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.政治  投稿日:2020/5/27

陸自新小銃に多くの課題


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・陸自が新小銃に「HOWA 5.56」を採用。多くの問題がある。

・研究開発も期待できず、日本の火器メーカーに将来なし。

・防衛省の装備調達の当事者意識と能力を高める必要がある。

 

防衛省は昨年12月6日、89式小銃の後継選定作業を進めていた陸上自衛隊の新小銃を豊和工業製の「HOWA 5.56」を205.56mm小銃として採用したと発表した。平成30年度予算で新小銃の参考品としてHOWA 5.56とヘッケラー・コッホ製の「HK416」、ベルギーのFNハースタル製の「SCAR-L」をそれぞれ取得して評価作業を実施。性能やコストなどの総合評価から、HOWA 5.56を採用したとしている。

そして5 月18日、防衛省は部隊承認された20式 5.56mm小銃としてメディアに発表した。89式5.56mm小銃に比べてコンパクトで、排水性や防錆機能が向上している。重量は3.5kg、銃身長は330mm、伸縮式でチークパットも可変式のポリマー製銃床の採用により、全長は783~854mmと、89式5.56mm自動小銃(固定銃床タイプで916mm)に比べて短くなっている。

 

弾倉はポリマー樹脂製で装弾数は30発。89式5.56mm小銃の弾倉も使用できる。作動方式はガス圧式で、89式で採用された3点バースト(3点制限点射)は実用上の必要性が低いことに加えて、構造が複雑になってコストが高くなり、故障頻度の増加するリスクがあることから採用されていない。

スイスB&T社製のフォアグリップは2脚を兼ねており、銃口先端には銃剣を装着できる。銃剣は89式小銃と同じ、89式多用途銃剣を使用するが、バヨネットシースは新たに設計されている。レールマウントには光学照準装置などの装着が可能で、公開された20式5.56mm小銃には、ディオン光学技研の「MARCH」ブランドの8倍光学照準装置が装着されていた。

▲写真 豊和工業製の「HOWA 5.56」(奥)とベレッタ社製の「GLX 160 A1」グレネード・ランチャー(手前)。著者提供。

 

新たに導入する、ベレッタ社製の「GLX 160 A1」グレネード・ランチャーも展示された。GLX 160 A1はNATO標準の40 ×46mm弾を使用するグレネード・ランチャーで、グリップと銃床を装着すれば単体でも使用できるが、陸上自衛隊では20式5.56mm小銃に装着して使用する予定となっている。光学照準装置とグレネード・ランチャーの調達計画、グレネード・ランチャーが使用する弾薬の種類などは、現時点では明らかにされていない。

20式5.56mm小銃の導入にあたっては、令和2年度予算に3,283挺の調達費9億円と初度費1億円が計上されており、水陸機動団、即応機動連隊、教育隊などに順次配備される。

20式小銃導入には問題が多々ある。それは防衛省に火器の生産基盤維持の構想が無く、また小銃を火器システムとして調達計画を立案していないことだ。

筆者は大臣会見で確認したが20式の調達完了には89式同様に約30年を予定している。これは如何にも長過ぎる。大抵の国は小銃の更新は7~8年だ。ラインの維持をするにしてもできるだけ、二種類の異なる小銃が存在する期間を小さくするためだ。そうしないと訓練や兵站が二重になるし、調達期間が長くなると量産効果がでないので調達コストも高くなる。64式と89式の時のように弾薬やマガジンに共通性がないわけではないが、がそれでも教育、兵站の二重化は問題だ。

他国では国内市場が小さいならば拳銃から、小銃、大砲まで一社で開発生産する例も少なくない。我が国ではそれぞれメーカーが異なっており、このためライン維持のために長期間の少数生産にならざるを得ない。当然値段は高くなる。20式にしても89式同様に1丁約30万円である。防衛省は国内生産を維持するのであれば火器メーカーを統合すべきだがそのような努力をしてこなかった。このため火器メーカーでは精々30年に一回しか開発機会がなく、技術の進歩も、研究開発も期待できない。

 

またそれぞれもメーカーでバラバラに開発しているので、開発費は少なく、設備投資も難しい。拳銃はミネベア、小銃、迫撃砲などは豊和工業、機関銃は住友重機械工業、機関砲、大砲は日本製鋼所が製造している。ミネベアがライセンス生産した9ミリ拳銃は約2500発も撃つとフレームにクラックが入る。耐久性はオリジナルより一桁低いが、値段は5倍、住友重機械工業は機銃の品質を40年間も偽装していたが値段はこれまた5~10倍だ。豊和工業の89式小銃も同時期の他国の小銃の8倍程度の価格だ。品質、価格ともに外国製に太刀打ちするのは不可能だ。防衛省が過大な値段で買い取っている。いわばゾンビのような存在だ。事業として自立しているとは言い難い。

