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.国際  投稿日:2020/8/17

陸自 開発実験団評価科長の尊皇攘夷


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・評価科長の「国産上げ、輸入品下げ」論文に疑問。

・自衛隊の調達能力欠如を輸入品に責任転嫁。

・「滅私奉公」求める旧軍同様の精神主義で国内企業の撤退加速。

 

筆者は基本的に自衛官による論文や記事の発信には賛成である。自衛隊や防衛省は制服組の発信を嫌う。だが個々の自衛官が己の論を世に問うことは、組織の風通しを良くする。諸外国では多くの軍人が持論を世に問うている。

だが持論を展開することは反論や批判も当然起こる。新たな考えで議論が起こることは歓迎すべきだ。議論や批判を通して本人も成長するし、勉強になる。しかし、職務に関する事柄で専門家として著しく問題がある場合は、単に個人の意見では済まない。論を世に問う覚悟と責任も必要である。

「月刊防衛技術ジャーナル」8月号に陸上自衛隊開発実験団・田川信好評価科長(1等陸佐)の稿がそれにあたる。

田川評価科長の寄稿文は、国産装備を持ち上げて、輸入品を一方的に誹謗中傷するものである。装備は大きくわけて国産、ライセンス国産、輸入に分けられるが、それぞれ一長一短がある。だが彼は輸入装備品だけを目の敵にして批判し、国産を過剰に持ち上げている。だが、彼の批判には具体論に乏しく、憶測や思い込みが多い。また自分たち陸上自衛隊の無能を輸入品に押し付けている

開発実験団は富士駐屯地に駐屯する陸上自衛隊教育訓練研究本部隷下の部隊で任務は、陸上装備品等の研究改善に関する調査研究、実用試験などを担当する部隊で、評価科長はその際の評価の責任者であり、公平に実験対象となる装備を評価するのが仕事である。その評価科長が思い込みやえこひいきで評価するのであれば大問題だ。以下に彼の主張を具体的に検証する。

““「海外装備品の導入の場合でも開発分担金の負担あるかもしれないし、まとめ買いでない場合、最初ディスカウントセールで次の年度から言い値に跳ね上がる場合もある」””

原因は海外装備ではなく、防衛省、装備庁、幕僚監部の調達システムにある。他国では調達するときに、数量、調達期間、予算をきめてメーカーや商社と契約する。そうでないとメーカーは事業計画が成り立たない。

だが我が国は幕僚監部が調達の見積もりはするが、国会が調達数、調達期間、総予算が議論されることなく導入が決まって、以後単年度で調達されるケースが殆どだ。例えば国会議員は現在調達されている10式戦車が何両調達されるのか、調達期間はどのくらいで、総額がいくらか全く知らない。

▲写真 陸自10式戦車(富士総合火力演習) 出典:陸自装備費品公式アルバム・アーカイブ

他国、ことに民主主義国家が納税者に対する説明責任として果たしていることを防衛省、自衛隊はできていない。問題の原因は海外メーカーではなく、このような胡乱な調達制度を放置してきた防衛省、自衛隊にある。

陸自が採用を決定した戦闘ヘリAH-64Dはこのような杜撰な「口約束」で導入が決められた。これは富士重工(現スバル)がライセンス生産することとなったが、陸自は62機の調達を10機ほどで止め、62機の調達という約束はしていないと言いはったので、裁判となった。

AH-64Dの調達単価は概ね85億円、最後の3機は裁判で負けてライセンス料や初度費約351億円全額の支払いが裁判所から命じられた。1機あたりの調達単価は同じ重さの黄金より高価となった。

調達単価は米軍のAH-64Dより高くなったのは、毎年調達数が少ないのにライセンス国産としたからだ。しかも国内でのコンポーネントの生産は殆どなく実態はライセンス生産ではなく組み立て生産であった。しかも思いつきで、不要な装備を追加したり、本来搭載されるべきネットワーク機能を取り外すなどしたので余計にコストが上がった。

そして13機(事故で1機損失し現在は12機)しかなく、予算がないために稼働率が低く、まともに飛行でき戦闘が可能な機体は数機しかない。そしてD型のメーカーサポートは2025年で終わるので、E型にアップデートしなければくず鉄と化す。対して台湾、韓国など多くの国は輸入で短期間に既にE型を導入している。陸自のAH-64Dの導入失敗は防衛省、陸幕の当事者能力の欠如こそが原因なのではないだろうか?

