【ファクトチェック】自民党麻生太郎氏 の発言「年金増えたのは、運用を株でやったおかげでしょうが」は“ほぼ正確”
Japan In-depth編集部(油井彩姫)
【まとめ】
・麻生氏が、株価の値上がりによって年金積立金が増加したという発言。
・2012年から株価はおよそ2万円、年金積立金はおよそ83兆円上がっている。
・麻生氏の発言は“ほぼ正確”である。
横浜市の街頭演説での麻生太郎副総裁(自由民主党)の発言を検証する。
端緒情報:
「年金増えたのは、運用を株でやったおかげでしょうが」自民・麻生氏
自民党は間違いなく、公明党と一緒になってこの日本という国をかじとりしてきた。
思いだしてください。10年前、多くの心配は、デフレであり、年金がもらえなくなること。働く人の数が減る傍ら、年金で暮らしている高齢者はどんどん増える。今までの制度で持つわけないのが、なんでこれだけ持つか。それは間違いなく経済、例えば株。
2012年、野田政権が「解散する」と言った時から日本の株価は2万円あがった。年金は80兆円増えているんですよ。年金の運用、株でやったおかげでしょうが。従って(株価があがり)一部の人だけがもうかったとかいうような、いい加減な記事なんかお金払って読まないの。こういったような基本的なことがわかっていないと経済は運用できない。(横浜市の街頭演説で)
小沢一郎氏がリツイートしたことで拡散され、「年金受給額は減り続けてるけど・・・」などの反論が多く投稿された。
また、ひろゆき氏もこの発言を取り上げたことで、一時ネット上で話題になった。
曰く、
「株は売って、利益を確定させて初めて「儲けた」と言えます。
東証1部上場企業の時価総額の7%を年金積立金が持ってますけど、売りだしたら日経平均大暴落です。
果たして、売れる政権が出てくるのかどうか。。。」
■ 検証
まず、「2012年、野田政権が「解散する」と言った時から日本の株価は2万円あがった」との発言を検証する。
日経平均株価の推移を見てみると、野田政権による「近いうち解散」の発言があった2012年8月の株価の終値は、8839円91銭。麻生氏のこの発言があった2021年10月22日の株価の終値は、28804円85銭だった。約2万円上昇しており、麻生氏の発言は“ほぼ正確”といえる。
次に、「年金は80兆円増えているんですよ。年金の運用、株でやったおかげでしょうが」という発言を検証する。
「年金の運用」と言っていることから、「年金積立金」のことを指していると思われる。年金積立金は、厚生労働省が所管する独立行政法人「年金積立金管理運用独立行政法人」が運用している。
同法人のサイトによると、2021年は第一四半期末のデータまでしか出ていないので、2012年の第一四半期末と比較してみる。2021年は191兆6189億円、2012年は108兆1635円だ。その差は83兆4504億円で、麻生氏の言う「80兆円増えている」との発言は、“ほぼ正確”といえる。
▲図 2021年度第1四半期末の年金積立金運用状況の概要 出典:年金積立金管理運用独立行政法人
▲図 2012年度第1四半期年金積立金運用状況の概要 出典:年金積立金管理運用独立行政法人
次に、「年金の運用、株でやったおかげでしょうが」という発言も検証してみる。
年金の運用は国内株式だけで行ってはいない。その現在のポートフォリオを見ると、2020年から国内債券25%、国内株式25%、外国債券25%、外国株式25%となっている。
民主党が政権を担っていた時期が当てはまる2010年4月から2014年10月までは、国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%、外国株式12%、短期資産5%だった。
過去の運用実績をみると、国内株式、外国株式のポートフォリオを倍増させた2014年以降、両株式からの収益が増加している。80兆円という含み益の大半は、国内株式と外国株式の値上がりによるものだ。
「株でやったおかげでしょうが」という発言は、正確ではないものの、こちらも“ほぼ正確”といえる。
以上の検証から、麻生氏の発言ほ、全体として“ほぼ正確”と判定できる。
一方、厚生年金の平均年金月額は、ここのところ下がり続けている。(参考:厚生年金保険 受給者の平均年金月額の推移)
年金積立金と平均年金月額は一緒に議論できないことは明らかだが、そうしたことが、麻生氏の発言に対する反発としてあるものと思われる。
確かに麻生氏の言っていることは大筋で間違いではないが、年金制度そのものに対する庶民の感覚と乖離している感が否めない。株価が上がっても投資家が儲かるだけで、株を持ってない人には関係ない。また、年金積立金の運用益が80兆円増えたこと自体は、将来の年金制度にとってプラスには違いないが、今現在において国民に恩恵が実感できるわけでもない。(参考:年金財政における積立金の役割)
政治家には、やはり有権者の感覚に寄り添った発言を求めたい。
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トップ写真:英国と日本のパートナーシップ祝賀レセプションでスピーチする麻生太郎氏(2019年10月23日) 出典:Photo by Chris Jackson/Getty Images