小池都政、広告費4.7億円の効果は?東京都長期ビジョンを読み解く!その96
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・都政広告費に関するTVタレントの発言に都が猛抗議。
・行政にかかる費用はその多寡だけでは評価できない。
・都は税金使用における目標・成果をデータとして公開すべき。
カンニング竹山さんが、3月28日、TBSの番組「アッコにおまかせ!」に出演。番組内で「制作に4.7億円かかってますよ。全部じゃないけど、そのうちの一本に4.7億円の税金が使われている」と発言したが、番組内で「4.7億円は、動画制作費ではなく、広告費全体の経費でした」と訂正して謝罪。しかし、都が抗議文を事務所に送付するなどクレームを入れてきた問題が大きな波紋を呼んでいる。
一度、公衆の面前で謝罪しているのにもかかわらず、抗議文を送付するのも確かに過剰にも見える。都に対して厳しい言い方だが、そもそも金額が「4.7億円かかっている」という大切な情報を事前に都民に公開・説明してこなかったのだ(意識の高い都議のおかげでしぶしぶ公開されたわけだが)。
しかし、これを「言論封殺になりかねない」「権力の横暴」と反発するのも過剰反応気味ではある。
政治ネタでよくあることだが、ある特定の事業や項目の金額が高いとか、低いとかで言い合いになってしまうことがある。行政の政策評価の専門家として皆さんに理解してもらいたいことは、事業の目的、そのための業務量、成果目標と達成度、規模感を見ないと、かけた予算について評価するとしても、今の段階では「何とも言えない」のだ。
■4.7億円の内訳
▲写真 上田令子都議会議員 出典:上田令子Facebook
この問題を明らかにするなど、以前から熱心に活動している上田令子都議のブログを見てみよう。
〇テレビCM(令和2年5月7日から9月30日まで)
株式会社博報堂 約1億3,700万円
株式会社電通 約9,400万円
〇Web広告費(令和2年5月15日から9月2日まで)
株式会社読売広告社 約6,400万円
株式会社アドフロンテ 約700万円
〇動画制作費 8本(フワちゃん動画を含む)
株式会社I&S BBDO 約1,800万円〇広告に係る予備費
1.5億円
合計 4億7000万円!!
【参照】上田令子都議HP、記事「~小池都政抗議文問題~カンニング竹山さんは謝る必要はありません」
さすが、の一言。上田令子都議の調査力は凄い。質問主意書によってここまで明らかにしたのは素晴らしい行動である。
上田議員の質問主意書に対する都の回答がまたびっくりする。「広報効果については、例えばテレビCMにおいては、獲得視聴率、(中略)、それらのデータの分析を進めています」ということらしい。
獲得視聴率で指標はいいのだろうか?CMを見た人がどれだけ行動を変えたかは測定できないの?委託業者から報告もないのだろうか?求めればエクセルでもタブローでもアナリティクスツールですぐ数字をだしてもらえるよね?そもそも効果測定を組み込んで業務は発注したの?
という疑問が次々浮かんでくる。
■都の広報効果測定業務のレベルはこの程度なので・・・
厳しい言い方だが、都政、なかでも広報効果測定業務はこのレベルであるのだから仕方がないとは思う。委託業者をうまく使いこなすこともできないということだ。しかし、都庁の中には問題意識を持った職員もいるだろうから、今後の改善に期待したい。
都の肩を持つわけではないが、都民1396万人にきちんと伝えるにはそれなりのコストはかかる。都民の皆さんは忙しいし、街は広告にあふれているし、都の広報誌ですら手に取る人が少ない中、注目を持ってもらい、しっかり理解し、認識し、自分事と思ってもらい、行動を変えてもらうのは並大抵のことではない。
■4.7億円をどう評価する?
大事なのは、この事業の目的と効果・成果と進め方の「中身」なのだ。事業評価の基本的な考え方をイメージすると以下のようになる。
▲図 【参照】筆者作成
・目的
・ターゲット・対象、範囲
・手段
・効果・成果
・副次効果・波及効果
・目標達成度
・事業コスト
・業務量
が前提であり、これらの情報がないと何とも言えないのだ。厳しい言い方をすれば、この情報がでてこなかったことのほうが問題なのだ。
■小池都政にお願いしたいこと
1タレントに抗議する前に、目標数値と成果・効果は何で、どうだったのか。こうしたものを都庁のHPで公開するのが先だろう。
繰り返し言うが、大事なのは金額が多いか少ないか、ではないのだ。問題は、データがオープンになっていないことなのだ。念のため言うが、コロナの大問題の中、頑張っている都知事や都庁幹部や職員の責任追及をしたいわけではない。
最後に。竹山さん事務所への抗議文、都は是非文面を公開してほしい。これまで「オープン化」してきたように。
トップ写真:小池百合子東京都知事 出典:Christopher Jue/Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。