ところが未だに問題のある調達方式を改めない。経験から学ぶことすらなく、ひたすら万歳突撃のような調達を行って、税金を浪費しているのだ。

““「量産されているはずの海外装備を後追いで導入する場合でも、開発から既に数十年も経過していて生産ラインが開発国の量産調達を終えて閉じてしまっていると、生産再開は日本専用に準備されて初度費は国産以上にスペシャルだ」”

閉じたラインを再開して生産すればコストがかかるのは当たり前だ。だが国産以上に法外な初度費を取られるという話は聞いたことがない。事例があるなら是非挙げてほしい。そもそも旧式化した装備をわざわざ頼んで、ラインを再開させてもらった実例が陸自にはあるのか疑問である。常識で考えればコスト割れするなら再生産を行う企業はない。

陸幕がAH-64Dの調達中止を思いついたのは調達コストの高騰に加えて、米国での生産が近い将来終わることになっていたからだ。つまり生産が終わりそうなタイミングで発注をかけたのだ。それでも陸自が、例えば毎年で残りの全機まとめて調達する計画を示していたら製造元のボーイングは陸自の必要分を生産したはずだった。筆者はボーイングの担当者にそう聞いている。

ところが毎年単年度で年末にならないと発注数が1機か2機か、あるいはゼロか分かりません、ではメーカーも付き合わない。因みにその直後に韓国がAH-64Dの採用を決定し、オフセット(見返り)で、生産ラインを韓国に移してAHY-64Dの生産を開始している。

その後先述のように台湾、カタール、シンガポールその他の国々はAH-64Eを短期間に輸入で陸自よりはるかに安価に調達している。

““「実戦で十分に使い込まれているはずの海外装備にも、試験で初めて確認される不具合項目や改善要望がでることあるが、自前の改修はまずNGで、改善の余地はないか、全て目の玉の飛び出るスペシャル料金でのご対応かもしれない」””

「しれない」というのは憶測、噂話の類である本人がきちんとした知識やエビデンスをもっていないのだろう。これも事実ではない。多くの場合交渉次第で自主改修は可能だ。それが出来ないのは防衛省、自衛隊がまともな交渉を行っていないからだと思われても仕方がないのではないか。防衛省、幕僚監部が、まともに契約していれば大抵のトラブルは防げる。少なくとも筆者は外国でそんな話を聞いたことはほぼない。

もしそういうことがあるとするならば、防衛省、自衛隊がカモられているのか、無理難題をふっかけられているだけだろう。実際海外のメーカーや商社からは「実戦もないくせに自衛隊は小言幸兵衛で、思いつきで変な要求をすることが多い」と聞く。ただでさえ単年度ごとの少数発注を行い、そのようなカスタマイズを頼めば値段が上がるのは自明の理である。

仮にそのような事実があるとするならばそれは、自衛隊は意思決定が遅いし、生産情報を把握していないからだ。だから深く考えずに生産末期になってから発注する。例えば陸自が英国から導入した戦車橋は決定まで10年も掛かった。原因はこれまた防衛省、幕僚監部の能力の欠如にあるのではないだろうか。

海外装備の独自の改修は契約次第だ。例えばイスラエルは米国製のF-15、F16といった戦闘機やAH-64Dにしても独自の改修を加えている。それはイスラエルが米国からそのような条件を引き出したからだ。対して我が国はそれをしてこなかった、あるいはできなかっただけだ。それは輸入側の責任であってメーカーの責任ではない。これまた防衛省、自衛隊の当事者意識と能力の不足に起因していると推察される。

また自衛隊は実戦経験がないのはともかく、まともに海外の新技術の動向や実戦の情報収集をしないで、妄想を膨らませて変な要求をする。筆者は約10年前の技術研究本部(当時)の年間海外視察費が僅か92万円と報じた。予算1700億円の役所の視察費が筆者の海外取材費よりも少ないのだ。しかも多くは退職前の開発官(将官)らの卒業旅行と化しており、視察後すぐに退官するケースが多かった。ただでさえ少ない視察費を物見遊山の海外旅行にして浪費していたのだ。これを筆者が執拗に報道したために防衛省全体の海外視察費は増加し、また現場の人間が多少は行くようになった。

