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.国際  投稿日:2021/7/20

文大統領、訪日取りやめの背景


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#29」
2021年7月19-25日

【まとめ】

・文在寅大統領が五輪開幕直前に訪日を取りやめ。

・東京五輪の機会に本格的な日韓首脳会議が行われる可能性は元々低かった。

・韓国は、ゴールポストを少なくとも2015年末の日韓合意まで戻すのが筋だろう。

 

 いよいよ今週後半から東京オリンピック2020が始まる。本19日昼にこれを実感した。幡ヶ谷から霞ヶ関まで首都高速に乗ったら、何と料金がいつもの420円ではなく、1000円加算の1420円だったからだ。うーん、遂に始まるのか。先週までは「オリンピックは本当にやるのかいな?」と訝る向きも少なくなかったのではないか。

 

 コロナ禍の中での開催について様々な意見があることは承知している。日本の感染者数が「多い」のか、「それほどでもない」のかについても意見は分かれる。だが、今週筆者は純粋にスポーツそのもの、特に、選手たちの技術と努力の成果を心から楽しみたいと思う。選手一人一人には全力を出し切って頑張ってもらいたいものだ。

 

 さて、オリンピックが理由ではないだろうが、過去一週間の国際情勢は「夏枯れ」だった。先ほど流れたニュースでは、文在寅大統領が五輪開幕直前に訪日を取りやめたという。詳細は知る由もないが、「背景には埋めがたい日本との認識の隔たり」があり、文大統領任期中の日韓関係修復は難しい、などと産経新聞は報じている。

 

 

 関連報道によれば、当初文大統領は訪日に強い意欲を示し、訪日を前提に日韓政府間調整が模索されたようだ。しかし、これまでの経緯を踏まえて冷静に考えてみれば、東京五輪の機会に本格的な日韓首脳会議が行われる可能性は元々低かったと言わざるを得ない。

 

 そもそも、オリンピックと日韓政治関係は分けて考えるべきだろう。外交儀礼があるから「丁寧に対応する」のは当然だろうが、ゴールポストを遠くに持って行ったのは文在寅大統領ご自身であり、もし日本側と深い話をされたいなら、ゴールポストを少なくとも2015年末の日韓合意まで戻すのが筋だろう、と個人的には考える。

 

 今週もう一つ気になったのが米国の国務、財務、商務、国土安全保障各省連名で発表された中国に対する警告文だ。同文書は「香港の統制強化が法の支配や企業のデータ保護への信頼性を脅かし、米企業や個人の事業リスクが高まっている」と述べ、別途、中国当局者7人にも米国内資産凍結の制裁が科されたようだ。

 

 当然、中国の香港マカオ事務弁公室の報道官は、「全くのでたらめ」であり、「強烈な憤慨と厳しい非難」を表明すると反発している。これまで米国は米国企業への配慮もあったのか、香港での経済活動自体について批判や制裁は控えていたようだが、最近の香港での厳しい取り締まりを踏まえ、対中政策を一段と強化したようだ。

写真)香港からイギリスに向けて出国する人々
出典:Sawayasu Tsuji / Getty Images

それにしても、中国経済の実態はどうなのか。これからも成長は続くのか、障害があるとすればそれは一体何なのか。こんな疑問に真正面から答える対談番組を、今キヤノングローバル戦略研究所が作っている。

 

 毎週火曜日午前中、時々の興味深いテーマを厳選し、研究所内外のゲストスピーカーを招致して、突っ込んだ対談を行い、それを編集して、直ちにウェブ上に掲載する。このCIGS外交安保TVの今週のゲストは中国の金融・経済に詳しい岡嵜久実子研究主幹だ。関係者の熱意と努力でようやく面白い内容になってきた、と皆で勝手に自負している。一度覗いて頂ければ幸甚である。

 

〇アジア

今週、米欧日の各政府・機関が中国のサイバー攻撃を一斉に非難したという。中国政府とつながるハッカーが世界でランサムウエアなどによる攻撃を行い、経済活動の脅威になっているというのだ。中国のハッキング能力は世界一流であり、欧米と日本の連携・協調がようやく動き出したということか。

 

〇欧州・ロシア

今週、英国のイングランドで新型コロナ感染対策として続けられてきた様々な規制がほぼすべて撤廃されたという。TVニュースではイングランド人が19日を「自由の日」と呼んだそうだが、感染が再び急拡大する中で本当に大丈夫なのか。衛生観念と生真面目さのレベルが違う日本ではあり得ない光景だろう。

 

〇中東

 中国の国務委員兼外相が、パレスチナとイスラエルが和平に向けた直接協議を中国で開くよう呼び掛けたそうだ。訪問先のエジプトでの発言のようだが、中国お得意の口先外交で、直ちに本格的な直接協議が行われるとは思えない。しかし、同時に、中東における中国の影響力も決して過小評価してはならない。

 

〇南北アメリカ

今アメリカでワクチン接種率の低下や反ワクチン論の拡大が問題になっているが、医療従事者の中にも「失職覚悟でワクチン接種を拒否する」人々が少なくないという。日本では考えられないことだが、考えてみれば、打てるワクチンがあっても接種しない人がいる国もあれば、ワクチンがないので接種できない人がいる国もあるのだ。

 

〇インド亜大陸

 特記事項なし。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真)文在寅大統領
出典:Pool/Gettys Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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