アルゼンチン、デフォルト不可避
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・新型コロナでアルゼンチン経済一層悪化。再びデフォルト危機。
・債務再編案は債権者に大幅譲歩を迫るもので交渉難航は必至。
・5月下旬に交渉期限の重大局面。IMFの関与がカギ。
新型コロナウイルスでアルゼンチン経済が一層悪化している。同国政府が経済再建を目指し、このほど発表した債務再編案の行方次第では再びデフォルトに陥るのは不可避な情勢である。
◇3年連続のマイナス成長
アルゼンチン政府の債務再編案は総額662億ドル超の外貨建て債券を対象とし、3年間の支払猶予期間を設けるとともに、利払いの62%カットと元本の5.4%削減を求める内容。利払いを約380億ドル、元本を36億ドルそれぞれ減らし、債権者に大幅譲歩を迫るものだ。
フェルナンデス同国大統領は「わが国は事実上のデフォルト(債務不履行)状態にある」と述べ、現状では債務返済が不可能であると強調した。
▲写真 債務再編案の概要を発表するフェルナンデス大統領(中央)(2020年4月16日 ブエノスアイレス・大統領公邸)
出典:Casa Rosada (Argentina Presidency of the Nation)
フェルナンデス政権は昨年12月発足したが、前政権下で膨らんだ財政赤字に加え、インフレ高騰、同国通貨ペソ安など“負の遺産”を引き継いだ。さらに外貨準備の大幅減少で債務状況が極度に悪化。同国の2020年の債務返済額は約490億ドルと、国内総生産(GDP)の13%に達するという厳しい事態に直面し、国際通貨基金(IMF)からの440億ドルの融資を含め当面約1000億ドルの政府債務の再編を最優先課題として取り組むことを余儀なくされた。
そこに今度は新型コロナに襲われた。アルゼンチン政府は他の南米諸国に先駆け国境封鎖や外出禁止令などの手段をいち早く取ったことから、感染拡大は比較的抑えられたものの、経済活動が事実上ストップ、経済苦境が一層深刻化する状況に。
世界銀行はこのほど発表した最新経済報告の中で、今年のアルゼンチンの経済成長率が新型コロナの流行によりマイナス5.2%に落ち込むとし、当初のマイナス1.3%の予測を大幅に下方修正した。2018年が2.5%減、2019年が2.2%減で、今年で3年連続のマイナス成長になるのは確実な見通しだ。
◇債務交渉は難航必至
債務再編に関してアルゼンチン政府は当初、3月末までに債権者側との交渉を終えたい意向だったようだが、新型コロナ対策もあって交渉が遅れたという経緯がある。今後最大の焦点は今回の債務再編案について債権者側の同意を得られるか、どうかだ。
アルゼンチン経済省高官は現地メディアに対し「新型コロナによるわが国への打撃を考慮し、経済回復を目指す“アグレッシブ”な案」と説明した。しかし、「アルゼンチン政府の一方的な提案であり、多くの債権者にとっては到底受けれ難い内容」(ロンドンを本拠とする中南米投資の有力会社)という声が上がるなど、国際金融界では不安が高まっている。
アルゼンチン国内でも、政府が提案した債務再編案には否定的な意見が多い。
ブエノスアイレスの有力経済紙「アンビト・フィナンシエロ」は「債務再編案は債権者の求めていたものから程遠い」「この再編案で合意が成立するとは信じ難い」といった専門家の意見を紹介。現地の経済アナリストの間でも債務再編交渉がアルゼンチン政府にとって厳しいものになり、難航は必至との見方が多い。
「債権者は元本の削減には応じないだろう。交渉の余地があるとすれば、3年間の支払い猶予期間ぐらいではないか」(ブエノスアイレスの投資コンサルタント)という意見もある。中南米の金融・投資市場の動向をカバーしている「ラテンファイナンス」誌(ネット版)最新号は「欧米の3つの債権者グループが4月20日、アルゼンチン政府の債務案を拒否し、修正を求めた」と伝えた。
◇IMFの関与がカギか
こうした中、アルゼンチンにとって最大の債権者であるIMFの関与にフェルナンデス政権が期待しているとの見方も出ている。
IMFは今年2月、ブエノスアイレスにミッションを派遣、アルゼンチン経済当局と協議した。その結果IMFは、アルゼンチンの債務水準が持続不可能との見解を表明、同国の債務の持続性を回復させるためには民間債権者の「意味ある貢献」が必要との声明を発表した。
これは、IMFがアルゼンチンに対し緊縮財政の実施を義務付けず、債権者に対する大幅な債務減免を事実上容認するものと、現地では受け取る向きが多い。
▲写真 IMF(国際通貨危基金)のクリスタリナ・ゲオルギエヴァ専務理事と電話会談するフェルナンデス大統領(右)(2020年3月21日)
出典:Casa Rosada (Argentina Presidency of the Nation)
英紙「フィナンシャル・タイムズ」はIMFとアルゼンチンの協議に関し「IMFがフェルナンデス政権側についたのではないかとの不安が広がった」などと報じた。一方、ニューヨークの有力投資銀行エコノミストは「IMFがこの債務再編案を最終的に認めるか否かが、アルゼンチン政府と債権者側との交渉のカギになる」と指摘する。
5月下旬が双方の交渉期限とされており、それまでに合意が成立するか否か、2001年に続きアルゼンチンがデフォルトを避けられるかどうかの重大局面が迫っている。(了)
▲写真 アルゼンチンのペソ紙幣
出典: flickr; Diego Torres Silvestre
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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、