このような情報収集する気が全くない組織がまともな情報収集や分析ができるわけもないのは子供でもわかる話だろう。

実例を挙げよう。通常は8名乗りの装甲車を主力APCとするところを、4人乗りで搭載量も少ない軽装甲機動車を主力APCにしている。しかも下車戦闘時は全員が下車するので、機動力が活かせないし、専用の火器も搭載していないで下車歩兵に火力支援ができない。更には隊長車以外無線機が搭載されていない。こんなコントのような胡乱なことをする軍隊はない。

▲写真 陸自軽装甲機動車 出典:陸自装備品公式アルバム・アーカイブ

また陸自の汎用ヘリのドアガン用の12.7ミリ機銃は俯角で撃つと弾づまりを起こす。それを変更することもない。更に申せば40年以上も住友重機の機銃の品質不良に気が付かなった。そのような組織があれこれ注文つければ、非現実的な装備ができあがる。そしてその分コストは高騰する。

▲写真 12.7ミリ機銃。俯角で撃つと弾詰まりを起こすため、ヘリコプターのドアガンには向いていない。著者提供写真。

「国産」の無人ヘリFFRSやFFOSの信頼性が低いことは筆者が東日本大震災で一度も飛ばなかったことを報道し、国会で防衛省も事実であると認めた。これは田川評価科長が自慢するような「改善」がなされずに信頼性が低く、実践で使うと墜落する可能性があった。その後防衛省と陸幕は問題を総括することなく、ひっそりと調達が中止されている。つまり「なかったこと」にして幕引きを図ったのだ。だから同じような失敗を繰り返す。

田川評価科長の主張を素直に信じるならば国産装備の改修はなんの問題もなく、リーズナブルな価格で行えるはずだが、なぜ無人ヘリの改修がなされずに、こっそりと調達を止めたのだろうか。

““「海外製品ならば、最初の要員育成は操作員も整備員もとても高価な海外留学か海外からの教官招聘だ。新たな装備のための保管庫、整備工場も必要で、最新技術の厳重な、高額量産単価も霞むようなスーパー御殿になるかもしれない」””

またも「かもしれない」だ。

つまりは知らないけど、怖いよというアオリである。開発実験団の評価科長の職にあるものが、装備調達に関する実態を把握していないようだ。

だが彼の認識は事実ではない。例えば陸自が導入した狙撃銃M24の導入やカール・グスタフM3無反動砲などの導入で新たな整備庫、整備工場つくったという事実はない。海自のH-135はエアバスが国内に整備工場と訓練施設を持っているので新たな整備工場やお雇い外人は必要ない。また在日米軍機の整備をやっている日本飛行機は外国の企業だろうか。日本企業が外国企業の整備をキチンとおこなっているのだ。当然海自のH-135も新たな整備工場をつくったこともなければ、お雇い外人も雇っていない。

▲写真 エアバスヘリ H-135の海上自衛隊版 TH-135 出典:海上自衛隊ホームページ

確かにグローバルホークやF-35戦闘機導入ではそのような事があるが、先述のように防衛省はまともにそのコストについて交渉していないからだ。そのような費用が嫌ならばそのような装備を導入しなければいいのになぜ導入するのだろうか。

仮にそのようなコストがかかっても、例えば軽装甲機動車のように諸外国の3~5倍、機関短銃のように10倍もする役に立たない欠陥国産兵器を導入するよりも、外国製の方が信頼性も高く、結果としてライフ・サイクル・コストは安いことが多い

因みに外国製品の稼働率の低さ、パーツの高さは自衛隊側にも大きな責任があることが多い。国内にデポをおくことも要求せず、パーツや消耗品を海外から小ロット取り寄せることが多い。だから、不足すると調達に時間がかかる。そして少数をDHLとかで取り寄せて、日通の特別便を仕立てれば高くなるのは当たり前だ。

