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.国際  投稿日:2021/6/13

マクロン仏大統領に男がビンタ


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・マクロン大統領が地方訪問で男に平手打ちされる。

・平手打ちをしたタレル被告に禁固4ヶ月の実刑判決。

・タレル被告、意図的ではないとしながらも、告訴に異議を唱える気は「まったくない」。

 

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が地方訪問中にダミアン・タレル被告(28歳)から顔に平手打ちを受けた事件で、裁判所は6月10日、この男に禁錮1年6カ月(うち執行猶予1年2カ月、実刑4カ月)の有罪判決を言い渡した。また、今後、市民権を3年間停止され、5年間は武器の所有は許可されず、2年間は心理的な面について定期的な面談がある。4か月間は刑務所に入ることになるが、注目を浴びた事件だからといって特別扱いされることはない。

フランス・ドローム県タンレルミタージュで、事件が8日に起こってからメディアではセンセーショナルに取り上げられてきたが、危険なグループによる犯行ではないことが明らかになり、マクロン大統領は、この事件をそこまで大げさに扱わないでほしいと繰り返し述べた。

■マクロン大統領の反応

マクロン大統領を平手打ちした映像は、瞬く間に世界中に広がった(参考:ツイッターに投稿された動画)。国を代表する大統領が暴漢に遭うという衝撃的な事件だったからだ。タレル被告は警備用の柵の最前列に立ち、歩み寄ったマクロン大統領の腕をつかみ右手で頰を打った後、護衛に取り押さえられた。

事件をうけ、メディアは熱を入れて放送した。タレル被告が襲う様子を撮影していたとされる男性の家の家宅捜査の状況や、被告を知る周囲の人物の言葉を流した。押収されたコンピューターからタレル被告が極右のYouTubeチャンネルを登録していたことが発覚した。また、撮影していたとされる男性の家では、ヒトラーの著書「わが闘争」のコピーと剣や短剣、コレクター品のライフルなどの武器が発見され、「ヒトラーに心酔していた極右だったとは」と語る住民の声なども流れた。

一方、平手打ちされたマクロン大統領は、暴力に屈しないという言葉を述べたのちそのまま視察を続け、住民たちとの「セルフィー(自撮り)」に応じるなど変わらぬ姿を見せ公務を続けたのだ。また、その後のフランスのテレビ、BFMTVとのRMCの共同インタビューにおいて、暴力が一般化することには反対するが、この事件をあまり大ごとにしてほくないと語り、現在、仕事にも復帰できており、判断は裁判所に任せ、被害届を出すつもりはないことを述べた。

平手打ちをしたこと自体は「愚かで暴力的」ではあるが、個別の問題であり、社会全体が暴力化したという話ではない。相対的に考えれば今回のことは大したことではなく、それよりも問題になる暴力は配偶者によるパートナーの殺害であり、そちらには積極的に取り組んでいきたい。また、現在は、長く苦しかった抑制された期間も終わりに近づき、世の中がダイナミックに動いるところで、ポジティブに自分自身の生活を取り戻そう、失業者に仕事を見つけていこう、というメッセージを送りたいとしたのだ。

■平手打ちしたタレル被告の人物像

実際、平手打ちをしたタレル被告は、どのような人物なのであろうか。知人の証言によれば、「中世オタク」と認識されており、普段はとてもおとなしく暴力を起こす人物ではないという。

小さい頃に高知能であることがわかったものの、ディスレクシア(学習障害の一種で、知的能力および一般的な理解能力などに特に異常がないにもかかわらず、文字の読み書き学習に著しい困難を抱える障害)のため、学習困難の問題を抱えてきた。高校卒業試験は2回受けてようやく合格したが、卒業後に葬儀屋での6か月の訓練コースは最後まで続けられずやめた。その後、工場でも勤務するが、地獄のようなペースについていけずそこも退職している。

塗装会社に勤めていた父親のもとで、14歳の頃から建設現場などで働いてもいたが、脳腫瘍で父親が亡くなり、2年前から完全無職の身だ。母親はダンスの先生である。現在は、被告は生活保護を受けており月500ユーロ(約6万6千円)を受け取りながら、月900ユーロ(約12万円)の補助を受けている視覚障害のある女性と一緒に生活している。こういった生活を送っている中、黄色いベスト運動に共感していったのだろう。

ヒトラーの著書「わが闘争」のコピーを、平手打ちした瞬間を撮っていた友人に渡したのは彼だが、修正主義者ではなく、第2次世界大戦に興味があるだけのようだ。ヒトラーの恰好を真似た写真も出てきたが、それはただの冗談で、見せたら友人や彼女らが喜んだためであり、その後、ひげは剃った。YouTubeでは、極右のチャンネル登録をしていたことがメディアでは強調されもしたが、本人は自分は極右ではなくて、右派に近い愛国者だと述べている。

事前に、「マクロンはこの国の衰退を象徴している」と語り、友人らと共にマクロン大統領に卵かクリームパイを投げることを考えていたことは事実で、何かしようとは思っていたようだが、平手打ちは計画していたわけではない。

マクロン大統領が思いもよらず自分に近づいてきたときに、票を入れてもらうために感じよくしている嘘つきに見え、嫌悪感でいっぱいになったというのだ。そのため、平手打ちという衝動的な行動に走ったが、騎士道や個人的な活動とは何の関係もないと説明する。衝撃的な行動をしたことは反省している。その後に映像を見たが、マクロン大統領の腕をつかんだことは覚えていなかった。

また、平手打ちをした時、「モンジョワ、サン=ドニ! マクロン主義を打倒せよ」と叫んだが、「あれは、中世騎士の集合の掛け声だ。愛国的なスローガンだ」なのだそうだ。

タレル被告は、自分に対する告訴に異議を唱える気は「まったくない」とし、弁護士も、これまで裁判所の判決に対して上訴をしておらず、釈放を求めていない。

<参考リンク>

Euro: Emmanuel Macron accorde une interview exceptionnelle à RMC et BFMTV / 『ユーロ:エマニュエル・マクロン、RMCとBFMTVのインタビューに答える』

EN DIRECT – Emmanuel Macron giflé: Damien Tarel condamné à quatre mois de prison avec mandat de dépôt / 『LIVE – エマニュエル・マクロンに平手打ち:ダミアン・タレルに禁固4カ月の実刑判決』

トップ写真:G7サミットのため訪英したマクロン仏大統領夫妻(2021年6月11日 英・コーンウォール) 出典:Leon Neal – WPA Pool/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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