仏、「ウイルスとの共存」へ
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・仏政府は5月11日に外出禁止解除、経済再開の目標表明。
・「経済崩壊」避け「ウイルスとの共存」を選択。背景に騒動の散発。
・学校再開には賛否。チェック日を設け段階的に制限解除へ。
フランスは新型コロナウイルスの感染拡大の中、すでに2万4087人(4月30日時点)が亡くなった。そして、現在でもまだ4207人が集中治療室で治療され続けている。しかしながら、フランスは5月11日に外出禁止を解除するという大きな目標をもち、現在その目標に向かい、確実に前進し続けている。
■ 経済崩壊を防ぐためにウイルスと共存していく
4月28日、エドゥアール・フィリップ首相による演説が行われた。その演説の冒頭で語られたのは、外出禁止がこれ以上長引けば「経済崩壊のリスク」があるということだ。そして、その「経済崩壊」を防ぐためにも、「経済活動を再開させ、ウイルスと共存しながら活動していく」それが、現在、フランスが目指そうとしていることなのである。
▲写真 エドゥアール・フィリップ仏首相(2020年4月30日)出典:Édouard Philippe facebook
「崩壊」という言葉を演説で使ったフランスの首相は今までいただろうか?この「崩壊」という言葉はかなりのインパクトをあたえたようで、演説後にフランスメディアも大きく注目する言葉ともなった。
実際に、外出禁止期間はフランス経済に大きな影響を与えている。2020年第1四半期(1~3月)の実質GDP成長率が前期比でマイナス5.8%と、過去最大の落ち込みとなった。2月の景気報告では0.1%増を予測していたにもかかわらずだ。これは、1949年から開始された四半期のGDP評価の歴史の中で最大の減少であり、これ以上のマイナスにならないためにも、国の経済を回復させていくことが重要なのは、誰の目にも明らかだろう。
また、3月の失業保険申請件数は前月比で24万6100件(7.1%)増となり、月次の伸びは1996年の公表開始以降で最大になった。これは、外出禁止を受け雇用自体がなくなったことと、就業停止による一時的失業という枠が増加したことが理由としてあげられる。しかしこの一時的失業者は会社の活動が再開されれば再び雇用者となることが約束された失業者ともいえるが、もし外出禁止が長引き、戻れる会社自体がなくなればそのまま完全失業者になる可能性もあるのだ。
さらに、外出禁止期間に大きく打撃を受けたのは低所得者層であり、テレワークができない層だ。例えば、パリの北東部に位置するセーヌ=サン=ドニ県は、フランスで最大の被害を受けた町だ。大部分が、最低賃金、失業者、または一時的な仕事から収入を得ている不安定収入の住民で構成されている町でもあったため、外出禁止により過酷な状況に追い込まれている。それらの町では、食料を買うお金にも困っている中、子供たちも学校で給食も食べられなくなり、食料配布を受けるために並ぶ人々の列が伸びている。今にも「飢餓による暴動」が起きるかもしれないと警告していた記者もいた。
「飢餓による暴動」はまだ起きてはいないものの、それでも、いくつかの騒動はおき始めている。18日に警察による検問で、バイクに乗っていた男性(30)が脚を骨折するけがをしたことが発端となり、パリ北部のビルヌーブ・ラ・ガレンヌで若者の集団が車に火を放ち、機動隊に爆発物を投げ付ける騒ぎが起きた。この騒動は数日続き、21日には小学校が放火される事件も起き、騒動は5つの町に及んだ。
またパリ郊外の他の町でも、いずれもまだ小さなレベルではあるものの、公共物などに火を付けられるようなことが起き始めている。筆者の近辺でも昔は危険な町とされてきたところがあるが、現在は大幅に改善され問題発生も少なくなっていた。しかし、この外出禁止期間中に約15年ぶりに車が2台燃やされるなどの事件が起きた。仕事も学校もない若者たちが警察の外出禁止の取り締まりが強化される中、ストレスがたまってきているのだ。
▲写真 「マクロナウイルス」とマクロン大統領を揶揄する落書き。題名には「40日間監禁」とも書かれている。(2020年4月25日撮影/パリ)出典:flickr / Paule Bodilis
このような状況を受け、5月11日からはテレワークは維持しつつも、テレワークでは働けなかった人たちも、できるだけ多くの人が活動していけるようにしていきたいというのが政府の希望だ。
■ 国民の反応
このフィリップ首相の演説の内容については、大多数の国民が賛成した。