好例は海自の掃海MCH-101だ。MCH-101は川崎重工がライセンス生産を担当しており、田川評価科長の大好きな「国産装備」だ。だがその実態は単なる組み立て生産で殆どのコンポーネントを輸入している。たかだが11機を調達したために輸入品の2倍のコストに跳ね上がっている。そして「国産」にも関わらず、当初MCH-101の稼働率は8%程と極めて低かった。それは先述のようにパーツや補修品を少数ずつ調達してきたせいだ。

▲写真 海上自衛隊掃海・輸送機 MCH-101 出典:海上自衛隊ホームページ

これが改善して現在は6割を超える稼働率を実現している。つまりは防衛省、自衛隊側の責任だ。当初から輸入にして、整備だけを日本企業に行わせて、パーツを纏めて調達すればもっとライフ・サイクル・コストは下がったはずだ。外国の軍隊では普通に行われていることだ。それを自衛隊はできないだけだ。

陸自が輸入する小火器は外国で売られている価格の10倍を超えることが少なくない。これをもって陸自は、輸入火器は高いというが、これも陸自に非がある。わずか数丁、数十丁という軍隊としては非常識な少量を注文するから当然、単価も輸送量も商社の手間賃も高くなる。しかも特殊貨物扱いとして日通にチャーター便を依頼する。「わずか数丁の銃を運ぶのにチャーターするなんて・・・。まあ、ウチは仕事ですから運びますが」と、日通の社員が疑問を持つのは当然だ。

海自は以前住友重機が製造する機銃が高くて質が悪いので、外国製を導入しようとしたことがある。それで某国の国営企業に打診した。その時の条件が「100丁を10年間で調達、毎年各年で入札」であった。件の国営企業からは丁重に断られたが、それは、「ウチは小売店じゃありません」、ということだ。

このような世間知らずの胡乱な調達をすれば、調達単価が高くなるのは当然だ。かつて評論家の故竹村健一氏は「日本の常識は世界の非常識」と喝破したが、まさに「自衛隊の常識は世界の非常識」「自衛隊の常識は軍隊の非常識」である。

““「消耗部品、予備部品が当然必要だがプ●●ターのようなビジネスモデルで、本体以上に補用品がとんでもなくバカ高くなるといったようなことには注意が必要だ。使用する時間以上に整備期間が必要な装備もある。海外でしかできない整備が多くて、不稼働期間が何ヶ月にもならないだろうか」””

これまた「だろうか」と推測である。田川評価科長は伝聞にすれば責任を回避できると思っているのだろうか。そのような事実があれば具体例を挙げるべきだ。それをしないで(あるいは知らない)で誹謗中傷を行うのであれば、彼が1佐の階級にいる資格はない。

伏せ字の「プ●●ター」はプリンターのことだろう。こういうどうでもいいことを伏せ字にするのはSNSなどに巣食っている程度の悪い軍オタと同じレベルだ。だが、プリンター本体を安くしてインクカートリッジで稼ぐのは我が国を代表するメーカー、キヤノンのお家芸である。

““「まだまだ大事に使用している最中に突然やってくる補用品の生産中止やサポート終了のご連絡となればビジネスの範囲を超えられない『輸入品』とつくづく実感させられる」””

防衛産業はビジネスではない、というセンスには驚くしかない。ビジネスでないならなんなのだろうか。これも既にご案内の通り、自衛隊は検討に時間をかけすぎて、生産終了に近くになって毎年単年度予算でチョロチョロと調達して調達期間が非常に長いことに起因している。

陸自では小銃や装甲車を30年もかけて調達するが、そんな非常識な軍隊はよほどの最貧国以外には存在しない。30年もかければ調達半ばから既に旧式化しており、途中で近代化されている可能性が高い。当然前のパーツなんかある訳がない。

しかも自衛隊はこのような調達で単価の高い買い物をしているために、途中で近代化するための予算を捻出できない。

例えば装備のLCC(ライフ・サイクル・コスト)を30年とし、調達期間が5~10年なら、後25~20年はサポートを受けられる。対して陸自のように調達に30年をかけて、そこから更に20年サポートを維持するならば50年はサポート期間が必要だ。LCCを30年で計算する企業であれば自衛隊が調達完了した時点でサポートも完了する。

