無料会員募集中
.国際  投稿日:2021/2/2

厳寒のNY、飲食業界の苦悩


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・クオモ州知事、NY市内レストランの屋内営業を条件付で許可。

・NY飲食店は屋外ダイニングに設備投資し生き残りをかけている。

・根本解決の為ワクチンへの期待高まるも、接種スケジュールに遅れ。

新型コロナウィルスによる市民生活への影響は、日本と同様、終わりが見えない。ただ、1月下旬になって感染の広がりに歯止めがかかりつつある。

クオモ・ニューヨーク州知事は1月29日、昨年12月初旬以来禁止されていたニューヨーク市内のレストランの屋内営業を許可する決定をした。

2月14日、バレンタインデーの日から営業ができる。だが客数は最大定員の25%、営業時間は夜10時までと条件付きだ。

ニューヨーク州の策定する陽性率4%の基準を上回ったとして、飲食業は昨年末から屋内での営業を禁止されていたが、ホリデーシーズンがおわり、感染率が基準を下回る見込みが出てきたので今回の決定となった。

現時点での州全体での陽性率は5%近いが、これでも東京都の陽性率より低い

業界側、市民の側からも歓迎の声はもちろんが多いが、追い詰められギリギリの対応を強いられてきている業界からは、まだ営業再開まで2週間もあり、営業も定員の25%までしか認められないことに不満の声が聞こえる。

飲食業界からは、外食産業が「科学的根拠に基づかず」不当に扱われている、という訴訟も起こされている

クオモ知事は、先週頭まで、インドア・ダイニング再開について「考えていない」と述べており、急な方針転換には、これらの訴訟も含め、その後いろいろな検討があったのと思われる。

新型コロナの感染者がどこで感染したかを調査したデーターを見ると、自宅で他人を招いた集まりやパーティーでの感染が全体の74%と圧倒的に多く、インドア・ダイニングで感染した、という人は1.4%のみで、そういう主張も理解できなくはない。(出典:What New York’s Contact Tracing Data Show

ただ、これは感染経路が追跡ができた人たちのみのデーターで、科学的裏付けと言えるのか疑問はある。

今日まで、外食産業は多大な犠牲と投資を強いられてきた。

外食産業レポートサイト「Eater」によれば、全米レストラン協会の昨年11月下旬の段階の調査で、ニューヨーク市内の飲食店は、すでに4,500軒が閉店に追い込まれた可能性がある、とのことである。(出典:More Than Half of New York’s Restaurants Are in Danger of Closing: Survey

1年前まではニューヨーク市内には少なくとも25,000軒のレストラン、バーがあった。その後も、昨年12月にインドア・ダイニングが禁止命令が出た時点で長期休業に入った店や、再開の見通しが立たない中、家賃などの問題も抱える店の中にはもはやこれまで、と閉店する店も多く出た。

残っているレストラン、バーも、まだアウトドア・ダイニング(屋外営業)しか許可されていない状況下で、真冬のニューヨークで生き残るのに必死だ。生き残っている店舗の努力はすさまじく、涙ぐましいほど必死だ。

札幌とほぼ同緯度のニューヨークの冬は厳しい。現にここ数日の気温はマイナス5℃以下である。雪も降る。そんな中、仕事帰りに立ち寄りたい温かいカフェや、レストラン、バーなどがないのだ。落ち着ける環境ではない。

屋外で営業する多くの店は、一人でも多くの客に来てもらうため、温かく食事ができるように、屋外のスペースに設備投資をし、この危機を乗り切ろう、としている。もう一軒店ができたか?と見間違うほど、立派な「建物」を作ってしまった店も多い。

▲写真 有名日本食チェーンのアウトドア・ダイニングスペース。道路に設置され、内部の装飾もあり、普通の店舗を彷彿とさせる。(撮影:著者)

とある日本食ではこたつで食事ができ(とは言え、あくまでも屋外である)、私が見た中では火鍋と呼ばれる熱々の中華鍋を、個室同然の屋外スペースで提供する店、キャンプなどで使う防寒テントの中ので特別な雰囲気で食事ができる店、など、寒さを積極的に営業に利用する店もある。

▲写真 ブラジル料理の店。客の足元には暖房器具がある。普通のテントなので入り口を密閉しても空気はある程度循環する。(撮影:著者)

防寒に力を入れて、設備を密閉しては屋内と同じで、本来は厳しく定められた「密」にしてはいけない条件があるのだが、夏には営業停止も含めた厳しい当局の取締があったが、ここのところ、そういうことが話題にあがっている気がしない。当局も業界に同情的なのだろうか。

