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.国際  投稿日:2021/8/23

日常戻るニューヨークに課題も


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・今月14~22日、ニューヨークでは復興記念イベントが目白押し。

・イベント参加には接種/陰性証明が条件。

・ワクチン接種の強制に対して強い反発も。

 

新型コロナ(以下COVID-19)の予防接種が進み、5月に関連の規制(屋外でのマスク着用の義務、レストランなどの屋内営業規制など)が解除されて以来、徐々にニューヨークの人々に日常が戻ってきた感はある。

その後迎えた夏は、今、静かに過ぎようとしている。

先週、8/14~8/22は、市民がCOVID-19から開放され、人々がニューヨークに戻ってきた、ということで「ホーム・カミング・ウィーク」と銘打った数々の復興記念イベントが目白押しの週だった。

「ホームカミング」というのはアメリカでは秋口に行われる大学などでの卒業生などを迎えて行われる伝統的なイベントも指すがこの場合は「帰郷」。おかえり・ニューヨークの皆さん、という意味合いもあるのだろう。

ニューヨーク市主催のものだけでも、パンデミック以前からこの季節に行われている「レストランウィーク」を始め、ニューヨーク市内の5区でそれぞれ行われたコンサートは復興週間の目玉だった。

中でも、セントラルパークで6万人を集めて行われたコンサート「We Love NYC – The Homecoming Concert」はニューヨーク・フィルハーモニー、カルロス・サンタナ、ジェニファー・ハドソン、ブルース・スプリングスティーン、アース・ウィンド・アンド・ファイアなど著名エンターテイナーが多数出演すると言うことで大変な話題であった。

「歴史的コンサート」との呼び声もあってか、プラチナム席 $4950、ゴールド席 $3450、VIP席 $399という値段で各種の席が売り出されたが、全体の80%は無料席。有料席がどのくらいの売れ行きだったかは知らないが、中継映像を見ていた限り、$4950のエリアには数えるほどしか人が見えなかったと思う。ちなみに有料席も含めて「全席立ち見」である。

予防接種がいくら功を奏して、屋外とは言え、6万人を集めてのコンサートである。

会場のセントラルパークの巨大屋外広場「グレート・ローン」は今までにも大規模なイベントが行われたが、パンデミック以降では、主催のニューヨーク市としても初の試みのイベントだ。

それだけ、大規模のイベントを実行しよう、というニューヨーク市の復活にかけたアプローチには熱がこもっている。

だが、イベントへの参加には厳しい条件が付けられている。

入場には少なくとも1回の予防接種を受けた証明の提示が必要で(NYではスマホアプリでデジタル公式証明が可能)、接種が実施されていない12才以下の子供に関しても、72時間以内の陰性証明が必要とされた。

これにはニューヨーク・デブラシオ市長の強い意向がある。

バイデン大統領が掲げた「7月4日までに国内の人々の70%にワクチン接種を」という目標を、急激な接種率の伸びで達成するかに見えたニューヨーク市だが、現時点で、少なくとも1回の接種を終えた市民は65%、必要な回数の接種を完了した、という市民はいまだに57%に留まっている。

頭打ちの接種率に業を煮やした市長は「復興週間」2日目に「今後はレストラン、映画館、コンサート会場、美術館への入場は接種証明の提示を義務とする」との条例を施行した。条例には9月上旬までの周知期間が設けられているがそれ以降は違反には罰金が伴う。初回1000ドル。2回目以降は数千ドルという重罰だ。

これに対して、レストラン業界を中心に猛反発が起きた。

同じ屋内であっても、対象とされない業種もあることから、レストラン業界を恣意的に狙い撃ちしたもの、としてデブラシオ市長を訴えたのだ。

実際のところ、先週、私が仕事上の必要で私のクライアントと撮影現場近くのレストランに立ち寄ろうとしたところ、そのクライアントは条例の発布を意識おらず「しまった!接種証明を持っていない!」とレストランの入口に呆然と立ち尽くした。しかし、レストランの側は「いいですよ良いですよ、どうぞお入りください」と招き入れてくれたのであった。

私には昨年の記憶があった。

1年前、COVID-19下で営業時間や入店人数制限など、レストランの営業規制があった時、いわゆる「自粛警察」のような人々か、生き残りを賭けた同業者によるものかは定かではないが、こういう行為が当局に通報された挙げ句、営業許可取り消し、というような事例の報道があった。

違反かどうかは状況によって証明できないケースも考えられ、生存復活をかけて、青息吐息で真面目にやっていたレストランが「チクリ」によって数千ドルの罰金を課されてしまう可能性は、否定できず、業界としては看過できないのだろう。

接種義務化の動きは、多くの反発も招いている。

1年半も中断を余儀なくされたブロードウェイ演劇界も、多くの劇場はスタッフ、出演者の接種義務化の方針を打ち出している。これに対して、主演級の俳優が「接種は強制でなく、自分自身、個人が決断するもの」として降板するなど物議を醸している。

「復興記念イベント」最終日の締めとして大々的に開催された先週末のセントラルパークのコンサートであったが、大観衆を前に歌っていた、バリー・マニロウの歌唱の最中に、もともと懸念されていた悪天候による雷が発生。

ニューヨーク市警が緊急避難指示のアナウンスを流し、実際にエリア内にいた2万人以上がが会場外に移動。その後、土砂降りの雷雨が発生、文字通り、祝賀行事に水を差すこととなった。

ニューヨークエリアには熱帯低気圧から直前にハリケーンに発達した「ヘンリ」が接近していた。

▲写真 ホームカミングコンサートの最中に雨に降られる観客たち(2021年8月21日) 出典:Photo by Alexi Rosenfeld/Getty Images

また、コンサートが始まる前、ワクチンの強制接種方針に反発した団体が会場の外で抗議活動をしていたという。抗議の人々は、ナチス政府がユダヤ人に着用強制させた「黄色いユダヤの星」 を身にまとっていた。政府をナチスに見立て、ワクチン接種を強制されることへの強い反発である。

▲写真 反ワクチンデモ ニューヨーク市(2021年8月15日) 出典:Photo by Andrew Lichtenstein/Corbis via Getty Images

コロナ禍から、表向き開放されつつあるニューヨークだが、6月には0.3%まで検査陽性率が低減したが、デルタ株の影響で以降は微増傾向、現在3%以上までに上昇している。ラムダ株など、まだ、その実態が明らかになっていない変異株の蔓延が懸念される中、日本の4月の新年度にあたる9月以降、社会はこのままの方向であり続けることができるのか、大きな課題が突きつけられている。

▲動画 「ニューヨーク・ナイト・マーケット 」 柏原雅弘のマンハッタン・リポート(youtube)

トップ写真:We Love NYC: The Homecoming Concert 出典:Photo by Alexi Rosenfeld/Getty Image




この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

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