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.国際  投稿日:2020/6/4

アメリカでのデモと暴動の真実とは


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・トランプに黒人差別の実例なし。反対勢力が意図的な政治宣伝。

・黒人の利益を代弁すると称する勢力が、略奪や破壊繰り返す。

・暴動の裏に左翼過激派「アンティファ」の暗躍。

 

アメリカでの白人警官による黒人容疑者への暴行致死事件を契機とした抗議活動は日本でも大きく報道されるようになった。

「強硬トランプ氏に反発」「首都で平和的抗議に催涙弾」「トランプ氏は挑発的行動」・・・と、いずれも朝日新聞記事の見出しだが、もっぱら非はトランプ大統領にあるという論調も目立つ。

だが現地での実態は異なるようである。各都市でのデモは暴動や略奪となって、一般の商業施設などが大幅に破壊されているのだ。だからトランプ大統領の対応も当然、「法と秩序」の維持のために違法行動を取り締まるという基本線になるわけだ。しかも暴動の背後では暴力革命を唱える過激派左翼組織の動きも明白となってきた。

日本の主要メディアの論調は例によってアメリカの反トランプ・メディアの基調をなぞって、「トランプが悪いから」という浅薄な非難に傾いている。つまりトランプ大統領が黒人差別や貧富の格差を強め、そこにコロナウイルスでのこれまたトランプ政権の誤った対応が加わって、アメリカ国内の分裂を深め、黒人など少数民族の不満を増大したために、こんな騒動が起きるのだ――という趣旨の「人種差別抗議説」である。

▲写真 暴動で被害を受けた教会をホワイトハウスから歩いて訪れたトランプ米大統領(2020年6月1日 ) 出典: White House

ところがいまアメリカで起きていることは上記の推測の構図とは異なる。

まず今回の騒動の契機となった事件が起きたのはミネソタ州、全米でも最もリベラル色、民主党傾斜が強い地域なのだ。そのミネソタ州でふだんから黒人への差別が顕著だったという事実はない。たまたま白人の警官が黒人の容疑者に過剰な力を加えたという犯罪事件だったのだ。

ましてトランプ大統領が就任して3年半、黒人など少数民族を明らかに差別した政策をとったという事実はない。もしあるのならば、提示してほしい。反トランプのメディアがトランプ氏の片言隻句を捕らえて「トランプは黒人を差別している」と断じるだけなのだ。その背景には黒人層は歴史的に民主党支持が多いという事実がある。だから黒人のなかでトランプ嫌いという人は多い。

かといってトランプ大統領が具体的に黒人差別の法律や条例を作ったという実例はない。むしろ政権の閣僚や枢要ポストに黒人の男女を起用した実例も多い。

ただし一般的には黒人の側に長年、差別されてきたという意識はなお強いから、今回のように「黒人だから虐待された」と思える事件が起きれば、全米の黒人層が過敏に反応する傾向はあるわけだ。1960年代から2010年代まで、その種のトラブルが全米規模に広がる例は多かった。それらの実例は時の政権が共和党か、民主党かの区別もなく、起きてきた。

しかし今回の事件はその黒人容疑者を虐待したとされる白人警察官の行動は犯罪とされ、当人は逮捕され、刑事訴追の手続きがすでにとられた。トランプ大統領もその白人警察官を明確に非難した。だがそれでもいかにもトランプ政権がこの種の黒人虐待を奨励しているかのような抗議の下でのデモや集会が広がるのはたぶんに共和党対民主党、保守対リベラル、そしてトランプ支持層と反トランプ勢力の政治的な対立のためだといえよう。

反トランプ勢力は今回の事件を利用して「トランプ大統領は黒人の差別や虐待を奨励する」という政治宣伝を広めようとするわけだ。

その構図では日ごろからトランプ大統領の動きにはすべて猛反対というトランプ叩きのメディア――ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、CNNテレビがその典型――が率先して、「トランプの人種差別」というイメージを濃縮して拡散してきた。

だがいまアメリカ各地で起きているのは黒人の利益を代弁すると称する勢力が単なる抗議デモだけでなく、違法な略奪や破壊を繰り返すという現象である。一般の商店に侵入し、商品を略奪する。ホワイトハウスのような公共の施設に乱入を図り、警官隊に暴力をふるう。市街にある自動車を破壊し、放火する。そんな無法の破壊行動なのである。

政府当局がこんな違法行為、犯罪行為を放置できるはずがない。どんな政府でも大統領でも自国内の「法と秩序」は守らねばならない。今回の「抗議デモ」が明らかに「無法な暴動や略奪」へとエスカレートしたことは明白だからである。

▲写真 白人警察官に押さえつけられて死亡したジョージ・フロイドさんを悼む壁画(2020年6月1日 ミネソタ州ミネアポリス市)出典: Lorie Shaull

ミネソタ州で白人警官の虐待を受けて死亡した被害者の弟が同州ミネアポリス市の事件現場で周囲の人たちに訴えた言葉には重みがあった。

「みなさんの怒りは理解できる。でも私にくらべれば怒りは半分だろう。それでも私は物を壊したり、地域社会を破壊したりはしていない。なのに、みんななにをしているんだ」

被害者の弟は近くの民衆たちに破壊や略奪を止めることを求めたのだった。彼の言葉にはまちがいなく、今回の騒動の真実が反映されていたといえよう。

まして騒動を起こす側には危険な左翼過激派「アンティファ」の暗躍が目立ってきたのだ。この点についてはまた新たな報告で伝えよう。

トップ写真:抗議する黒人男性(2020年5月26日 ミネソタ州ミネアポリス市) 出典:Lorie Shaull


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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