しかし、インドア・ダイニングが禁止されて以降、相当数の店が営業を取りやめたように見える。臨時休業なのか、閉店してしまったのか。

▲写真 臨時休業か、閉店か。インドア・ダイニング禁止命令以降、アウトドア・スペースも閉鎖してしまったレストランの数々(撮影:著者)

今後、レストランなどが実際に営業ができるバレンタイン・デーまでに、確実に陽性率が下がり続けるかどうかはまだ未知数だが、根本的な対策として一番期待されているのは、やはりワクチンであろう。

全米各地、そしてニューヨークでも、誰でも、保険などがなくとも予防接種が受けられるとして、病院関係者などリスクが高い人から順に接種が始まっているが、供給されているワクチンが追加で供給されず、何万という予約がキャンセルされたり混乱が起きている

▲写真 自宅に送られてきたニューヨーク市のダイレクトメール。「コロナワクチンの接種はすべてのニューヨーカーが無料で受けられます」新型コロナ流行当初、市民への注意喚起が遅れたのが被害拡大の一因、ともされ、インターネットを使えない市民にも情報を伝える。英語のほか、裏面にはスペイン語・中国語で同じ文言が書かれている(撮影:著者)

他にも、想定外の事態が起きている。

接種を受ける人の居住地を限定していなかったため、貧困層が多い地域に設けられた接種の会場に、ニューヨーク州外などからも、白人層を中心に人が押し寄せ、デブラシオ・ニューヨーク市長は「本末転倒」と怒りをあらわにし、今後はニューヨーク市在住である証明をしなくてはならなくなった

先週末にはブロンクス地区にある「ヤンキー・スタジアム」が大規模接種会場になることが発表されたが、ここでの接種は「ブロンクス地区住民に限る」ことが強調された。ブロンクスは貧困層も多く、パンデミック初期には市内でももっとも被害が大きかった地域の一つだ。現在も陽性率はニューヨーク市内の平均を、大きく上回る。

CNNの調査によれば、国内14州での接種率は白人が4%であるのに対し、

中南米系が1.8%、黒人が1.9%であり、すでに格差が広がっている可能性もある。

ニューヨーク市内ではパンデミック最盛期には黒人と中南米系の死者が圧倒的に多かった。

現在、接種には予約を取らねばならず、予約を取るのにはインターネットが必要で、なおかつ基本、英語でしか対応していないことを問題視する声もある。

昨年、流行が爆発的に広がった背景には、英語を理解せず、ネット環境もない住民に対して、新型コロナの緊急の周知が遅れたことが被害を大きくしたことが背景のひとつとしても指摘されている。

ニューヨーク市の住人に対する接種スケジュールは、優先度に応じて、フェーズ1a(医療関係者)、フェーズ1b(65歳以上、スーパーなどの従業員、警察/消防、公共交通機関、など)、フェーズ1c(健康リスクがある人、など)、フェーズ2(一般)、と分けられ、現在は「フェーズ1b」の段階だ。続く1cのカテゴリーはスタートが3月から4月、フェーズ2の「一般人」は夏頃から、とされている。

だが、試しに予約のためのサイトをのぞいて見ると、市内の何百ヶ所とある施設のどこも、現在は予約が一杯で、予約は電話でしか受け付けてていないところもある。地域的にも、全米的にも、接種スケジュールはどこも遅れている

ちなみに予約サイトには、接種する施設が扱っているワクチンの種類が記されており、接種を受ける側はワクチンを選べる。今まで2回接種とされてきたワクチンが、1回のみで効果があるワクチンも登場し、この先、接種のペースに影響が出るものと見られる。

ワクチンが効果を発揮して、もちろん早く、日常を取り戻したいところではあるが、閑散としたニューヨーク市内を歩くと、かつてはまっすぐ歩くのさえ困難だったビジネス街は昼間、数えるほどしか人が歩いていない。仕事で行った高層ビルの窓から下に見えるオフィスビルの窓のほとんどには人影が見えない。

1年近くも経ち、かつてここにいた人々はみなどうしているのだろう。

コロナ禍が収束し、人々が日常の自由を再び獲得したあとに、ここに人は戻ってくることがあるのだろうか。

長い時間がたち、見慣れてしまったこういう街の風景をぼんやりとながめながら、ふとそんなことを思ってしまった。

トップ写真:ニューヨーク市の規定()を厳格に守っているアウトドア・ダイニングスペース。ぶら下がっている暖房器具に演出感があって、寒さが厳しくとも悲惨な環境下で食事をしているイメージはない。( 1テーブル4人まで、換気のため、窓、ドアなどがない) 出典:筆者撮影

▲動画「厳寒のNY、飲食業界の苦悩」(Japan In-depth Youtubeより)




この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."