OpinionWayの調査結果によると、承認率は、
テレワークの維持(93%)
公共交通機関でのマスク着用義務(91%)
スポーツと文化イベントの中止(82%)
証明書なしで移動OK(80%)
6月2日までの宗教儀式の禁止(80%)
高校の閉鎖を継続(77%)
集会は10人まで(77%)
朝市の再開(75%)
流行の影響が最も大きい地域には制限付きの解除(74%)
一クラスあたり15人の生徒の人数制限(67%)
少なくとも6月の初めまでカフェとレストランの閉鎖(62%)
保育園の再開(61%)
しかしながら、学校再開についてのみ、意見がわかれている。賛成は49%(反対と同数)となった。
■ 残る学校再開に関する問題
学校再開については以前から反対している保護者も多い。
学校を再開するのは、フランス経済を支える国民である保護者たちが働いている間に子供たちを預かることが一つの目的となっている。このことは4月12日のマクロン大統領の演説でも触れられていたため周知の事実だ。もちろんオンライン学習でできる不平等解消や、子供たちの社会的コンタクトを継続させる意味もある。それは誰もが理解しているのだが、それでもやはり気になるのは健康面だ。
▲画像 マクロン大統領による仏国民への演説(2020年4月12日)出典: 在日本フランス大使館
さらに、20日付の科学評議会(日本でいう専門家会議)の提言書に学校の再開は9月から推奨と記されていたこともあり、9月からの再開を望む声も大きい。また、学校側もどこまで安全な体制を整えられるか不確かであり、その結果、いくつかの市では、学校を再開しないと選択したところもある。
しかし、確かに20日の提言書では9月再開を推奨した科学評議会であるが、政府の意向もあり24日には5月11日に学校を再開するめの詳細を示す提言書を提出している。そこには10歳以上が感染する割合は大人と一緒の15%であるが、10歳未満は6%であること、小学生以下はアルコールジェルは危険なので、石鹸での手洗いを推奨するなど詳細な内容がつづられている。
その提言を受け、中学生の学校再開は18日より年齢の若い2学年からとなり、高校の5月中の再開は見送られた。そして学校にはこの提言書を元に作成される64ページになるマニュアルを送付する予定だ。この他にも、中学以上はマスク着用を義務とし、教師などに必要なマスクは5月11日までに届けることが約束された。
それでも、市長の判断により学校が再開されない場合は、学校が再開されない旨の証明書を提出することで、自宅で子供の世話をする保護者は一時的失業者として扱われることを可能にするとした。また、個人的に学校に行かせたくないと判断した家庭の場合も、学校に行かせるのは義務ではないが、教育を受けさせることは義務とし、オンライン教育に切り替えることを提案している。
■ 今後のステップ
このようにフランスは、経済崩壊を防ぐためにもウイルスと共存する道を選び、外出禁止解除に向けて前進している。そして前進を続けていけるかどうかの判断には、いくつかのチェック日も設けられている。
まず、5月7日には、外出禁止解除の最終判断が行われる。新たな感染者数や、集中治療室の患者の増加が認められれば、外出禁止が延長される可能性もある。そして、5月11日に無事に外出禁止がとかれた後は、次に、5月末に判断がくだされる。その時期に、すべてが順調に行っていることが認められれば、カフェとレストランの再開が許され、高校も再開される予定だ。
しかしながら、それでも、以前の完全な日常に戻ることはない。
商業施設では1mの距離や人数制限がある。またマスクの推奨など配慮する必要も。メトロ交通機関RATPは70%程度に回復するが、席は1m離れて座るなどの規則を守る必要がある。安全が確認されれば公園なども開放されるが、10人以上の集団利用は不可。大型美術館、博物館、映画館、コンサートホール、パーティールームは引き続き閉鎖され、5000人以上のフェスティバル・スポーツイベントなどは、9月まで不可。サッカーの2019-2020シーズンも再開されない。
と、もちろんまだまだ制限は多い。
しかし、段階的に、確実に、賢明に、制限を解除して、前進し続けようとしている。フランスは日常を取り戻すため、未来に向けての第一歩を踏み出したのは間違いない。
トップ写真:外出禁止で人の姿が消えたパリの凱旋門前の通り(2020年3月26日午後6時過ぎ)出典:flickr / ERIC SALARD
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。