[藤田正美]<弱まる中国のはけ口>南シナ海問題は中国とベトナムだけの問題ではない!その矛先は尖閣にも
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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内政に問題を抱えているときほど、国家は外敵を求めるものだ。そういうアメリカ映画もあった。タイトルは “Wag the Dog”(日本名は「ウワサの真相」)。普通は犬が尾を振るのだが、これは尾が犬を振るという意味だ。選挙を控えた大統領のセックススキャンダルをもみ消すために、架空の戦争を仕立てて、英雄も仕立てるというストーリーである。
急にきな臭くなった南シナ海。中国はベトナムが反発するのを承知の上で、あえて中国国有石油会社にリグを移動させ、掘削の準備を整えた。領有権紛争がある海域ではあるが、もともと「共同開発」はできるというのが両者の取り決め。現に共同開発の実績もあるのに、あえて単独で開発に乗り出した。要するにベトナムを挑発したのである。
もちろんベトナムも黙ってはいない。沿岸警備隊が出動したが、船の大きさや数といい、装備といい、中国とは比べものにならない。中国海警の船がベトナム船に体当たりしたのも、たとえ相手は沈んでも自分たちは沈まないという自信があったからだろう。
「領海」内とは言っても、あまりにも乱暴な手法である。他国の領海でもすべての船舶は無害なら通航する権利がある(無害通航権)。この場合、ことさらにベトナム船が中国船や掘削リグに対して実力を行使しようとしない限り、それらの船に対して放水したり、まして体当たりするなど、ありえない話だ。ほんのちょっとエスカレートすれば、武器の使用だってしかねない。
戦争になるリスクを冒してまでこうした行動を取るのは、中国が内政的に弱っているからだという解釈をする向きもある。
第一に、翳りの見える経済成長力。IMFの見通しでは、今年は7.5%、来年は7.3%となっているが、もう少し下がる可能性もある。成長力が衰えてくると、今でも大きい貧富の格差が固定されかねず、国内での不満も鬱積するだろう。
第二に、シャドーバンキング問題だ。地方政府などに貸し出されたカネが焦げ付きはじめている。仲介した銀行などは救済措置を取らないと明言しているから、場合によっては社会不安になる可能性もある。それにカネを融資した国有企業などがそのあおりで資金繰りが苦しくなったりすると、実体経済に影響が及ぶこともありそうだ。
経済問題の他に政治問題もある。まず挙げられるのは、少数民族問題。新疆ウイグル自治区は爆弾事件の他にも相当数の「暴動」があると伝えられている。さらに経済が停滞して社会が不安定化してくれば、人民解放軍の動き方も気になる。武力を持っているだけに、はけ口を外に求め始めると、中央も統制が効かないかもしれない。今回の事件も、そういった軍の一部の意向が働いているとすれば、やがては尖閣にも向かってくるだろう。
もし中国とベトナムとの間で戦争が始まれば、ASEANを軸にして成長を図ろうとしている日本の戦略にも大きな障害となる。南シナ海の動きは他人事ではないのである。
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