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.政治  投稿日:2020/10/7

日本学術会議は解散したら?


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・日本学術会議は極端なイデオロギーに偏向。

・軍事研究に一切協力しない方針こそ「研究の自由」の侵害。

・京都大、学内で軍事研究は実施しないとする基本方針を策定。

 

日本学術会議の新会員の推薦を、政府が関連を無視して6名を認めなかったことで、議論となっている。日本学術会議関係者やメディアが「学問の自由」が侵されたという主張しているが、別に政府が「彼らの学問の自由」を奪ったという事実は存在しない。

単に「日本学術会議会員」というステイタスを得られなかっただけだろう。筆者はこれまで安倍政権、菅政権に対して一貫して批判的な態度をとってきた。だが、その筆者でも今回安保法制拒否の立場の候補者を狙い撃ちしたのは大人げないとは思うが、方向として間違っているとは思わない。

何故なら日本学術会議は極端なイデオロギーに偏向しており、軍事研究を頭から否定し、まさに「学問の自由」を弾圧している組織だからだ。

そのやり方は自分たちの主張にそぐわない女性の振り袖やパーマをかけた頭髪を切ったりした「国防婦人会」と酷似している。このような組織に国費を投じ、公務員としての待遇を与えるべきではない。

 

■ 日本学術会議は軍事研究に一切協力しないという極端な態度をとっている

学術会議が世間で話題になるのはその政治活動である。2017年には軍事的安全保障研究に関する声明を出した。これは1950年の「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」という声明と1967年の「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を継承するもので、防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」に大学が協力するなと提言している。

この影響で京大などが軍事研究を禁止したが、その範囲ははっきりしない。学術会議は「研究成果は時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用される」ため、軍事に関連する分野の研究も禁じているが、この基準でいうとコンピュータの研究は全面禁止するしかない。現代ではコンピュータを使わない兵器は存在しないからだ。

参考記事:学術会議を民営化して「学問の自由」を取り戻そう(池田信夫)

▲写真 京都大学時計台 出典:Soraie8288

京都大学は日本学術会議の意に沿って以下の通り公式HPにて軍事研究を禁止している。

「本学における研究活動は、社会の安寧と人類の幸福、平和へ貢献することを目的とするものであり、それらを脅かすことに繋がる軍事研究は、これを行わないこととします」

(参考記事:京大、軍事研究しません。研究活動は「平和への貢献を目的とする」

本来軍事研究に協力するしないは個々の研究者の問題だ。「権威的な団体」が圧力をかける問題ではない。それこそ「研究の自由」の侵害であり、憲法違反だ。

確かに前の戦争の直後であれば、軍部独裁、大政翼賛体制で科学者が意にそぐわず軍部に協力させたれたことに対する反省もあり、世論のシンパシーも得られたらだろう。だが戦後の我が国は軍事独裁国家ではなく、色々と問題はあるにしても「成熟した民主国家」である。学者が軍事研究に協力したら軍事独裁政権が生まれるわけでもない。

軍事研究を通じて平和に貢献したという研究者はいるがそういう意見が日本学術会議の圧力によって圧殺されている。

軍事研究の否定=平和というのは小学生レベルの思考だ。登山で山頂を目的とする場合に、麓から一直線に山頂を目指すことだけが、正しく、迂回路を通ったり、現実的な登山ルートを通ることを「悪」であるときめつけるようなものだ。そして無理な登山をすれば遭難は必至である。

仮に我が国で全く軍事技術を保持しないとしよう。その場合、まず考えられるのは外国の軍事技術との格差だ。端的に申せば、敵国がターミネーター2のようなロボットで攻めてきて、自衛隊は生身の隊員が圧倒的な不利な状況で、竹槍で戦う、ということだ。それは国民も同じだ。近年の戦争では軍隊よりも民間が被る被害の方が大きい。

▲写真 米軍ロボットテスト 出典:Flickr; The U.S. Army

そして戦争に負けて占領されれば、主権を失う。日本学術会議が尊重しているであろう「平和憲法」も停止されるだろう。例えば中国に占領されれば、ウイグル人のように、人権や思想、宗教の自由が奪われ、女性は堕胎を強要されることも想像に難くない。

また自前の技術を持たずに米国に軍事力を依存することも起こり得る。この場合米国に生命与奪権を握られて属国化する(現状でもそれに近い状態ではある)。米国の属国化が進めば、米国の意向に逆らうことができなくなる。また米国の戦争に「属国」として参加させられることにもなるだろう。それをよしとするのか。