率直に言って日本の火器メーカーに将来はまったくない。にも関わらず、漫然と国産火器を調達するのは税金の無駄遣いだ。

 

もう一つの問題は防衛省に調達の当事者意識と能力が欠如していることだ。陸幕は小銃を火器システムではなく、小銃単体で調達しようとしている。近年の小銃は等倍のドットサイト、3~4倍の光学サイト(あるいは、この両者を兼ねたもの)、フラッシュライト、レーザーレンジファインダー、暗視装置、グレネード・ランチャーなどが統合されてシステムとして運用される。また近年は銃口にサプレッサーをつけることが増えてきた。これは発射音や発射炎を減ずる効果がある。

▲写真 陸自に採用された「HOWA 5.56」をデモンストレーションで携行する陸自隊員。著者提供

 

陸幕に取材した限り、これらのコンポーネントの運用調達はまだ確定していないという。業界筋の話では予算がないので、30年で小銃更新が精一杯で、その他のコンポーネントは余裕ができたら考えるという。展示された1~8倍のスコープもどのような隊員がどのような使い方をして、どの程度の数量を調達するか決まっていないという。

ドットサイトがなければ、近接戦闘で圧倒的に不利だ。また遠距離では2~3倍のスコープがなければ、これまた圧倒的に不利だ。これらは通常小銃本体と同等あるいは、それ以上に高い。

グレネード・ランチャーにしてもスタンドアローンとアンダーバレルで使うのと、どちらが良いのか、検証したか怪しい。またどの程度の隊員に持たせるか。小隊に1名なのか、英軍みたいに分隊に2名なのか。それによって小隊レベルの火力は全く変わってくる。

 

また20式小銃の調達が30年に渡るならば、グレネード・ランチャーを装着できない89式を装備した部隊と大きな火力の差がでるので、部隊の火力を定量化できない。このため作戦立案が困難になる。例えば89式装備の部隊にはスタンドアローンのグレネード・ランチャーを配備することも検討すべきではないか。弾種も問題だ。HE(榴弾)と煙幕弾程度でいいのか。照明弾や、IR照明弾、IR煙幕弾、訓練弾、対戦車弾、対陣地用弾など多数の弾種が存在するが、弾種が多くなるとそれだけ調達予算も必要だ。

諸外国の軍隊では90年代に携行型グレネード・ランチャーを採用するのが主流になっていたにも関わらず、陸自は21世紀なって06式小銃てき弾というライフル・グレネードを開発、採用している。これは98年度から05年度にかけて防衛省技術研究本部(技本)、ダイキン工業、陸自によって開発されたもので、開発費用は9億円である。生産の主契約社はダイキン工業である。

06式のような小銃てき弾とグレネード・ランチャーを比較すると、その優劣は歴然としている。ライフル・グレネードは40ミリ弾に比べて重くかさばるので、射手は多くの弾薬を携行できない。また連続射撃に際してはいちいち銃口に装着するという作業が必要であり、連続した射撃による制圧ができない。

多数の弾薬を携行できないということは使用弾薬も限られる。グレネード・ランチャーでは、攻撃用の弾頭に加えて、発煙弾、照明弾などの多様な弾薬の使用が可能である。このため部隊の柔軟な運用に寄与できる。つまり煙幕を張って撤退したり、夜間の戦闘に際しては照明弾を上げて味方を支援したりできる。

小銃擲弾は実際に撃ってみるとわかるのだが、グレネード・ランチャーに比べて正確な射撃が行いにくい。

陸自は世界の小銃てき弾では世界で初めて分離飛翔方式を採用したと自画自賛しているが、鉄道車輛メーカーが21世紀になって最新式の蒸気機関車を開発しました、と胸を張るようなものである。陸自にはそれがどのように珍奇なことなのか自覚がない。

今回グレネード・ランチャーを採用したのは06式の採用が失敗だったということだ。だが陸自はそれを認めないだろう。失敗を失敗として認めて責任をとらず、検証もしないから何度でも同じ過ちを繰り返す。

小銃にこれらのコンポーネント、アクセサリーを加えれば小銃本体を調達する場合の最低でも数倍の予算が必要だ。本来はこれらを加えた上での調達計画が必要だが陸自にはない。

本来必要なコンポーネントを含めてシステムとして調達するのであれば、極めて高価な20式を採用することは不可能だ。陸自はシステムの一部として小銃を調達し、システム全体の調達計画を作っていない。必要な小銃を調達するのではなく、「国産小銃の調達」が目的化していることだ。昭和の軍隊のセンスで21世紀の調達を行っていることは犯罪的な無能であると言っていい。

