[古森義久]<海洋領有権を野心的に広げる中国の弱み>領有権紛争に国際調停を受け入れない中国
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
海洋領有権を野心的に広げる中国の弱みとはなにか。
その答えがアメリカのオバマ大統領のフィリピン訪問によって、期せずして示された。4月24日からの同大統領のアジア諸国歴訪ではフィリピンとの安全保障協力の強化も大きく目立った。フィリピンはアメリカの同盟国とはいえ、1990年代に駐留米軍の撤退を求めて以来、相互防衛のきずなは弱くなっていた。
ところが今回のオバマ大統領訪問では米軍部隊がまたフィリピンに戻って、流動的に駐留するような新合意が成立したのだ。この動きの背景にあるのは、もちろん中国である。
中国は南シナ海で領有権の拡大を図り、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどの各国と対立している。なかでもフィリピンへの脅しはものすごかった。だからこそフィリピンはアメリカに助けを求めたのだ。
だがこれまでのフィリピンの動きをみると、中国が領有権紛争で最も嫌がること、最も弱い部分が浮かびあがる。それは紛争の国際調停なのだ。
中国は南シナ海の全体に近い広大な海域の領有権主張を打ち出し、フィリピンとは中沙諸島のスカボロー礁をめぐって対立するようになった。同礁はフィリピンの主島ルソンから230キロ、中国本土からは880キロの海域にあり、近年はフィリピンが実効支配してきた。海底の山が水面に露出した岩礁で、中国側は黄岩島と呼ぶ。中国は2012年春ごろからこの海域に軍事力を使って進出し、スカボロー礁を軍事制圧してしまった。
フィリピン政府は外交手段を尽くして、中国に善処をアピールした。だがその効なく、2013年1月にはこの案件を国際海洋法裁判所に提訴したのだった。この提訴がトラの尾を踏む効果を生んだ。中国はありとあらゆる手段でフィリピンを威嚇し、その提訴の撤回を求めるようになった。
単に軍事面だけでなく、外交面では習近平国家主席はフィリピンのアキノ大統領とはその提訴の撤回がなければ、首脳会談には絶対に応じないと断言した。経済面でもフィリピン産のフルーツの中国への輸入で税関手続きを意図的にスローダウンし、輸入量を減らす一方、中国人観光客のフィリピン訪問を大幅に制限した。
その背景には中国政府が領有権紛争に対してはあくまで二国間の対処を求め、多国間や国際調停を極端に嫌う姿勢がある。国内法の規定でも領有権紛争では国際調停を求めず、国際裁定も受け入れず、という方針を確認している。だからフィリピンの国際提訴には常軌を逸したように、怒り狂ったのだった。ということは逆にみれば、中国とっては国際調停は最も避けたい弱体部分ともいえるのである。
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