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.国際  投稿日:2021/8/25

カブール陥落のマグニチュード


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#34」

 2021年8月23-29日

 

【まとめ】

・カブール脱出の混乱が深刻化している。

・バイデン大統領の支持率は、49%まで低下した。

・カブール陥落は、中東の列強地域を大いに刺激するだろう。

 

 あっけないカブール陥落から一週間経ったが、米軍主導の空港脱出作戦をめぐる混乱は一層深刻化しているようだ。一方、筆者の海外出張後の二週間の「自主隔離」は今も続いている。自宅に籠り多くの報道や記事に目を通せるのは良いが、過去数日はさすがに不自由で、飽きてきた。こういうのを「自宅軟禁」というのかな、と思う。

 

 当然、巷の関心は米軍撤退の時期、取り残された米国人・外国人やアフガン人協力者脱出作戦の成否、バイデン政権責任論などに集中している。だが、これが問題の本質だとは思わない。アフガニスタンについては、今週のCIGS外交安保TVで高橋博史・元駐アフガニスタン大使の話を聞いた。手前味噌だが、これは決定版だろう。

 

 「これを言っちゃ終わり」かもしれないが、高橋大使の話は、日本語は勿論のこと、英語も含め、内外のアフガニスタン関連報道が如何に陳腐かつ浅薄であるかを示している。お時間のある向きは、どうか短時間でもご視聴頂きたい。「ターリバーンはアフガニスタンそのもの」という同大使の結論は、文字通り、「目から鱗」である。

 

 それにしても、カブール陥落は一体何を意味するのか。今週の産経新聞では、この問題をグローバル、リジョナル、ローカルの三つの同心円で分析するコラムを書いた。今回の一連の動きが、米中露だけでなく、パキスタン、インド、イラン、トルコなど地域の列強の活動を更に活発化させる起爆剤となることだけは間違いない。

 

 アフガニスタンはユーラシア大陸中央でパキスタン、イラン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、中国に囲まれる山岳国家。人口的にもパシュトゥン人以外にタジク人、ハザラ人、ウズベク人などがおり、ターリバーンとて容易に全国支配などできないだろう。この国も強力な中央政府とは無縁なのか。

 

 先週は「米軍、大使館員、アフガン人協力者のカブール脱出は恐らく長期化するだろう。無血入城の後に流血の飛行場は見たくない。」と書いたが、残念ながら、状況はその方向に動いている。今週の日経ビジネスでは「カブール陥落後のバイデン政権に対する米国内の批判」を取り上げた。

 

 バイデン大統領に対する批判は大きく3つに分類できる。1事後批判する無責任な結果論者、2アフガニスタンで戦った退役軍人、3米国に協力したアフガン人を「見捨てた」ことに対する「道義的責任論」の3つだ。1はMonday Morning Quarterback(月曜朝のクォーターバック、QB)のような連中だが、2,3はより深刻だろう。

画像)避難可能な市民をサポートする英軍と米軍(アフガニスタン, カブール, 8月21日)

出典)Photo by MoD Crown Copyright /Getty Images

 

 バイデン大統領の支持率は、6月1日に54%、7月1日に52%、8月1日に51%だったものが、8月20日には49%まで下落した。しかし、1991年に湾岸戦争で勝利したブッシュ大統領は一時支持率が83%となったが再選に失敗したのに対し、1984年のレバノン撤退時に支持率が39%まで下落したレーガン大統領は再選されている。米国では海外での重大事件が中長期的に政権を左右する訳では必ずしもないようだ。

〇アジア 

 米大統領報道官は、新型コロナウイルスの起源に関する調査報告書が近日中に公表されると述べたそうだ。米情報機関は中国武漢ウイルス研究所が扱っていた膨大なデータを入手・解析しているとも報じられた。米国のサイバー戦能力は凄い。断定はしないだろうが、可能性は示唆するかもしれない。これも情報戦の一環である。

〇欧州・ロシア

 英南西部コーンウォールで開催された音楽とサーフィンのイベントに若者5万人が参加し、約1割に当たる約4700人が新型コロナに感染した可能性があるという。コーンウォールといえばG7サミットの開催地だが、それにしても、この大らかさは一体何なのか。これで医療崩壊しない英国とは凄いのか、愚かなのか、よく分からない。

 〇中東 

 ターリバーン報道担当者が、英スカイニュースに対し、8月末の米軍撤退期限の延長は「レッドライン」であり、撤退が遅れれば「結果が伴う」と述べたそうだ。米国が「結果が伴う」といえば、武力攻撃も含む、最後通牒を意味しかねないが、アフガニスタンなら「結果」とは何を意味するのか、9月になれば分かるのだろうが・・・。

〇南北アメリカ 

 最近バイデン政権はカブール陥落後の「大失態」をめぐる批判の「火消し」に追われている。そのせいか、大統領、ホワイトハウス、国務省、国防省の各種記者会見は従来以上に刺々しく、聞いていても緊張感がある。こうなると米国メディアは決して容赦しない。怖いくらいだ。




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