仏悩ます移民問題と警察の暴力
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・パリ郊外の広場を移民労働者が不法占拠。警備隊が撤去に乗り出す。
・警備隊の移民やジャーナリストへの暴力が問題に。
・コロナ禍で冬を控え約1万3千人が移民キャンプで生活。社会問題に。
11月23日、フランス・パリのレピュブリック広場に約400人の移民労働者が集まりテントを並べ不法に占拠した。そこで、警察などの警備隊が解散させようとしたところ大きなもめ事に発展。現在、警備隊によるいくつかの暴力行為などが問題になっている。
はじまり
ドイツのアンゲラ・メルケル首相と行われた2017年6月23日の記者会見で、フランスのエマニュエル・マクロン大統領がはっきりと言っているが、フランスは、伝統と誇りにかけて、移民を受け入れている。移民と一言でいっても、働き口を見つけるために来る移民労働者のことではない。戦争で自国に住めなくなったり、政治で迫害された難民や亡命者を受け入れているのだ。そして、7月27日マクロン大統領は難民・亡命認定を求める移民に住居を提供することを公約として掲げた。
その流れを受け、中東、アフリカ、東欧などから多くの移住を求める人々がフランスにたどり着いており、現在は、パリ市北東部とパリ郊外のセーヌ=サン=ドニ県に自然発生のように大きな移民キャンプができている。野外で生活するがため、衛生状態の悪さが常に指摘されており、各地で定期的に一時滞在施設への一斉移動が行われている。警備隊とともにバスがやってきて、野外生活している人々を屋根がある一時滞在施設まで連れていくのだ。しかし定期的に行っても2,3日もすればまた人が自然に集まってくるため、セーヌ=サン=ドニ県内だけでもすでに65件行われてきた。そして先週の火曜日に66件目の大移送が行われたのだ。
9月には230人だったキャンプだが、11月の時点で約2000人に増加しており、亡くなった方もでて問題にもなっていた場所だ。そこで移送が決まったが、移送前夜には一時滞在施設に行けるバスに乗ろうとさらに約1500人が集まりキャンプの人数は約3500人にも膨れ上がった。3500人と言えば、フランスでは小さなの町が形成されてもおかしくない規模である。移送し、宿泊先を用意するだけでも大変な作業だ。結局、この時は全員がバスに乗れず、約700人が残されたのだ。
パリのレピュブリック広場での違法なデモ
多くの人が移送されなかったことを受け、これから冬になる野外で凍えることがないようにと、一時滞在施設に入れるように支援するため
Utopia 56、France terre d’asile、Médecins Sans Frontièresなどのいくつかのアソシエーションがデモを企画した。移民労働者と共にレピュブリック広場にテントを張って訴えることにしたのだ。
しかし、ここで問題だったのは、このデモは許可された正式なデモではなかったことだ。そのため、不法占拠として警備隊が強制的な撤去に乗り出した。しかしながら支援団体をはじめ、そう簡単に撤去に応じるはずがない。抵抗も激しく、そのため警備隊の何人かが人がまだ中にいるテントを強引に持ちあげ撤去しようとしたり、文句をいう人に対して足蹴りをしたり、逃げ惑う人の足に足をひっかけ転倒させたり、ジャーナリストにも暴力を振るった。
移民労働者が、パリの象徴的場所であるレピュブリック広場を占拠する様子にすでに衝撃を受けていたところへ加え、警備隊が行う暴力的な映像にさらに驚き、これを見た多くの人が二重のショックを受けることにもなった。
この結果起こった3つの問題
この結果、3つの問題に発展した。一つ目は「警察の暴力」、二つ目は「その警察の暴力を確認するにも、警察官の顔を撮影して拡散することを禁じる、現在検討中のグローバルセキュリティー法案が表現の自由を阻害する疑念」、そして「これから厳しい冬を迎え、さらにコロナの感染が広がっている中、野外で生活する人々への迅速な住居提供」についてである。
警察の暴力に対しては以前からも指摘されていることであるが、今回に関してはジェラルド・ダルマナン内務相も解散要求時のいくつかの画像が「衝撃的」であると認め、警察署に「詳細な報告」を求めるとツイートしている。そして、次の日の火曜日の朝、報告書を受け取り、「警察の警察」である国家警察総監(IGPN)に送付し48時間以内に結果を報告することを約束した。IGPNも、報告書を受け取るとすぐに、足をひっかけて転倒させたことについてと、ジャーナリストへの暴行について詳細の調査に入ったのだ。
グローバルセキュリティー法案に対しては、ジャン・カステックス首相は、「自由を侵害することは決してないだろう。」と保証した。そして、メディアの、表現の自由が侵害されるという言い分には、「これらは完全に根拠のない疑念である」と彼は付け加え、「事実に光を当てるような画像を誰かが撮影したり放送したりすることを妨げることはない」と説明した。最終的には火曜日に行われた国民議会において圧倒的賛成で法案が通ったのだ。
そして、宿泊施設を必要とするすべての人々については、宿泊などの案内を行う受け入れセンターで紹介していることを強調した。
受け入れセンターはパリでも2019年に次々と出来たが、あまり知られていないようだ。先週行われた大移送時にもバスに乗れなかった人々が、「パリのセンターに行ってください」と言われたという証言があるが、受け入れセンターのことだったのでないだろうかと推察する。
11月頭に野外の移民キャンプで生活しているのは約16000人と言われおり、そんな中、先週約3000人が一時待機所に行くことができた。だが、現在、フランスでは、まだ約1万3000人が移民キャンプで生活し続けている。
トップ写真:パリ郊外のレピュブリック広場で寝泊まりするホームレスの移民たち(写真は2015年10月3日撮影のもの) 出典:Janne Menjoulet
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。