旧式化したパーツを少数作り続ければ、当然調達単価とLCCは跳ね上がり、旧式兵器に多額の費用をかけて維持することになり、費用対効果は悪くなる。それが陸自の装備が諸外国の軍隊の何倍も高いという現実につながっている。そんな異常で非常識な要求をされても海外のメーカーは困るだけだ。防衛産業も産業であり営利企業であるということが理解できないようだ。

更にもうせば、現在の装備品はコスト低減のために民生コンポーネントの流用が多い。このため当然ながらベンダーが部品を生産、保管するのは大抵7~8年だ。それ以上パーツを生産し続ける保証はない。だから途中で近代化を行い、同時にパーツの入れ替えをすることが多い。当然ソフトウェアもその場合更新される。だからこそ米陸軍はAH-64の兵站をボーイングに丸投げしている。

メーカーや商社と連絡を密に取り合っていれば、いつの段階で補修部品が生産中止になるか概ねわかるはずだ。それをしないで文句や不平を言うのであれば職務怠慢である。

また既に自衛隊でも一部導入が始まっているPBL(Performance-based logistics:成果保証契約)を活用、拡大する手段もある。PBLは特定のシステムやコンポーネントに関し、その部品や役務の数量や工数に対してではなく、業務評価指標の達成に対して対価が払われる。通常の契約よりも安価なコストで必要なパフォーマンスを達成することを目標とする、あるいは同じコストでより高いパフォーマンスを達成することを目標とする場合もある。

そのような当然行うべき努力をせずに、結果がでない、それは海外メーカーが悪いのだ、と責任転嫁を責任ある役職の人間がすべきではない。

““「開発から用途廃棄されるまでの何十年もの間、とことん責任を持って対応しようと、国内企業が見せてくれる『日本のために』という崇高な“理念”や“精神”の違いはとてつもなく大きい」””

まさに尊皇攘夷である。ビジネスに合理性ではなく、精神主義や浪花節を求めるのが当たり前だと思っておられるようだが、滅私奉公を求められる企業の側は迷惑だろう。まるで旧軍の亡霊だ。

そのような「『日本のために』という崇高な“理念”や“精神”」を持った三菱電機、島津製作所、富士通、東京計器、住友精機、住友重機などの国内防衛企業が何で防衛省に過去何度も過大請求するというスキャンダルを起こしたのだろうか。是非説明をして欲しい。それとも過大請求した企業は「外国企業」なのだろうか。

企業は営利団体なので、損してまで防衛省や自衛隊の浪花節には付き合わない。当然のことだ。損してまでも滅私奉公してくれるというのは思い込みだ。それに付き合うフリをしても、その分利益を乗せている。防衛装備品は原価+利益となっているが、原価に含まれている工数などを水増ししていることは公然の秘密だ。そうでないと赤字になるからだ。

高度成長期からバブルの頃、広告代理店は銀座や六本木のクラブやゴルフで担当者を接待していたが、それは当然ならが無料ではなく、請求書にオンされていた。それと同じことだ。田川評価科長にはそういう事情が理解できないのだろう。

そしてまた「『日本のために』という崇高な“理念”や“精神”」を持った住友重機は何十年も品質を誤魔化していた。そしてそれに陸自は気がつかなかった。発注側としての当事者能力が欠けているか、知っていて何らかの事情で放置したのだろう。

国内企業はそれでも利益が取れるように工数を誤魔化したり、マージンを乗せるなど「努力」を行っているが、それでも限界になっている。それでもう沢山と、戦闘機から住友電工や横浜ゴムが撤退、コマツも装甲車から事実上撤退中、ダイセルは防衛から撤退した。「『日本のために』という崇高な“理念”や“精神”」を持った企業が、である。

企業にしてみれば、このような非効率や無料奉仕を強いる防衛省に嫌気がさしているからだろう。利益率や利益額が下がれば研究開発や生産設備、従業員教育などへの投資ができなくなる。生産能力も低下する。そして事業として維持ができなくなる。滅私奉公を当然と期待するのは旧軍同様の精神主義でしかない。

