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.国際  投稿日:2020/6/16

トランプ氏にデモの収拾無理


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#25」

2020年6月15-21日

【まとめ】

・アフリカ系若者の警官暴行殺害事件相次ぐも、ホワイトハウス無策。

・ジョージWブッシュ氏「思いやりのある保守主義」を公約していた。

・「思いやり」と無縁のトランプ氏は抗議デモを武装解除は出来ない。

 

アメリカ各地で抗議運動が止まらない。デモが続く中、アフリカ系若者が警官に暴行殺害される事件が相次いでいるのに、現在のホワイトハウスは無策だ。大統領として国家分裂の危機に際し国民に「癒し」を与える姿勢を全く見せないのだから当然だ。普通なら、犠牲者の家族に会いに行くとか、やるべきことはもっとあるだろうに・・・。

この大統領府の体たらくを見て、compassionate conservatismという言葉を思い出した。日本語では「思いやりのある保守主義」とでも訳すのか。歴史的には1979年以降の比較的新しい概念で、政府と慈善団体と宗教団体が協力し、自由市場システムを通じて、恵まれない人々を支援し貧困を減らす保守的諸政策のことを示すようだ。

同政策を大統領選の公約に掲げたのが共和党ジョージWブッシュ大統領だった。その成果が出る前に9.11事件が起きたため、同大統領は「テロとの戦い」の方で有名になった。だが、このcompassionate conservatismは一昔前の共和党主流の政治哲学であり、英国のキャメロン首相も同様の政策を提唱していたという。

▲写真 ジョージWブッシュ大統領 出典:The White House

そう考えると、同じ共和党でも、トランプ政権、トランプ氏個人が如何にこの種の「思いやり」と無縁であるか良くわかる。「成功者は社会、特に恵まれない人々に奉仕する」というノブレスオブリージュ的発想が決定的に欠けているのだ。これでは抗議デモ参加者を武装解除することは出来ない。いずれトランプ氏はそのことを思い知る筈だ。

一方日本でもドタバタが続いている。先ほど防衛省は、地上配備型迎撃システムイージスアショア」配備に向けた手続きを一旦停止すると発表したそうだ。迎撃ミサイルに不備が見つかったというが、演習場でミサイルを発射した場合、ミサイルから切り離されるブースターが演習場外に落下する可能性があることが判明したからだという。

▲写真 イージスアショア(2018年12月10日にハワイ州カウアイ島にある太平洋ミサイル試射場で行われたイージスアショアミサイル防衛実験施設で発射されたSM-3ブロックIIAミサイル) 出典:U.S. Army

一体何をやっているのか。お粗末極まりない、と言ったら昔の同僚に失礼かもしれない。だが、地上配備型迎撃ミサイルシステムは日本の防衛に不可欠である。狭い日本だがブースターにまでは思いが至らなかったのか。こんなことをやっていたら、喜ぶのは近隣の共産党、労働党が支配する国々だけである。情けない話だ。

情けないといえば、4月に米国で「トランプ政権の対中政策を称賛する一方、オバマ時代の対中関与政策を厳しく批判する」論文を匿名で発表した日本の官僚がいたそうだ。友人からその話を聞き、件の匿名論文を早速読んでみた。歯切れは良いが、およそ外交的とは言えない。続きは今週のJapanTimesをご一読願いたい。

 

〇 アジア

南北首脳会談開催20周年記念式典が開かれたが、先週金与正・労働党第1副部長に「南朝鮮の奴らと決別する時が来た」と言われたばかり。文在寅氏は哀れである。一方、北京では再び感染が広がりつつある。当然だろう、経済活動を再開すれば、必ず感染者は増えるのだから。日本にとっても「明日は我が身」ではないのか。

▲写真 文在寅大統領 出典:韓国大統領府

 

〇 欧州・ロシア

ロシアの裁判所が元米海兵隊員にスパイ容疑で禁錮16年の判決を言い渡したそうだ。米ロのスパイ合戦は冷戦の有無とは無関係に、益々ホットになりつつある。

 

〇 中東

中東ではコロナ感染拡大のニュースばかり。その中で、巡礼を中止すれば「イスラム教徒が暴動を引き起こす」といったトンデモ情報があった。だが、ビザがなければ巡礼は不可能。一体どこで暴動が起きるというのか。

 

〇 南北アメリカ

トランプ氏の健康問題で様々な憶測が流れている。CNNで足取りが気になるビデオを見たが、あれで「体調異常」と批判されるだから、政治家は楽な稼業ではない。

 

〇 インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:アメリカ抗議デモ 出典:Wikimedia Commons; Frankie Fouganthin


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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