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.政治  投稿日:2020/9/26

見識と戦略性ある国連外交を【菅政権に問う】


植木安弘(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)

「植木安弘のグローバルイシュー考察」

【まとめ】

・日本の国連評価は29%とダントツに低い。

・日本の国連への不満はコロナ禍を契機に一気に高まった。

・これからの日本は現実主義と理想主義を合わせた視点と政策が必要。

 

多国間主義を基調とする国連や他の国際機関で日本の顔と声があまり出てきていない。それは、大きな国際変動が起きている中で、日本がそのような動きを正確に捉え、自らの立ち位置を理解して、独自の視点を形成するといった見識と戦略性のある多国間外交を展開していないことに起因するのではないかと思われる。

また、日本国民の間でも多国間主義への関心が薄れているのは、特に米国のトランプ政権による一方的な国際保健機関(WHO)批判やイランへの核合意からの撤退といった多国間主義からの後退に追随して独自の視点や政策を提供していないことに加え、コロナ禍への対応が不十分な中、内向きの傾向がさらに内向きになっていることにもあると考えられる。

米国のPEW研究センターが9月21日に発表した先進国14カ国の国連に対する評価に関する世論調査では、日本の国連評価がダントツに低く、世界の注目を浴びている。昨年は評価するが47パーセントあったのにも関わらず、今年は29パーセントと18パーセントの急激な減少となった。

トランプ政権は国連やWHOなどの国連機関には批判的だが、米国国民や他の先進国の国民の国連に対する評価は6割から7割と依然と高い。日本国民の評価は、人権、平和、経済開発、保健衛生、気候変動といった各分野の問題への対処で、ほぼ全面的に最低の水準となっている。特にコロナ禍への対処では先進国中最低の評価だ。米国でさえ5割に達しているのに対し、日本は4割程度だ。国連が自国の国益になっているか、普通の人のためになっているかといった質問に対しては、僅かに24−26パーセントと極端に評価が低い。

米国のWHO批判は、11月の大統領選挙で再選を狙うトランプ大統領の政治的思惑が深く関与している。コロナ禍で世界で最大の感染者と死者を出し、その対応が批判されている中、トランプ大統領は自らへ批判の矛先をWHOと中国になすりつけている。コロナ禍が始まった1月にはトランプ大統領は中国の習近平国家主席の対応を絶賛していたことを考えるとその豹変ぶりは極めて国内政治的であることが分かる。しかし、そのような事情が日本では十分に理解されていないのではないか。

日本の国連への不満には、長年世界第二(現在は中国に抜かれ第三位)の財政拠出国であるにも関わらず安全保障理事国改革で自らが常任理事国の地位が確保出来ていないことがあったものの、国連の平和維持活動(PKO)への貢献や国連機関への高い財政的貢献は続いていた。しかし、2017年に政情不安な南スーダンから施設部隊を撤退させて以来、日本の国連PKO貢献は南スーダンPKOの本部要員4人に留まり、それに伴って国連PKOに対する関心も低くはなっていた。それでも、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)や気候変動に関するパリ協定などは受け入れてきたし、昨年まで国連への肯定的評価は否定的評価を上回っていた。これがコロナ禍を契機に一挙に下がったのである。

▲写真 自衛隊南スーダン派遣 出典:パブリックドメイン

日本の平和と繁栄は、国際の平和と協調なくしては安定的に持続させることは出来ない。国連は、特に大国が政治的に対立している時には有効な対策を打ち出せないことが多いが、それでもグローバルな課題の解決に多くの貢献をし、国際行動規範を設立したり、人権を保護・促進したり、気候変動への対処や持続可能な発展のための協調行動を促進しており、コロナ禍への対応では、一部批判はあったものの、WHOを中心に国際保健衛生規約に基づいた提言やワクチンが出来た場合の公正な配分などを実現すべく行動してきている。国連は国際機関であり、世界政府ではない。国連を構成する主権国家の深い関与とサポートが必要である。日本が、より現実的かつ実質的なサポートを行い、国際協調を進化させるためには、国連は何が出来、何が出来ないのか、また、どこをどのように改善していったら良いのか、明確な分析と理解が必要で、その中で日本の役割を考えていかなければならない。

日本は、2022年に安全保障理事会非常任理事国選挙に出る。そして、2023年から2024年にかけて2年の任期で安全保障理事会で活動することになる。世界最多の12回目の安全保障理事会入りとなる。それが、単なる地位の獲得だけで終わるのではなく、世界の重要な一員として実質的な貢献が出来るようにしなければならない。そのためには、現実主義と理想主義を合わせた視点と政策が必要であり、そのような政策を実行できる素地を今から作り上げていかなればならない。

日本の安全保障にとって米国は極めて重要であることに間違いはないが、だからといって常に米国に追随しているのでは、日本の本当の評価に繋がらない。11月の米国大統領選挙でバイデン氏が当選すれば、米国はオバマ政権時代の国際協調主義に戻ることが予想される。とはいえ、国際政治が大きく変動している中、現実に米国がどの程度国際社会を再度リードできるかには大きな疑問が呈されている。そのような中で、日本がしっかりと根を張った政策を打ち立て、国連を含む多国間外交に強く貢献していくことが出来るかどうか。新たな菅首相には大きな試練となろう。

トップ写真:国連 出典:Needpix.com


この記事を書いた人
植木安弘上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授

国連広報官、イラク国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、東ティモール国連派遣団政務官兼副報道官などを歴任。主な著書に「国際連合ーその役割と機能」(日本評論社 2018年)など。

植木安弘

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