対して数年前に明らかにされたドイツの新小銃調達計画をみてみよう。計画は遅延しているが概ねことのとおりに進められるはずだ。

陸自との差が明確に浮かび上がる。ドイツ連邦軍は現用のG36小銃の更新を計画しているが、12万丁の新型小銃を2019年4月から2026年3月までの7年間で調達する予定で、予算は2億4500万ユーロ(約300億円)と見積もっている。候補はこれから絞られるが、光学照準器や各種装備を装着するためのレールマウントを装備し、同じモデルで5.56ミリおよび7.62ミリNATO弾を使用する2種類の小銃を調達すことになっている。

▲写真 ドイツ軍のH&K G36

出典:Domok

 

フレームの寿命は最低3万発、銃身寿命は1万5000発(徹甲弾では7500発)以上が求められている。調達予算には光学サイト&ナイトサイト、メカニカルサイト、銃剣、クリーニングキット、サプレッサー、通常型弾倉とドラム型弾倉、二脚、フォアグリップ、ダンプポーチ、輸送用バッグが含まれており、オプションとして射撃弾数カウンターと2連装弾倉ポーチが挙げられている。こういう情報が、入札が行われるはるか前に公開されているのだ。

 

フランス陸軍の新狙撃銃調達も見てみよう。選定されたのはベルギーのFNハースタルのセミオートマチック式の7.62mm狙撃銃、SCAR H PRだ。計画では2,600丁を調達、315万発の徹甲弾、35万発のマッチグレード弾、ナイトビジョン1,800セット、サーマルサイト1,000セットとなっており、契約額は1億ユーロ(120億円)。FNは2,620丁の銃本体、光学サイト、2脚やサプレッサーなどのアクセサリー一式、暗視装置類は同社のパートナーのOIP センサー・システム&テレフンケン・ラコモスが担当。デリバリーは本年から始まり、完了は2022年に完了する予定、つまり2年間で完了する。

▲写真 FN SCAR-H PR

出典:FN HERSTAL

 

このような情報の開示は、調達の透明性を高め、納税者や議会が軍の調達がリーズナブルか否かを判断する材料もなる。本来軍の調達では調達数、調達期間、総額を提示し、これを議会が了承してメーカーと契約する。対して我が国はそのような計画は国会に提出されず、調達契約も結ばれない。これでは普通、企業は事業計画を立てられない。世界的にみてこのようなずさんな調達は極めて異常だし、文民統制上も大きな問題である。

防衛省の装備調達の当事者意識と能力を高める必要がある。

 

▲トップ写真 陸自に採用された「HOWA 5.56」をデモンストレーションで構える陸自隊員。著者提供。


この記事を書いた人
清谷信一軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家

日本ペンクラブ会員

日本コスト評価学会会員

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 1962年生。東海大学工学部卒。

軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。

08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。

軍事を主たるフィールドとし、海外取材活動(欧州、中東、南アフリカなど)を活かした国際的な見地に立った著作活動を行う。内外の具体例に基づいた防衛省・自衛隊批評や提言は元防衛庁長官、石破茂氏にも影響を与え、石破氏が長官時代の防衛庁改革ではその指摘の是正が少なからず実現した(三自衛隊の統合運用や特殊部隊、狙撃部隊の創設、陸自の旅団導入、空自の基地警備、海自の地方隊の縮小など)。

自ら起業して、貿易や小売業を手がけており、起業家の視点からの執筆も多い。またサブカルチャーにも造詣が深い。90年代初頭からアニメやマンガなど日本のサブカルチャーの世界進出をいち早く予見、これを国益の観点から論じた。著書「ル・オタク フランスおたく物語」はこの分野の基礎文献となっている。

専門誌はもちろん、右は「正論」から左は「週刊金曜日」まで幅広い媒体にイデオロギーにとらわれず寄稿。また、日経ビジネスオンラインや朝日新聞のWEBRONZA+などのネット媒体にも寄稿。

〔著作〕

  • 国防の死角(PHP)
  • 専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
  • 防衛破綻 「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
  • ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
  • 自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
  • 弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
  • こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
  • 不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
  • Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。

〔共著〕

  • 軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
  • すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
  • アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
  • ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
  • 世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)
  • 間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)
  • 真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
  • 熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。

〔監訳〕

  • ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
  • SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)
  • 太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)

〔ゲーム・シナリオ〕

  • 現代大戦略2001~海外派兵への道~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2002 ~有事法発動の時~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略2003 テロ国家を制圧せよ(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2004 ~日中国境紛争勃発!~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2005 ~護国の盾・イージス艦隊~(システムソフト・アルファー)

 

清谷信一

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