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.国際  投稿日:2020/3/28

厳戒態勢の仏、外出禁止延長


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

 

【まとめ】

・仏、新型ウイルス急速な感染により、外出禁止期間を延長。

・病院は飽和状態。独への患者搬送も開始。

・フランス紙・ルモンドは日本を「軽い雰囲気」と表現した。

 

 とうとうフランスでは、新型コロナウイルス(Covid-19の感染拡大防止のための外出禁止期間を延長することとなった。3月24日には科学協議会からはトータルで6週間の外出禁止にするべきだと進言されていたが、3月27日にされたエドゥアール・フィリップ首相の発表によると、今のところ2週間のみ延長し4月15日までを外出禁止とした。もちろん再度延長の可能性もある。

この日、すぐ隣の国であるイタリアでは、24時間で946人が亡くなった。反対側に位置するスペインでも769人の死者を記録したのだ。

フランスでも毎日300人~400人の患者が亡くなっていく。亡くなった患者の中には、特に健康状態に問題がなかった16歳の少女も含まれる。重症患者は3000人台となり(50%は60歳未満)日々増加し続けているのだ。もうすでにパリとパリ周辺の病院では、重病患者のベッドも足りなくなり、まだ感染が大きく広がっていない地域への輸送も検討されはじめた

フランスの現在の確認済みの感染者数は約33000人であるが、オリビエ・ヴェラン厚生大臣によると、この他にも30000~90000人の症状がないため検査もしていない感染者がいると推測されている。そしてすでに5名の医者が感染が原因で亡くなっており、医療重視者も650人以上が感染している。日々、しかも急速に、事が深刻化していっているのだ。

写真)仏 各地域の現入院者数

出典)Viruscorona2020

 

そんなヨーロッパの様子と比べ、フランス紙・ルモンドは24日の時点の東京について、人々は花見を楽しみ、「軽い」雰囲気であると表現していた。そんな風にまだまだ自由に行動できる日本では、このヨーロッパの状況がいまだに想像できない人がいるかもしれない。ヨーロッパはまったく日本とは違う状況となっている。急激な感染の広がりと外出禁止が延長される中、重々しい雰囲気となっているのだ。

 

・外出禁止の状況

 フランスでは、3月17日から感染を拡大させないために全国で外出が禁じられ、大観光地のシャンゼリゼ通りでは閉じたカフェのテラスが並び人影も途絶えた。そして当初、3月31日までと予定されていた外出禁止期間が、今回、延長されたのだ。

しかしながら、外出禁止といっても、開始当初はまだまだフランス人たちが外出していた。フランス内務省によると、これまでにおよそ174万人が街頭で警察から聴取を受け、不必要な外出をしたとして9万1824人が罰金を科された。この当時、外にでていたフランス人がいかに多かったことがこの数字からもわかるだろう。

一方、

自宅ではできない仕事のための移動

食料品など必需品の買い出し

通院

短時間の軽い運動やペットの散歩

高齢者や家族の介助

での外出は認められている。

 

しかし、この軽い運動については、拡大解釈する人々が後をたたず、各地の公園や森、海辺、川のほとりでは散歩やジョギングしている人出であふれた。また、買い出しが必要なのはもっともなのだが、特にパリの午前中に開かれる路上の市場などには、野外とはいえ密接しながら大勢の人が集まっていた。

その後、各地で、さらに厳しい規則が日々プラスされた。公園や森、海辺、川のほとりはすでに閉鎖された。市場については、24日から基本的には閉鎖するとした。ただし、必要な場合もあるのでその判断は各県が判断することになる。 通院に関しても、医者からの証明書がない限りいけなくなった。また、運動するために外に出る時間も1時間と限定され、家から1km以内、一日一回のみと細かく設定された。

写真)ルーヴル美術館(パリ, フランス)

出典)unsplash : Shubhagata Sengupta

 

また、ニースなど複数の町で夜間外出禁止令が実施された。それでも厳守しないフランス人もいるが、2か月の「伝染病緊急状態」が宣言された24日からは、ついに投獄も追加されたのだ。

一回目の違反は、135ユーロの罰金。15日以内に再度違反した場合、請求額は1500ユーロに増加。さらに、30日以内に4回目のルールの違反があれば犯罪となり、最高6カ月の投獄と3700ユーロの罰金で処罰されるようになった。

そんな中、現在は、10日以上も家の中にとじこめられた家族の中にはストレスをためている人も多い。家庭内暴力の報告件数も32%増えたため、薬局と警察を繋げるシステムも作り、買い物に来た時に通報できるように対策も練られた。19m2のアパートで身動きをとるのも難しい中、家族5人が肩を寄せ合って過ごしている家庭もある。精神科医への相談も爆発的に増えている。外出禁止期間が延びた今後、ストレスに押しつぶされる人はさらに増えるだろう。

しかしながら、こういった日々厳しくなる処罰や状況に対し反発する声も少なくはないが、政府自体への支持率はあがっている

22日に発表されたJDDのIfop調査によると、「コロナウイルスに対する効果」について55%、「困窮する企業への援助」に対して57%の支持を得ている。また、さらにこの危機の中、エマニュエル・マクロン大統領への信頼度評価は13ポイント上昇し、ほぼ2年ぶりに50%を超えた

写真)パリ 人のいない地下鉄の駅

出典)L.Genet

 

・政府とメディアの連帯感

 今回の新型コロナウイルスに対する対応で、非常に目を引いたのは政府とメディアの連帯感だ。普段は政府の批判も辞さないフランスメディアだが、こういった非常事態になると国民にいかに正しい情報を伝えるかに従事する。政府からの状況報告や説明が行われると、メディアはその内容に具体的例を付け加え、もっとこなれたわかりやすい説明をする。そのおかげで、政府の難しい言葉も国民がスムーズに理解し、内容が浸透するようだ。

