[小泉悠]<ウクライナ問題で接近する中露>尖閣周辺での中露軍事合同演習や最新鋭武器の輸出
欧州でロシアの孤立が決定的になり、米国との関係が先鋭化すれば、中露はさらに安全保障協力を緊密化させる可能性が高い。もちろん、中露軍事同盟にまで至る可能性は高くないにせよ、現在交渉中と伝えられる最新鋭の武器(Su-35S戦闘機やアムール型潜水艦)を中国に供与することや、尖閣周辺でさらなる中露合同演習を行う等、日本周辺の安全保障環境が不安定化することにつながりかねない。
もっとも、ロシアとしても中国との関係を深めすぎることが決して好ましいわけでないことは、前述したバランス政策からも明らかであろう。中国という巨大な隣人とロシアが単独で対等な関係を築くことは、政治的・経済的・軍事的に不可能か、さもなくばあまりに膨大なコストを要求するし、将来、米中が冷戦関係に陥った場合に中国側に立って巻き込まれることもロシアとしては避けたい。
また、シベリアや極東が経済的に停滞し、人口流出が止まらないことをロシア政府は国家的脅威と捉え、外資の導入によって振興を図っているが、中国は資源を買っていくばかりで直接投資はごく少ない。そればかりか、中国がいずれシベリアや極東を侵食し、自国領だと言い出す可能性はロシアで幾度も繰り返し指摘されてきたし、中央アジアや北極圏といったロシアの戦略的利益圏への中国の進出にも、ロシアは懸念を抱いている。
その意味では、すでに極東に対して多くの投資を行っており、大きな軍事的脅威となる可能性も低い日本は、ロシアにとっては非常に筋の良いパートナーと言える。前述した中国へのバランサーとしての意味でも、日本との関係は悪化させたくないというのがロシア側の期待であろう。
日本側においても、安倍政権は対露外交を対外政策の柱に据えるとともに、インフラ輸出など産業面でも強い期待をかけてきた。それだけに、G7の一員として最低限の制裁措置には参加しつつ、谷内安保局長を訪露させるなど、ロシアとの関係維持を図っているように見える。
こうした中でロシア軍はここ数日、日本周辺で連日のように偵察機や爆撃機を飛行させ、北邦領土の軍事インフラ近代化計画を公表するなどしている。オバマ大統領の訪日を前に、米国の対ロ姿勢に日本が過度に同調しないようけん制する意図があるのだろう。
軍事力をちらつかせるロシアのやり方は褒められたものではないにせよ、長期的な戦略的見地に立って、ロシアとの関係を冷静に判断することが求められている。
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【プロフィール】
- 未来工学研究所・客員研究員
1982年、千葉県生まれ。早稲田大学社会科学部、同大学院政治学研究科を修了。民間企業勤務を経て、外務省国際情報統括官組織専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員。
現職は未来工学研究所客員研究員。