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.国際  投稿日:2021/4/18

NY、ワクチン接種急ピッチ(下)


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・急速に進むワクチン接種で、イベント会場は観客動員出来るように。

・ワクチン証明書の偽造に対し、デジタル証明書発行の動き。

・今後は未成年者へのワクチン接種が課題に。

 

新型コロナ(以下COVID-19)の予防接種が加速度的に進む、アメリカ。

私がファイザーの2回めのワクチンを受けた翌日、妻が、1回の接種で済む、ジョンソン&ジョンソン(JJ)社のワクチンを受けに出かけた。

接種が1回で済むため、人気が高く、2回接種のファイザーとモデルナのワクチンと比べ、ニューヨークでは予約を取るのはなかなか困難であった。JJワクチンを受けられる、というだけで話題性があることもあって、意気揚々と大規模接種会場に出かけて行く妻の後ろ姿を見送った。

コーヒを入れ、子どもたちの相手をしていると、携帯に入ったニュース速報に、目が釘付けになった。

「JJ社ワクチン投与で血栓ができる可能性の疑い、とCDC(アメリカ疾病予防管理センター)は使用の一時中止を勧告。勧告を受け、ニューヨーク州は接種の中断を決定」

驚愕して、妻に連絡すると、妻はすでに会場入りして数十人の列に並んでおり、なんと、JJのワクチンか、ファイザーのワクチンかの選択をする分岐点の数メートル手前にいた。

このニューヨーク州営の会場はJJのワクチンとファイザーのワクチンの2種類を提供しており、前日のCDCの中止勧告を受け、JJのワクチン接種選択を思い直した者は、その場でファイザーの接種に切り替えられる措置をとっていた。

CDC勧告のニュースは会場で並んでいる人達の間でも知れ渡っていたらしく、大人気のJJのワクチン投与の列を選択する人は数人で、ほとんどの人はファイザー社の列を選択していたそうだ。

妻は胸に緑色のシールを貼られ、これが、JJ社ワクチン接種の予定からファイザー社に切り替えられた人、という目印だったらしい。妻は現場でそれなりの混乱を体験したようだが、JJワクチンから一転、ファイザーの1回目の接種を終えることが出来た。

アメリカではCOVID-19のワクチンの接種は順調に進んでいる。

実施回数はカリフォルニア州が2500万回でダントツの全米トップ。その後にテキサス州の1600万回、ニューヨーク州の1300万回と続く。

急速に進むワクチン接種だが、それに伴い、社会の側も急速に開かれつつある。

まだ殆どの業種でまだ制限が付けられているとは言え、1月ころと比較すると、大幅に緩和されている。

長らく営業できなかった映画館はようやくオープン、スポーツイベント会場は観客を動員できるようになり、大規模会場でのコンサートなども開催可。旅行も自主隔離の義務はなくなり、レストラン、バーも営業を深夜12時までできるようになった。

ワクチン接種が進むに連れ、すでにワクチンを接種したかどうかを、いろいろな局面で証明しなくてはいけない動きが加速されそうだ。

▲写真 試合日に球場へ入るために職員・スタッフに義務付けられている球場通用門でのラピッドテスト(抗原検査)4月1日@サンディエゴ、ペトコ・パーク 撮影:筆者

地元の大リーグ、ニューヨーク・ヤンキースは、開幕戦から、入場できる観客は3日以内のCOVID-19検査で陰性か、完全接種終了の証明ができる人のみ、とした。入場券の他に「通行手形」が必要、というわけだ。バスケットのバークレーセンターなども同様の措置だ。

だが、デジタル時代にあって信じ難いのが、接種完了を証明するものは接種時に渡されるCDCのロゴが記された手書きの紙だけだ。これが、要求されたら提示できる公式の証明書になるわけだが、何しろ、透かしもない画用紙に印刷しただけの紙に、接種担当者が手書きで接種日を記入する簡便なもの。管理用の通し番号が書かれているわけでもなく、コピーも偽造も簡単なことこの上ない。偽造されたものを提示されても、本物かどうかの、と言うより、偽物かどうかの判断が出来ない。

▲写真 筆者のワクチン接種を証明するカード。本来は接種記録カードだが、現在は接種証明書と同格の扱い 撮影:筆者

案の定、それらを偽造、闇で販売するものも現れた。

接種を受けていなくとも、接種証明が必要なイベントに参加したければ、それら偽造証明書を提示すれば、入場、参加ができることになる。本物か否かはその場で確かめようがないので、偽造が発覚する恐れはない。アメリカでも接種に拒否反応を示す人は多く、闇販売にはそれなりの需要があると思われる。

それらの事態を踏まえ、各自治体で、接種のデジタル証明書を発行する動きが進んでいる。

ニューヨーク州では接種時に記録された接種の個人情報をアプリに記入させ本人判断と、接種記録を元に州公式のデジタル接種証明書を発行している。QRコードが示され、これらを提示、読み取りをさせるというものだ。

▲写真 NY州のワクチンデジタル証明書 excelsior pass 出典:NY State COVID-19 Updates

これらが簡便化すれば、今後、国内のあらゆる場面で接種証明は通行手形として標準化するかもしれない。

反面、実施されていない重要な課題は未成年者への接種だ。

12~15才への投与に関しては2260人が参加したファイザーの治験で100%の効果がある、という結果が出た。治験でワクチンの投与を受けた子供でCOVID-19を発症したものは1人もおらず、重篤な副作用もゼロだった。これらの結果を踏まえ、12才以上のワクチンの接種は近く緊急承認される可能性が高い。

全米3億2800万人のうち、現在少なくとも1回の接種をうけた人は1億2500万人であり、接種完了者は7800万人。現在接種資格がない子供は人口の2割近くを占めることから、早急な対策が望まれる。私の2人の子供はまだ12才以下であり、今後の展開には大いに興味がある。

それにしても、国を上げての接種開始が始まった昨年12月からたった4ヶ月で1億回以上のワクチン接種を実施したアメリカという国の、一度決めたら考えられないような規模とスピードで動くさまは、この国の軍隊の規模と能力に比例しているように思えて仕方ない。

国益に叶う、とされれば、一つの意思を通すためには政治でも万難を排して動く仕組みを、この1年目の当たりにしてきた。国益、とはすなわち国民の利益。なんだかんだと言っても、この国は健全に機能しているのではないかと思う。

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トップ写真:ワクチンを接種するクオモNY州知事(ニューヨーク市2021年3月17日 ハーレムのマウントネボバプテスト教会) 出典: Seth Wenig-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

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