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.社会  投稿日:2020/4/30

米、コロナ治療で障がい持つ人差別


ファイゲンバーム 裕香

「裕香のFrom California」

【まとめ】

・一部の州の災害対策計画で認知障がい持つ人の救命治療優先順位低い。

・障がいを持つ人々が救命医療を拒否される可能性が懸念されている。

・脆弱な人々にとり、すでにコロナのパンデミックは、不平等なもの。

 

感染拡大が続く新型コロナウィルスの感染者は、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学のまとめによると、4月27日時点で、世界全体で297万1831人となった。中でもアメリカが96万5910人で最も多くなっている。死亡した人は20万6553人で、アメリカが5万4876人と最多だ。

3月末に発表されたアメリカの医学誌New England Journal Of Medicineによれば、手指消毒剤や主に医療従事者が使う高性能のN95マスクなどの医薬品不足は深刻だが、最も問題なのは人工呼吸器の不足だと述べている。

新型コロナウィルスの感染が蔓延し、医療崩壊をしている現場では、不足している人工呼吸器の使用に関して、命の選択が行われている。どの患者に数の限られた人工呼吸器をつけるか、トリアージのガイドライン作りに、全米で議論が巻き起こっている。このトリアージ委員会は、前例のない危機に可能な限り多くの命を救うことが目的だと言われているが、死のパネル(death panel)と非難する人もいる。

特に、アラバマ州、ワシントン州、アリゾナ州が医師会に出したガイドラインが、ひどい差別だと批判の対象になっている。ワシントンとアラバマ州の災害対策計画では、「認知障がいのある人は、救命治療の優先順位が低い」と記していた。最近までアラバマ州の公衆衛生局のウェブサイトに掲載されていた州の方針によると、重度の知的障がい、進行性認知症を持つ人たちは、人工呼吸器の対象から外される可能性があるとも書かれていた。

Daily Beast誌のインタビューでアラバマ州に住み、ダウン症のMatthew Fosterさんの母親は、こう答えた。「私たちは大変激怒しました。私たちの州の意思決定者や政策決定者は、知的障がいのある人たちのことをほとんど考えていないし、IQスコアが実際に生きるか死ぬかを決定すると言っているようなものだわ」と話す。

その後、複数の障がいと共に生きる人の権利擁護団体が抗議した所、アラバマ州は政策を取り下げ、曖昧なガイドラインを新しく作成した。しかし、FosterさんとFosterさんの家族は、未だに不安だという。

疾病対策予防センターによると、およそ6100万人のアメリカ人が何らかの障がいと共に生活していて、それは人口の約26パーセントにあたる。2016年には、737万人のアメリカ人が知的、または発達障がいを抱えて生活していることが分かった。

非営利の報道機関Center for Public Integrityが30州の政策とガイドラインを分析した所、病院の人工呼吸器が足りない場合、25州で、障がいと共に生きる人を、救命治療の列の最後に送るというような規定がなされていた。他の20州では、特に政策はないか、まだ発表していない状況だ。

▲写真 人工呼吸器(イメージ)出典:Pixabay; Simon Orlob

医師や医療倫理の専門家は、これらの20州では、新型コロナウィルスの症例がピークに達する前に、対策を講じる必要があると述べている。専門家によれば、医師が誰が生き、誰が死ぬかについての悲惨な決定を下すことになり、無意識のうちに個人的な偏見や固定観念に頼ってしまうリスクが高まるという。

障がいを持つ人々の擁護団体は、ダウン症、脳性麻痺、自閉症などの人々は、新型コロナウィルスの流行が広まるにつれて、救命医療へのアクセスを拒否されるのではないかと懸念している。

そして、複数の擁護団体が、アラバマ州、カンザス州、テネシー州、ワシントン州の危機管理基準と呼ばれることもある割り当て政策について、連邦政府に正式な苦情を申し立てた。それに応えて、米国保健福祉省は、計画が差別的であってはならない、救命治療の割り当てにおける障がいを持つ人々への差別は違法だと述べた。しかし、擁護団体は、これだけでは差別が発生しないことを保証するのに、十分ではないと言う。ワシントン州やカンザス州でも、この苦情を受けて、医療及び医療の専門家の支援を得て、現在ガイドラインを更新していて、障がいを持つ人々の擁護団体と面談して、彼らの懸念に対処しているという。

特に知的、及び発達障がいのある人を含む最も脆弱な人々にとって、すでに新型コロナウィルスのパンデミックは、不平等なものであることは明確だ。ニューヨークの知的、発達障がいを持つ人々のプロバイダーのニューヨーク協会によると、知的、発達障がいのサポートサービスを受けている人は、新型コロナウィルス感染症を発症する確率が一般の人の5.34倍であり、4.86倍の確率で死亡することも証明されている。マサチューセッツでは、発達障がいを持つ人々のための国営施設の居住者の40パーセントが、新型コロナウィルスの陽性であった。知的障がいを持つ人々の45パーセントがこのパンデミックで、孤独感に苛まれている(一般の人は10.5パーセント)。

ハーバード大学の研究者で、障がいを持つ人の擁護活動家であるアリ・ネーマンは、NY Timesの取材に対し、人工呼吸器の優先割り当ては、障がい者差別につながると指摘し、「公正さは効率の名の下で、犠牲になるだろう」と書いている。命の価値は、人間みな同じであり、障がいを理由とした命の線引きは行われてはならない。数に限りのある人工呼吸器を、未曾有の医療危機でどの患者につけるか。倫理的な厳しい判断が求められる。この難問に答えはないだろうし、人工呼吸器を使えば救える命を、平等に扱う道があるのだろうか。

 

-参考-

State policies may send people with disabilities to the back of the line for ventilators

Why COVID-19 confinement is hitting people with intellectual disabilities hard

‘We Are in Crisis.’ COVID-19 Exacerbates Problems for People With Disabilities

トップ写真:トリアージタグを持つ人(イメージ)

出典)JOINT BASE ANDREWS


この記事を書いた人
ファイゲンバーム 裕香ジャーナリスト

1999~2004:株式会社テレビ西日本 (福岡)にて、アナウンサーとして勤務。

2004~2006:ウガンダ共和国 NGO Ashinaga Rainbow Houseにてケアテイカーとして従事。

2006~2007:東京放送株式会社 24 時間ニュースチャンネル NEWS BIRD 契約キャスター 。

2007 :NPO 法人MUKWANOを設立。

2009:イギリス ブラッドフォード大学 アフリカの平和と紛争学修士号取得

東京大学大学院 総合文化研究科 地域文化学科(国際貢献)修士号取得

 

現在、カリフォルニア在住。バイリンガルMCプロフェッショナル所属

ファイゲンバーム 裕香

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