経営者とすれば利益が低く、付き合いが面倒くさく、将来性もない防衛ビジネスから撤退を図るのは極めて健全な判断である。

そもそも常識があれば、慢性的に出血サービスしていたら株主から訴えられるであろうことはわかるはずだ。

それに多くの国内防衛装備品は外国製のコンポーネントを使っている。US-2飛行艇のエンジンは英国製、レーダーはフランス製、10式戦車の環境センサーもフランス製だ。通信機や電子機器の多くもカナダやドイツなどの海外製のコネクターなどを多用している。東芝が開発を失敗した空自用の偵察ポッドも主要コンポーネントは外国製だった。

▲写真 海自救難機 US-2。エンジンは英国製。 出典:海上自衛隊ホームページ

田川評価科長のご高説が正しいのであれば、「国産」装備も同様に、パーツの枯渇、高騰は起こることになる。また陸幕は暴利を貪っている外国企業の製品を何で採用することを了承したのだろうか。

国産の装備は深刻な独占、寡占によって守られているために、競争がなく、技術革新やコスト低減から遅れているという問題点もある。例えば海自の艦艇用ジャイロは汎用品と同じだが、東京計器と横川電子の2社が独占している。それぞれ戦闘艦と補助艦艇用をキレイに棲み分けている。

ジャイロ調達は競争入札ではあるが、事実上この二社以外が参入できないようにしている。だが外国製の方が国内製品よりも信頼性も高く、殆どメンテナス・フリーだ。しかも調達コスト約三分の一だ。性能もライフ・サイクル・コストは圧倒的に外国製のほうが高い。なぜこうなるかといえば防衛省による、意図的な「非関税障壁」によって外国企業との競争がまったく存在しないからだ。このために性能、品質、コストを向上させるインセンティブが働かない。これはメーカーの責任よりもユーザーである防衛省、自衛隊の責任が大きい。

商社の人間からは、外国メーカーに自衛隊の人間を連れて行くと、知識が不足しているために通訳できないことが多い、という話をよく聞く。

田川評価科長は海外の見本市に行ったこともなく、海外の軍人やメーカーの人間と議論をしたこともないのだろうか。基本的に開発実験団は海外視察をしない。

また海外の専門誌の調達関連の記事すらも読んだことがないのかと思ってしまう。自衛隊では海外の専門誌などを読んで勉強すると「おたく」とか「マニア」と揶揄されて出世ができない傾向が強い。

自衛隊は、ひたすら外界との接触を拒み、組織内で自分たちは正しいとお互いを褒めあっているかのようだ。だから世界の現状に疎く、自衛隊内の「身内」としか付き合わず、世間では通用しない理屈をこめて、自己正当化し、組織防衛を図る傾向が強いと思われる。

陸自の富士学校では合同調査会同と呼ばれる展示会が行われる。何の機密があるわけでないのに、メディアに取材を許さない。校長の訓話や発表は録音も撮影も禁止だ。筆者は一度業者の資格で視察したが、研究も大したレベルではない。業者のレポートをコピーしたようなレベルで、海外のコンファレンスなどの発表と比べるとかなりレベルが下がる。「内輪の会」で外部の批判を受けることがないので安易な発表を繰り返す。

だからいつまで経っても世間の変化や常識が理解できず、低性能、低品質でコストだけは高い装備を延々と調達して税金を無駄使いしていると見られているのだ。こういう合理性、経済原理を無視し、世間に通用しない組織の論理を押し通す、世界の実態を知らない井の中の蛙がまともな装備開発や調達ができるだろうか。

実は各省庁の予算のコストカットだけが注目される財務省だが、防衛省の海外出張、視察に対して鷹揚である。筆者は以前から申し上げているが、開発の現場の富士学校や開発実験団にこそ海外視察、情報収集をさせるべきだ。財務省は海外視察に年間数億円かかっても、性能や品質が怪しげで他国の何倍も高いクズなような装備を数百億円、数千億円かけて開発したり、調達したりされるよりは遥かにマシであると考えている。

田川評価科長は、記事はあくまで「個人の感想、意見です」と逃げを打っているが、それは通用しない。その職責にまさに中核たる事柄について思い込みで書いている。装備の評価をまともにできない人間がその職にあって職権を乱用しているのであれば到底許されることではない。

例えば陸幕長が、いざとなれば隊員にバンザイ突撃させるとか、自衛隊に反対するジャーナリストや議員は警務隊に拘束させると「個人の感想、意見」を雑誌で述べれば懲戒は避けられないだろう。

