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.政治  投稿日:2017/5/16

本当に変わるのか?古い体質 東京都長期ビジョンを読み解く!【特別編】


 西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

【まとめ】

・遅れている都政は変わらざるを得ない。

・小池都政に幻想を抱いている面もある。

・大事なのは「政策」よりもその「理由」。

 

■遅れている都政

「東京都政は遅れている」

専門家としてわかっていたことだが、最近、都民もこうした認識を共有しつつあるような気もする。もちろん、住民の期待達成度や行革実行度という意味においてであり、総合的な意味で測定したものではない。都庁の職員は個別事業の取り組みでは優れた事業も多く、優秀な職員も多い、事業費が豊富だからいろんな先進的な手法もとれる。

ただ、行革の面で専門的に言うと、行政評価、監査報告書、人事評価制度などを見ても、行政経営面での遅れやレベルの低さは明らかである。国家レベルの予算規模、世界都市の中心、近隣県民が都で過ごす時間が長いなど色々要因があるが、基本的には行政改革をする必要がなかったというのが妥当なところだろう。東京都顧問の上山信一慶大教授が「行政改革という言葉を職員が久々聞いた」と言っていたことが如実に示している。

もし、気になる方がいらしたら「東京都長期ビジョン」「東京都総合戦略」などを見て、他自治体と比較していただきたい。(そうすれば理解できる)。

音喜多駿都議会議員をはじめとした意識の高い議員が頑張り、都政でこれまでやりたい放題していた特権が「見える化」され、一般市民の感覚から見て「やりすぎ」「古い体質」と思えるようになってきた。実感として一般市民が許容できない、納得できないレベルにあるため、小池都政によってそれが是正される。小池都政とはただそれだけのことともいえる。

古いタイプの政治家にとっての「最後の楽園」において成長しつつあった「都政における不透明な慣行」、ひらたくいうと、長期政権で「仕方なく拡大してきた」行動原理やそれをもとにした「利権獲得」競争が変わらざるを得ないこと、それを時代が求めている。小池都知事に反対する人含め、多くの人が無意識的にわかっていることであろう。

だからと言って、都政にかかわってきた議員や関係者たちを批判できない面もある。我々都民も関心を持たなかったわけで、都庁に週に数度しかいかなく、NGOやリベラルな団体に対してある種の偏見に満ちた発言を繰り返す元都知事の「強いリーダーシップ」をある時は賞賛し、許容してきた。

ルールを知った一部の人・業界団体・組織(市町村を含む)や議員たちがロビーイングし、頑張った結果、「議会復活枠」となるものまでできてしまった。利益集団にとっては成果ともいえるべきこの構造(別に批判しているわけではない)であるが、他方、都政の無関心層にとっては困ったものとして感じられるだけだろう。問題なのはこの分断が長期間続いたことにある。

 

■小池都政の幻想

ただ一方で、「小池都政になればうまくいく」という人の意見もわからない。筆者は「・・・になればうまくいく思考」と呼んでいるが、そもそも「うまくいく」というのがどういう状態を示しているのか、その条件は?と言いたくなる(そうすると誰もが押し黙る)。

そもそも、できていないことを他の自治体レベルに並ぶよう「進める」だけなのだから、当然改革は進むし、それなりに実行可能かつ都民が納得できるような問題が解決するはず。

行政改革によって一部の利権構造を是正できるかもしれないし、そこにみんなが爽快感を得て、一定の評価や賞賛を受けだろう。でも細かい政策について関心を深め、都政に関与する動きが広がるか、というと疑問もある(その裏で、新たな利権構造ができるだろう)。

行革が進んだからと言って、東京都の問題が解決するわけはないし。それは都政だけの問題ではないし、東京都が頑張ったくらいでは解決しない。でも、解決したようには「見せる」ことはできるし、発信することでなんだかうまくいった感を演出できる。

2020年までの五輪のお祭りムードの中、顕在化することもないだろうし、巧みな話術とプレゼンテーションでなんとでもいえる。何かうまくいかなかったら、日本政府のせいにもできるし、某元総理のせいにもできるし、「抵抗勢力」のせいにもできるし、「グローバル化」に問題を帰着させてもいい。これ社会学で言う「帰属処理」というものだ。

そもそもグローバル化や日本国を覆う諸問題に東京都が頑張るには予算や人員も足りない。メディアで「頑張っている」感を演出して、いまはやりの「ストーリー」と「デザイン」に凝りまくり、戦略を練りまくった上で発信すれば改善したように見せかけられるし、センスあふれるキャッチフレーズを駆使すれば、都政への関心や理解に自分の時間をさけない多くの人が持つイメージを左右することなどたやすい。

 

■大事なのは政策より「考え方」

まだ各党から政策案は出てきていないが、大きな方向性はどこもそう変わらないだろう。前前回に記載したように都民ファーストの会と公明党の「政策協定」を見ればわかる。曖昧なキャッチフレーズ政策で、現状認識も優先順位もコストも「ない」ことは当然予測される。

そもそも具体的な理念・価値観や大きな政治の中で対立する時代は終わっており、政策面ではそんな差は表せない。政策の具体的な進め方など細かい部分が論点になるべきだ。

本来なら、都政の問題について

(1)問題発生の現状分析

・なぜ問題が発生?要因は何か?

・都政の取り組みや事務事業がなぜ機能しなかったのか?

・事実をどう解釈してるのか?

(2)今後の問題解決の考え方

・役割を担う主体はどこか?どう連携するべきなのか?

・どのように問題解決を進めるのか?そのためのシナリオは?

・どこまで解決に近づくことができるのか?予測可能性

が問われるべきなのだ。

我々がこういうことを聞いたり、追求したりしないといけない。政策対話会で「国政についてどう思います?」「北朝鮮の問題は?」などというあほな質問をしてはいけないのだ。

都議選が近づくにつれ、利害関係者のポジショントークと好き嫌いの感情論、価値観や人生観からくる反応が占めることが想定されるから敢えて意地悪なことを言っている。これまでよりは、ファクトやエビデンスに基づいたような議論がたくさん行われるよう期待したい。


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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