また番組では、大臣を迎えたり、専門家を呼び、国民からの質問の受け答えに一定の時間を割く。例えば「犬の散歩に一日一回しか出てはいけないことになったけど、いつもは一日2回行ってたんです。どうすればいいですか?」「洗濯したら、ウィルスは死にますか?」「ダニアレルギーですが、通常より感染しやすいですか?」など、ほんとうに身近な内容だ。このことにより、個人による疑問が明確になり、その情報を必要とする人々にも大きな助けになっていく。とにかく、国民に正確でわかりやすい情報を提供することがフランスメディアの使命であるという認識が、よく伝わってくる。

 

・政府の方針が即時遂行

 また、個人レベルではまだまだなところが多いフランスではあるが、今回、もう一つ驚いたのが、政府が何か方針を決めると、学校、企業、団体は一斉にその指示に従うことだ。「劇場、映画館、美術館、学校を閉鎖」と言われれば、即座に対応し、チケットの返金作業も開始された。

ある劇場のチケットをもっていたが、外出制限が行われると聞き事前に受付に聞きに行ったところ、「政府から閉鎖命令が出される場合は、チケットの返金がされますよ。」と即答された。まるで、それは当然のこととされているかのようにだ。過去にも同様な経験をしたことがあるのだろう。

実際、コロナウイルスの流行で、影響を受けるすべての文化部門に対して2200万ユーロの「緊急援助」が発表され、困難な企業を支援のため、従業員の部分的な失業を支援するために450億ユーロの支出を決めるなど、政府からある程度の補償がされた。

普段は、反骨精神まんまんなフランス人ではあるが、こういった非常時には、メディア、教育機関、病院、その他団体は一丸となってフランス国に協力を惜しまないようである。

 

・検査の状況

フランスでは、現時点まで検査体制がそこまで整っていなかったこともあり、必要とされる人(健康に問題がある人、高齢者、妊婦)に対してのみ検査が行われてきた。ヴェラン厚生大臣は、今後検査数を増やしていくことを約束。よりシンプルで高度にできる検査方法の開発が期待されている。

検査数に対してなんといっても、比較されるのはお隣のドイツだ。ドイツでは週50万件の検査がされており、感染者が多く確認されているのにもかかわらず、死亡人数はフランスの6分の1程度だ。このことが、今フランスのメディアでよく取り上げられるようになっている。そして、ドイツの専門家が、この検査の多さと感染者の早期発見していることがドイツの死亡率が低くい理由と述べたこともあり、フランスでも検査数の増加を求める声が高まる一方だ。

しかし、確かに検査数もドイツとフランスでは違うかもしれないが、違いはそれだけではない。医療体制の充実さにも大きな差が存在している。

 

・ドイツの医療体制の充実さ

 なんといっても、今回注目されたのは集中治療室(ICU)のベッドの数だ。フランスでは発表によるとICUは数を増やして現在は8000床が用意されているが、なんと、ドイツでは25000床がすでに先週の時点であった。圧倒的に医療体制の豊かさが違うのだ。また、それだけではない。ドイツは一部の自治体レベルで外出禁止にはなっているが、全国的には外出禁止ではなく外出を控えよという表現にとどまり、その代わり3人以上で集まることが禁止されている程度だ。それでもうまく機能しているのは、(どこまでうのみにしていいかは置いておいても、)フランスではドイツは個人が(フランス人よりも)規律を守る傾向にあるからだとも伝えられていた。

そんなドイツがフランスへの援助を申し出た。ドイツ、スイス、ルクセンブルクの国境に近いフランスのアルザス地方のオート・ラン県では、感染が大きく広がり病院は飽和状態だ。軍による野外病院が建設されたり、軍用機によりマルセイユ、トゥーロン、ボルドーに患者を移送しているがまったく追いつかない。そこで、ドイツの病院がフランスの患者を受け入れる準備があると名乗り出たのだ。アルザス地方は、フランス国内よりも距離的にドイツの方が近い。高速電車「TGV」により、フランス各地の病院に患者を搬送するとともに、ドイツへの搬送もされはじめた。また、ルクセンブルク、スイスでもフランスの患者受け入れが承諾され、ヨーロッパ間の立地という利点と、EUという結束が示された形だ。

写真)ガスマスクを着用した男性

出典)unsplash: Pierre Herman

 

ちなみに、世界最大の死者数を出しており、高齢者社会が問題になっていたイタリアではICUのベッド数は4000床だという。感染者が集中する北部の病院ではICUの病床が不足し、廊下や屋外テントに臨時の病床を設け対応にあたっているが、人工呼吸器も限られるため、治療する患者の優先順位決めを迫られている病院も少なくない。医療体制の充実の違いは、パンデミックの際に大きな違いをもたらすことを証明しているかのようだ。

 

日本もイタリア以上に超高齢大国である。あのような感染者の急激な増加があれば、日本でも医療破壊は免れない。いや、もちろん日本だけではなく多くの国で耐えきれない。日本は、今は、感染を抑えられているからうまくいっているだけなのだ。現時点で死亡者が少ないからと安心するのはまだ早いだろう。実際、この数日、感染者が増えている。ルモンドの表現した「軽い」という単語には、実は「軽率」という意味もある。まだまだ感染が収束していない時点で、多くの人がヨーロッパの人々が行ったように「軽率」な行動をし続けていく結果、ヨーロッパと同じ状況になる日がこないことを祈るばかりである。

 

トップ写真)マクロン大統領

出典)flickr:Jacques Paquier

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