この彼の記事を読んだ海外のメーカーや商社は陸自の装備調達のあり方に疑惑を抱くだろう。そうなれば真剣に日本に対するビジネスを考えなくなる可能性は少なくない。それは陸自、防衛省の信用だけではなく、我が国の信用を毀損することであり、国益を大きく損なう。

実は田川評価科長のような考え方をもつ幹部(将校)は少なくない。それはきちんとした軍事や調達の教育を受けておらず、仲間内でオダを上げて自分たちは正しいと言い合って、民主国の軍隊であれば当然開示している情報をひた隠し、他流試合をしないからだ。

繰り返すが、外国製が高い、アフターサービスが悪いというのは防衛省側にまともな知識と交渉力、調達能力が欠如していることが原因であることが多い。自衛隊でも交渉している例がある。例えば海自がイージスシステムを導入した際には、ソフト導入時には米側から隻数×単価で要求された。だが、海自の担当者はほぼ同じソフトでそんな要求は飲めないとメーカーの人間を追い返した。後日メーカーはリーズナブルな価格を提示した。担当者に知識と度胸があればそういう交渉ができるのだ。

また防衛省は米国からのFMS(有償軍事援助)を言い値で支払ってきたが、近年値段や引き渡し条件で交渉を始めて徐々に成果を上げている。田川評価科長にはそういう能力がないのだろう。過度に高い、条件が悪いとわかっている海外メーカーとは付き合わなければ済む話だ。

自衛隊は他国の軍隊と比べても非常に閉鎖的な内弁慶的な組織で自画自賛を繰り返している。まさに「自閉隊」である。だから世間や軍隊の常識からずれていることに気が付かない。繰り返すが「自衛隊の常識は世界の非常識」「自衛隊の常識は軍隊の非常識」である。

諸外国の軍隊もお役所であり、不効率な、いわゆるお役所仕事は少なくない。それでも常に改革しようと努力をしている。自衛隊に多くは求めないが、せめて諸外国の軍隊並みの能力を持ってほしい。彼らが使っているのは我々が納めた税金なのだ。

トップ写真:陸自戦闘ヘリコプター AH-64D 出典:陸上自衛隊装備品公式アルバム・アーカイブ


この記事を書いた人
清谷信一軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家

日本ペンクラブ会員

日本コスト評価学会会員

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 1962年生。東海大学工学部卒。

軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。

08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。

軍事を主たるフィールドとし、海外取材活動(欧州、中東、南アフリカなど)を活かした国際的な見地に立った著作活動を行う。内外の具体例に基づいた防衛省・自衛隊批評や提言は元防衛庁長官、石破茂氏にも影響を与え、石破氏が長官時代の防衛庁改革ではその指摘の是正が少なからず実現した(三自衛隊の統合運用や特殊部隊、狙撃部隊の創設、陸自の旅団導入、空自の基地警備、海自の地方隊の縮小など)。

自ら起業して、貿易や小売業を手がけており、起業家の視点からの執筆も多い。またサブカルチャーにも造詣が深い。90年代初頭からアニメやマンガなど日本のサブカルチャーの世界進出をいち早く予見、これを国益の観点から論じた。著書「ル・オタク フランスおたく物語」はこの分野の基礎文献となっている。

専門誌はもちろん、右は「正論」から左は「週刊金曜日」まで幅広い媒体にイデオロギーにとらわれず寄稿。また、日経ビジネスオンラインや朝日新聞のWEBRONZA+などのネット媒体にも寄稿。

〔著作〕

  • 国防の死角(PHP)
  • 専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
  • 防衛破綻 「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
  • ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
  • 自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
  • 弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
  • こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
  • 不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
  • Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。

〔共著〕

  • 軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
  • すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
  • アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
  • ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
  • 世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)
  • 間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)
  • 真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
  • 熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。

〔監訳〕

  • ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
  • SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)
  • 太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)

〔ゲーム・シナリオ〕

  • 現代大戦略2001~海外派兵への道~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2002 ~有事法発動の時~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略2003 テロ国家を制圧せよ(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2004 ~日中国境紛争勃発!~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2005 ~護国の盾・イージス艦隊~(システムソフト・アルファー)

 

清谷信一

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