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.政治  投稿日:2019/8/31

GSOMIA破棄「積極的防衛を」小野寺五典前防衛相


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

Japan In-depth編集部(淺沼慶子)

編集長が聞く!」

【まとめ】

日本は韓国に対し、冷静な姿勢でいることが求められる。

・今回の貿易上の輸出管理は、政治的意図があってのものではない。

宇宙・サイバー・電磁波等の領域で「積極的な防御」検討の必要有。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47674でお読みください。】

 

韓国によるGSOMIA破棄が驚きをもって受け止められている中、日本の安全保障に対する懸念が広がっている。小野寺五典前防衛相に話を聞いた。

まず韓国のGSOMIA破棄の影響について聞いた。

小野寺氏:まず1番大事なのは、北朝鮮のミサイル、核への対応だ。ミサイルが発射された際、日本はアメリカからの早期警戒衛星情報を得た後、日本が自らの能力で追尾、探査を行い対処するが、この緊急対応に問題はない。

しかし、北朝鮮が現在実験している様々な弾種がどこからどのような背景で発射されたのか、といった分析を行うにあたっては、情報共有が大事になってくる。GSOMIA破棄に当たり、対応の即応性にはやや欠けるかもしれないが、日米韓の三ヶ国間で北朝鮮の核問題に対する協定が結ばれており、日本はアメリカを通じて韓国と情報共有ができる状態にあるため、特に大きな影響があるわけではない

最も心配なのは日米韓のスクラムが乱れていることを周辺国に示してしまうことや、間違ったメッセージとして伝わってしまうことではないか。

 

安倍: アメリカが名指しで文在寅政権を批判した。(米国務省と国防総省は22日(現地時間)、GSOMIA破棄決定に対して一斉に「Moon administration に強い懸念と失望を表明する」との見解を明らかにした。) 今後文政権の反米の姿勢は向こう3年間変わらないのではないか。

小野寺: 文在寅大統領の姿勢は当初から親北朝鮮、反日、反米だったと感じている。文政権の間は日韓関係の改善はあまり期待できないのではないか。韓国側から問題提起がなされた時には、日本は正式に抗議をするが、感情的に対応して韓国側の反日感情を煽るようなことがないよう、「丁寧な無視」をした方がいいのではないか。

安倍:: ここ最近特に反日が加速している理由としては、元々韓国国民に存在をあまり知られていなかったGSOMIAの問題よりも、韓国をホワイト国リストから除外したことにより、経済的側面から反日を煽ってしまったことにあるのではないか、という見方もある。今後ホワイト国除外を見直すなどの可能性はあるのか?

小野寺: 今回の貿易上の輸出管理の問題は、政治的意図があってのものではない。日本は半導体製造にも使われるような物質を製造しているが、これはサリンやVXガスに転用されてしまう可能性もある。この物質の世界の8割の生産を担う日本は、兵器に転用されることがないように管理をする義務がある。過去数年間韓国に対しては、供給した物質の使い道について確認を求めているが、返答がこない。今までは韓国は優遇によりチェックなしで輸出をしていたが、これかからは何に使うか一つ一つちゃんと証明してくれればいいのではないか。

文政権にとっては、「日本からこんな酷いことをされている」ということで国民の支持を集める道具になっていることは否めない。これで下がり始めた支持率が上がり始めている。厳しい発言をすればするほど追い風になるということかもしれない。

(ホワイト国除外に関して)現在も検査管理をして申請を受けてきちんと輸出しているので、輸出の制限がされているわけではない。ただ正式な管理を求めているだけである。今後数年間韓国との関係は冷え込みますが、やっていくと実務上問題がなかった、あれは何だったのか、ということになるのではないか。

そういった面では、冷却期間をおき実態を見れば、韓国国民が怒る様な話ではなく、むしろ青瓦台が煽っている、内政面で支持率の低下や韓国政府のスキャンダル隠しなどに(日韓の昨今の問題が)利用されていると韓国民が冷静に見れば、それはそれでひとつの方向なのかな、と思う。

▲写真 ©Japan In-depth編集部

安倍: アメリカも日韓の対立に困惑しているようだが、在韓米軍に影響はあるのか?

小野寺: 心配なのは、事前にエスパー米国防長官が日韓両国を訪れ、GSOMIAの重要性を伝えていた。又韓国には破棄をせず継続を求めていた、と聞いている。今回の破棄は、ある意味ではこのアメリカの要請を袖にした形になった。こうしたことから、国務長官の失望や、トランプ大統領が韓国に対する不信感を募らせている、といったことが出ている。この状況を韓国側が米と距離を置くべく意図して行ったことであったならば非常に深刻であり、南北共に中国の方に近づいていこうという姿勢ならば、日本はより文政権の動きをすごく心配して見る必要がある

安倍: 仮に韓国が中国に接近し、アメリカと距離を置くこととなれば、THAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)の移動や在韓米軍の縮小も考えられる。その場合、有事の際に日本に不都合は発生すると考えるか?

