対して、米欧諸国の報道では「肺炎」という呼称はまったく出てこない点である。英語圏での報道はすべて「感染症」とか「伝染病」という用語なのだ。この差異はなにを意味するのだろうか。単に肺炎と断じる思考にこの緊急事態への甘い認識がなければ、幸せである。

中国の武漢で発生した新型コロナウイルスによる感染症はもはや全世界を恐怖に突き落とす重大事件となった。アメリカでも主要な新聞もテレビもインターネットも、あらゆるニュースメディアがこの危険なウイルスの拡散をさまざまな角度から日夜、報じるようになった。

日本でも同様である。2月12日現在、中国での爆発的な感染症の実態や日本をはじめ各国への影響も詳細に報じられ、論じられている。だがその報道の核心、中国でいま広がる伝染病は日本ではメディアでも、政府機関からも、「肺炎」と呼ばれる場合が最も多いようだ。「新型肺炎」という呼称が日本での正式の呼び名だといえよう。だが本当に肺炎なのか。

その一方、アメリカやイギリスの報道でも、政府機関の発表でも「肺炎(pneumonia」という言葉はふしぎなほど出てこない。みな一致して「コロナウイルス伝染病(coronavirus epidemic)」か「コロナウイルス感染症(coronavirus infection」である。その伝染病や感染症に結果として肺炎の症状が出たとしても、まだわからないのだから、単にコロナウイルスから発生する病気と表現することは正確だといえそうだ。

これに対して日本では米欧での表現も使われるが、主流はあくまで「肺炎」、「新型肺炎」なのだ。この「新型」という表現も正確には今回の感染症を引き起こしたコロナウイルスがこれまでに知られていなかったという意味の新型であり、肺炎自体を新型と称しているとは思えない。コロナウイルスには多数の種類があり、今回のウイルスの正体はまだ不明なのだ。

実際に今回のコロナウイルスが起こす感染症が普通にいうところの肺炎かどうかはまだ不明である。肺炎とは基礎的な医学の手引きによれば「感染によって引き起こされる肺の急性炎症」だとされる。常識的に考えても、肺の炎症が肺炎だろう。いま大流行する感染症の症状の一部に肺炎の症状があっても、この疾患自体が肺炎だとは断定できないだろう。

▲写真 新型コロナウイルスの症状 出典:Wikimedia: Mikael Häggström, M.D.

過去にコロナウイルスが引き起こした感染症には2003年ごろからの重症急性呼吸器症候群(SARS: severe acute respiratory syndrome)と2012年に表面化した中東呼吸器症候群(MERS)とがある。いずれも肺や呼吸器の炎症があったとしても、その程度は普通の肺炎の程度をはるかに超えたことは明白で、単に肺炎とはみなされはしなかったわけだ。

今回の感染症もその同類のコロナウイルスを原因としていることはわかっていても、では具体的にどんなコロナウイルスとなると、これまでの既知のコロナには入っていないということで、なお真相不明なのである。

こんな実情にもかかわらず、日本ではなぜ「肺炎」という呼称なのか。

その最大の理由は中国政府の公式発表をそのまま受け入れている点にあるように思われる。中国政府はこの感染症の広がりを公式に認めた1月下旬からこの病気を「肺炎」と呼んできた。

厳密には「新型肺炎」「新型冠状病毒肺炎」「新冠肺炎」などという呼称で、共通項は「肺炎」という用語だった。冠状病毒とはコロナウイルスのことである。

中国官営メディアはもちろんみなこの「肺炎」という表現を使っている。環球時報の英語版でもpneumoniaとかthe novel pneumonia(新型肺炎)という記述が一貫していた。だから中国当局はこの感染症の実態がまだ不明の段階から「肺炎」という断定を前面に押し出していたといえよう。その中国当局の表現に日本の官民も追随したということだろうか。

トップ画像:新型コロナウイルス 出典:Health.mil


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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