仏の暴徒「ブラック・ブロック」
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・仏、グローバルセキュリティー法案に反対する大規模デモが各地で開催。
・政府は警官保護の観点から、顔の撮影を禁じる法案の成立を目指す。
・デモに現れ暴行を働く「ブラック・ブロック」がさらに問題化。
フランスでは新型コロナウイルスの感染状況がピークをすぎたことを受け、段階的な外出禁止の緩和が始まった。11月28日からは生活必需品以外の販売が再開されたため、その日はクリスマス用品などを探す人々が買い物を楽しみ、およそ1か月ぶりに街がにぎわったのだ。
しかし、買い物客がその華やかで幸福な時間送っていた同じ日に、パリをはじめとする全国各地でグローバルセキュリティー法案に反対する大規模なデモが開催された。そして、残念ながらそのデモは最後には暴徒化し、車や銀行への放火や破壊、警察の治安部隊への暴行にいたり、治安部隊62人が負傷し、デモ参加者の81人が拘束されるという結果を迎えた。
警察の暴力の表面化
ここ最近のフランス情勢を象徴する言葉といえは「暴力」であろう。立て続けに警察の暴力が問題になっている。一週間前にパリ郊外の広場を移民労働者が不法占拠した際にも、警察の治安部隊による暴力が問題になったばかりだ。
また、その数日後には音楽プロデューサーの黒人男性が警察官4人から暴行された事件が発覚。提供された動画では、「汚い黒人」と叫びながら被害者の顔面を少なくとも7発も殴りつけている姿が確認できる。このように度重なる警察による暴力が明るみにでる中、マクロン大統領は「暴力と人種差別は許されない」と非難し、政府に原因究明に取り組むよう指示。そして、警官も国民も模範的な行動をとるように呼びかけている。
グローバルセキュリティー法案とは?
警察の暴力は以前からあった問題ではあったが、これらの警察暴力が最近のように表面化してきた理由は、多くの人が携帯電話などで昔よりも手軽に動画を撮影できるようになったからである。それまでは今回の黒人男性の事件のように、虚偽の報告書が書かれている場合もあり、隠蔽されていてもその証拠がなかった。手軽に動画がとれるようになったことは、暴力を受けた被害者にとって大きな味方になったと言えるだろう。
しかしながら手軽に撮影できるようになったことによる弊害として、警官のプライバシーがネットで拡散され、警官がプライベートな時間に攻撃を受ける事件が増加したのだ。そこで、政府は警官の身を守るためにも、顔などの撮影を禁じる法案の成立を目指しているのである。
ジェラルド・ダルマナン内務大臣によれば、グローバルセキュリティー法案が成立しても、「警官を撮影する権利は常にあり、法律に違反する問題があればその動画を検察官に送る権利もある。だが、インターネットで流すようなときには、警官の顔をぼかす必要がある。」ということであり、なんら権利を阻害するものではないとしている。
だがジャーナリスト組合や人権団体などは、この法案が成立すれば、「表現の自由を制限される」と主張しており、それらの団体の呼びかけにより、フランス各地でデモが開催されたのだ。内務省によればパリではおよそ4万6000人が参加したという。デモでは、「メディアがもう二度と動画を使用して問題を訴えることができなくなる」、「撮影ができなくなる」、「警察の暴力の表面化を制限される」と訴えたり、「警察の暴力を止める」ためにも法案に反対する人々の姿が見られた。
ダルマナン内務大臣の説明から考えても、「撮影ができなくなる」などは誤解が元になっていると思われるが、確かにこの法案が通ればインターネットで流す場合は警官の顔をぼかさなければいけないことで、気軽に加工無しの映像をアップできなくなるのは事実であろう。映像を拡散するのはメディアだけではなく一般市民にも多く存在しており、違反すれば罰金が科せられるとなれば、映像公開のハードルが上がる。これによって不用意に警官のプライバシーがさらされる危険性は減少するが、利用者にとっては気軽に映像を投稿しにくくなると予想でき、そういう理由も含め法案に反対している人もいる。
「ブラック・ブロック」という暴徒
しかし、いずれにせよ正当な理由でデモ行進が行われる分には問題がないが、それよりも、デモを開催することにより、破壊行為を目的とする暴徒が集まってくることが今回も問題となった。それが「ブラック・ブロック」と呼ばれる黒づくめの服を着用し覆面をした集団だ。
ブラック・ブロックの中には、混乱を誘導するために戦闘的無政府主義者(アナキスト)や反資本主義運動家もいる可能性は高いが、大多数はデモなどに便乗して商品強奪のためにやってきたり、もしくは破壊を楽しむ小さいグループの集まりである。
今回のデモにも、この100人前後のブラック・ブロックが現れた。結果、出発点のレピュブリック広場での穏やかなデモ行進とは対照的に、到着地点であるバスティーユ付近では、フランス銀行や複数の車などへの放火、商業施設やキャッシュディスペンサーの破壊、そして警察の治安部隊との激しい衝突が起こったのだ。
特に今回は、治安部隊への暴行が目立った。空き瓶を投げつけたり、蹴り倒して地面に倒れている間に殴打を繰り返す。そんな状況を映し出す映像がSNSに拡散されていったのだが、その様子はあたかも戦場のようでもあった。大人数が集まる中、ごく一部で行われたこととはいえ、あまりの惨状に驚きを隠し切れない。警察の暴力を抑制するために法案に反対するとしたデモが、なんと警察への暴力で終わってしまったのである。これに対し、ダルマナン内務大臣は「警察に対する容認できない暴力」と非難した。
いかに「暴力行為」を無くしていけるか。それが現在フランスが抱える課題の一つなのだ。そんな暴力の一つを無くすために通そうとしているのがグローバルセキュリティー法案となる。それが吉とでるか凶と出るかは今のところ不確かだが、暴力は暴力を呼び続ける。どこかでこの連鎖を断ち切る努力が必要なのは間違いないだろう。
参考リンク
Loi sécurité : l’exécutif sous pression – 28/11
VIDEO. Manifestation à Paris : un policier poussé au sol et tabassé par des casseurs
http://www.assemblee-nationale.fr/dyn/15/textes/l15b3452_proposition-loi#tocUniqueId29
トップ写真:フランスの警察 出典:Needpix.com
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。