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.国際  投稿日:2020/7/28

米中総領事館閉鎖合戦の背景


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#31

2020年7月27日-8月1日

【まとめ】

・米総領事館閉鎖は外交の世界では異例なことではない。

・大統領選という内政要因から領事館閉鎖に踏み切ったか。

・CNASのウォーゲームから見える、日本の防衛政策の不都合な真実。

 

先週は米中関係が大きく動いた。21日米国が在ヒューストン中国総領事館の閉鎖を命じたのに対し、24日中国は在成都米総領事館の閉鎖で報復に出た。これを「カブキプレイ」、すなわち「誰もが落し所を知る出来レース」と見る向きも一部にはあるが、それは違うだろう。今や米中関係は明らかに「カブキ」のレベルを超えつつある。

早速各方面から様々な質問が飛んできた。領事館閉鎖は異例の措置か?トランプ政権は本気か?報復合戦はいつまで続くのか。これもコロナ・パンデミックの影響なのか?中国は軍事・貿易面で如何に対応するつもりか?日本はどう対応すべきか?・・・よくまあ、こんな本質を突かない質問ばかり思い付くものだと感心する。

 

1、総領事館閉鎖命令は異例か?

さあ、どうかな!?中国外交部は米側が「突然」閉鎖を要求したと述べたが、外交の世界ではそもそも異例ではない。中東では外交関係断絶や大使館閉鎖など日常茶飯事だし、直近では2017年8月31日、当時のティラソン国務長官が在サンフランシスコ露総領事館を(やはり72時間以内に)閉鎖するよう露側に電話通告している。同年7月ロシアが露駐在の米外交官・職員の半減を命じたことへの報復だった。当時も露総領事館からは謎の黒煙が上がり、閉鎖後にはFBIの捜索が入っている。「カブキプレイ」論者はこの時の米露関係を念頭に置いているのかもしれない。

 

2、トランプ政権は本気か?

確かに内政・外交両面で本気になりつつある。だが、これには注釈が必要だ。外交面で見ると、総領事館閉鎖でなく、スパイ活動を行った多くの中国外交官を「ペルソナノングラータ(好ましからざる人物)」として国外追放する方法もあった。にも拘らず、今回敢えて総領事館閉鎖に踏み切ったのは、現在トランプ陣営が劣勢とも伝えられる大統領選という内政要因が大きかったと見る。直近の演説でポンペイオ国務長官は「コミュニスト・チャイナ(共産中国)」という懐かしい言い回しを使い始めた。悪いのは「民主党、リベラル、アナキスト、社会主義者、共産主義者、バイデン」という大統領選レトリックの一環に「共産中国」がきっちり組み込まれているのだろう。

 

3、報復合戦はいつまで続くのか?

最近の中国は強気だから「やられたら、必ず、やり返す」。但し、中国も米国との決定的な対立は望んでいないので、英語でいう「ダブルダウン(日本語に一番近いのは『倍返し』か)」はしないだろう。・・・この続きは【詳細版】をご覧頂きたい。

▲写真 習近平主席とトランプ大統領 出典:Flickr; The White House

先週気になったのは、CNASというワシントンの有力シンクタンクが22日にウェブ上で実施した東シナ海・尖閣諸島をめぐる日米中間のウォーゲームだ。この種の政策シミュレーションといえば、キヤノングローバル戦略研究所も年に三回実施しており、ウェブ上のゲームだって実施済みなのだが、今回のCNASのゲームは一味違った。

Zoomアプリを使ってウェブ上に400人以上の参加者を募り、彼らの投票で各チームの節目節目の戦術を決めながららゲームを進めるという手法は極めて斬新だった。特に、ゲームの結末にはゾッとした。レッドチームが尖閣の魚釣島を占領、ブルーチームが奪還作戦を敢行するが、最終的には占領されたまま。戦況は膠着状態となる。

この点については今週のJapanTimesのコラムに詳しく書いた。当分日本語では書かないので、ご関心のある向きは、お時間のある時に是非ご一読願いたい。結論だけ簡単に述べれば、当然、日米同盟は機能するのだが、それは「全てが日本の思い通り機能するとは限らない」という条件が付く可能性があるということである。

勿論このゲームだけでは未来予測はできない。しかも、参加した米国人の大半はアジア専門家ではない。しかし、というか、だからこそ、今回ゲームの結果が図らずも暗示したのは、「敵基地攻撃能力の是非」などいう議論をはるかに超えた、戦略レベルの日本の防衛政策の不都合な真実だったのかもしれない。

 

〇 アジア

北朝鮮が、韓国から開城(ケソン)へ戻った脱北者に新型コロナ感染の疑いが判明したと公表したそうだ。何だそれは!どっちともどっちだが、大失態に変わりはない。

 

〇 欧州・ロシア

独外相がG7サミット拡大で韓国などを参加させる米大統領の構想に反対すると述べたそうだ。韓国はさぞ落胆しているだろうが、ドイツの主張、当然と言えば当然だろう。

 

〇 中東

24日、イスタンブールの世界遺産アヤソフィア「博物館」が「モスク」化されて初めて金曜礼拝が行われ、トルコ大統領も参加したそうだ。トルコのイスラム回帰の象徴か?

 

〇 南北アメリカ

最近トランプ陣営の選対本部長が交代したが、トランプ支持率は回復しそうにない。トランプ陣営内部から見た大統領選については日経ビジネスオンラインに書いた。

 

〇 インド亜大陸

インドのコロナ感染は止まらないが、それ以外には特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:在ヒューストン中国総領事館 出典:Wikimedia Commons; WhisperToMe


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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