無論、現在の世界では兵器市場で多くの兵器が入手可能であり、大抵の兵器はカネさえ積めば調達が可能だ。我が国のように米国製兵器を常に本命に買うと決めていればボラれるが、複数を競わせれば、高性能なものを安価に調達することも可能だ。

だが、それらの兵器を調達するためには、技術的な目利きが必要であり、それがなければ現実的な調達はできない。そのためには独自の軍事技術の保有は必要だ。

日本学術会議は、我が国は兵器を輸入すればいいのだ、という見解なのか、それとも軍備自体がけしからん、というのだろうか。

後者あれば自衛権を否定し、国家の独立を維持することも否定することになりかねない。

それは「平和憲法」を放棄してもいいとこことになる。

また何を持って軍事研究かという線引も困難だ。

その典型例がサイバー分野だ。サイバー攻撃は相手が軍隊か民間か分からない。そして攻撃対象も防衛省や自衛隊だけとは限らない。株式市場や金融機関、発電所、空港などがサイバー攻撃を受ければ大規模な事故や災害が起こったり、国民生活が混乱を来たしたり、財産が失われる可能性もある。現在は自衛隊は民間への攻撃に対しての防御を行っていないが、今後国家として社会インフラであるネットを守ることは必要不可欠だ。それには軍事、非軍事の区別はない。

同様に生物兵器の研究もある。防衛省では生物兵器に対する研究を行っているが、これは我が国に対して生物兵器が使用されたときに対処するためであって、他国を攻撃するためものものではない。これも「軍事研究」といって学者が組織的に協力を拒むのは国民の命を危うくすることになる。日本学術会議の主張をそのままとれば、そもそも疫学や細菌に対する研究は生物兵器に転用が可能であり、禁止しなければならないだろう。

またドローンやドローン防止に対する技術も同様に軍民の垣根は極めて低い。

何が「危険な軍事研究」かという判断を、学者の団体、しかもかなり思想的に偏っている団体に預けるのは極めて危険と言わざるを得ない。

軍事研究を否定するのであれば、そのあたりのスタンスを明らかにすべきだ。単に嫌いだから嫌だ、ではお子さまレベルだ。

 

■ 「教養」ある学者のすることではない

京都大は28日、学内で軍事研究は実施しないとする基本方針を策定した。「社会の安寧と人類の幸福、平和を脅かすことにつながる」と理由を説明している。個別の事案が適切かどうかは、学長が常設する委員会で審議する。

一応は学校側が判断するものの、学長や主流派に逆らって、軍事研究をしようという学者がどれだけいるだろうか。

軍事研究への弾圧は単に研究者や教官だけの問題ではない。学生にとっても弾圧だ。軍事研究を否定するのであれば、卒業生の就職も制限すべきだろう。入学に際して、防衛関連企業へ就職しないという、念書をとることも必要だろう。もし防衛関連に就職するならば学位は取り上げる、とですればいいだろう。無論これは憲法に抵触するだろうが、成果物を軍事利用させない、という主義であるならばそこまでやる必要があるはずだ。そのような考え方は民主国家にはなじまない。

日本学術会議の「絶対平和主義」の幼稚なところは、理系だけを対象にしていることだ。理学や工学以外でも軍事に転用できない学問は殆どない。心理学、文学、医学、歴史、社会学、言語学、経済学、経営学、会計学、運動学あらゆる学問は軍事に応用や利用が可能だ。先の戦争でも暗号解読などは数学者や言語学者や活躍したが、日本学術会議にはそのような何が軍事技術に関する教育かという視点も教養もない。

そして今回菅内閣から拒否された加藤陽子教授は「軍事研究」を行い、書籍も多数執筆している。誰が「いい軍事研究」と「悪い軍事研究」を決めるのだろうか

この手の人達は軍事と聞いただけで嫌悪感を持ち、絶対悪だと決めつける。それは医者や患者が忌まわしい病気に対する知識をえることも研究することも悪である。「健康健康」と唱えていれば健康になるというような宗教でしかない。

単純すぎる底の浅い平和主義をすべての研究者や国民に強要するのであれば、それは軍事に対する無知を生むことになる。強圧的な偏向思想組織である日本学術会議は解散すべきだ。

トップ写真:日本学術会議 出典:Hanonimas


この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


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清谷信一

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