小野寺: 韓国は民主国家ですから、どの国と仲良くし、どの国と距離を置くかは韓国側が判断することである。ただ私が韓国の皆さんと共通の土台に立っていることは、(日韓は)共に民主国家であり、報道の自由があり、選挙で選ばれたリーダーが国を引っ張っていく、というスタンスがあることだと思う。これと今の中国が相容れるかどうかは現在の香港の状況を見れば明らかではないか。いくら経済面での連携が強いといっても、安全保障面でもがっちり組んでいけるのかどうかについては、韓国国民の判断を見る必要がある。

私は日本の立場としての文政権に関しての発言はするが、だから韓国はこうしなければいけない、と言うことは内政干渉になりますから。そこは韓国国民の冷静な判断を信じたい。

安倍: アメリカの今後の姿勢についてどう考えるか。

小野寺: アメリカは既に仲介の立場を取ろうとしているが、韓国側がこれを袖にしたことから、非常に韓国に失望している。

もう一点在韓米軍についてだが、毎年韓国は駐留経費に負担について交渉することとなる。今後交渉の問題において、韓国国内で反米意識が強まり、感情的にアメリカと距離を置くような方向にならなければいいのではないか、という心配はある。

安倍: 北朝鮮のミサイル技術の高度化について。現在の日本のミサイル防衛システムについても考えていく必要があるのではないか。

小野寺: ミサイルの軌道などの詳細分析については、日米韓で協力していく必要がある。通常、弾道ミサイルは高く打つことで遠くに飛ばすという仕組みだが、反対にこれを低く打つと、空気抵抗があるため(ミサイルは)遠くに飛ばず、速度も落ちる。こうした変わった打ち方は巡航ミサイルと同じであり、通常の防空システムで対応出来る。

ただ、技術は進歩していく。技術の進歩に対応するための研究は求められるのではないか。尚、今現在の北朝鮮の実験内容を把握する中で、大変だと慌てる必要はないと考える。

安倍: 通常の対応、というのは通常兵器で、という意味か。

小野寺:例えば弾道ミサイルは遠くから高速で飛んでくるので、イージスシステムの様な大気圏外で迎撃をするシステムで対応している問題だった。ただ、例えば低い高度で色々な方向から飛んでくることになれば、PAC3のような迎撃システムで今も対応している。つまり、色々な対応の仕方がある。ただ、技術の進歩に合わせて不断の見直しは必要である。

安倍: イージスアショアの秋田への配備が困難な局面を迎えており、代替地を考える必要が出てきている。

小野寺: 原則として地元に対して丁寧な説明が必要である。ただ、国防を担う国として、最終的に配備場所の決定は国の権限であるため、丁寧な説明を続けていくほかない。

私も現地を視察したが、目の前が海である上に、自衛隊の演習地の背後に住宅地がある。この点に十分配慮して、影響のないように配備出来るか、専門的に分析する必要がある。

秋田の港湾の一部に、(第2次世界大戦中に)空襲の標的になった旧軍の施設が存在した。歴史的なことを覚えている秋田の方々が、防御システムを置くことで逆に危険な状況になるのではないかと心配される方もいらっしゃる。(大臣時代には)この点を踏まえて「そういった過去の歴史があったことをよく知っている。だが、安全保障上、演習場について、1つの候補地として調査させてほしい」とお願いに入り、説明を行っていた。

▲写真 ©Japan In-depth編集部

安倍: 北朝鮮のミサイル発射が活発化している中で韓国の協力が今後得られない場合、平和安全法制の改定を中期的に検討していく必要はあるのか。

小野寺: 平和安全法制により日米の連携が強まり、防衛装備移転原則の見直しにより、日本は米国以外とも共同開発が行えるようになった。着実に日本の安全保障の法制度は前に進んでいるのではないか。

今後宇宙・サイバー・電磁波の領域において能力が必要になってくるかもしれない。「専守防衛」※の考え方では、相手から攻撃を受けて、それを防護する、というのが基本の考えだ。しかし、ロシアはクリミア侵攻において、予め電磁波で相手の能力を無力化するとか、砲弾の信管を無力化して不発弾にしてしまうとか(やっている)。これは逆に言えば防御的に有効な能力だ、と感じている。もしこういったことを積極的に検討し防衛体制を強めるとすれば、「受け身の防御」ではなく「積極的な防御」というか、「アクティブディフェンス」という考えが必要ではないだろうか。

例えば、強い電磁波を当ててミサイルの的をずらすとか、攻撃側の航空機のレーダーを無力化してこちらに入れないようにするとか、サイバー攻撃をされないように、逆に積極的にサイバーでアタックするとか、新しい分野については能力を上げていく必要がある。

これは物理的に相手がダメージを受けるのではなく、こちらが攻撃されにくくするために事前に相手の能力をダウンさせることである。専守防衛の範囲の中で認めて頂ける内容ではないか

 

※専守防衛

相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢。出典:防衛省

トップ画像:©Japan In-depth編集部


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年12月2日 東京都生まれ(60才)1979年慶応義塾大学経済学部卒業、日産自動車入社(海外輸出・事業企画)、1985年国際大学大学院国際関係学科修士課程卒、1992年フジテレビ入社報道局政経部記者、1998年ニューヨーク支局長、2002年ニュースジャパンキャスター、2003年経済部長、2006年解説委員、2009年BSフジ「プライムニュース」解説キャスター、2013年フジテレビ退社、危機管理コンサルティング会社設立。ウェブメディアJapan in-depth編集長就任。

安倍宏行

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