阪神ファンと高市候補支持者の嘆き 本当に「政治の季節」なのか その4
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・次の総選挙では自民党はかなりの逆風に晒されることは不可避、と見る向きも多い。
・石破新政権が、安倍政権の「負の遺産」を清算できるかと言えば、それは難しい。
・次回総選挙、自民党にかなり厳しい結果が出るだろうが、政権交代に至るとまで考えている人はほとんどいない。
10月1日に臨時国会が召集され、新たに自民党総裁となった石破茂氏が首班に指名される予定である。
……この原稿は28日に書いているので、あくまでも「予定」だが、世間の関心はと言うと、セ・リーグにおける巨人のV奪回に持って行かれてしまった感がある。
本連載までそれに乗せられるわけには行かないのだが、石破新総裁が相次いで発表する人事が報じられる都度、
(阪神ファンの気持ちが分かる)
などと思わされたことも、また事実である。
まず、自民党選挙対策委員長に小泉進次郎氏。
「選挙の顔」として総裁候補に推されていた彼には、ちょうどよい役どころなのであろうが、予定調和にも程があると言うか、ここまで面白味がないと、かえって笑える。
阪神が巨人との2ゲーム差をひっくり返して「アレンパ」を成し遂げるためには、先週の直接対決で連勝することが不可欠の条件とされていたが、結果は1勝1敗。これでほぼ、巨人の優勝が決まったようなものだったが、この時点でもまだ、
「残り5試合を全勝すれば……」
という望みは、首の皮一枚くらい残っていた。
ところがその緒戦、27日の広島戦で延長12回サヨナラ負け。しかも4番・ファースト大山の失策がらみという、最悪の負け方。
これを今の政治状況に当てはめると、派閥のしがらみがない総裁だけに、もしかして人事も……という淡い期待が打ち砕かれて、面白くもなんともない結果になったようなものではないか。おまけに、その小泉氏を支持していた菅義昭・元首相には、自民党副総裁の地位が与えられるという。
麻生副総裁から、いわば首をすげ替えるという話で、どう考えても総裁選をめぐっての報復人事だ。
今後は、新内閣の閣僚人事ということになるわけだが、現時点で発表されている人事を延長して考えると、旧安倍派が冷や飯を食わされる可能性は極めて高い。
「派閥は解消されたので、何派から何人、ということは一切考えない」
などと石破新総裁自身は語っているが、これを額面通り受け取る人が、どれほどいるだろうか。
実際問題として、総裁選で決選投票にまでもつれ込んだ相手=高市早苗経済安保担当大臣に対して、自民党総務会長就任を打診したが、高市大臣は固辞した、との報道もあった。閣僚の座をオファーされても受けない、と周囲に語っているとも聞く。
おそらく、このあたりが石破新総裁にとって頭の痛いところだろう。厚遇する気にもなれないが、と言って、あまり露骨に冷遇すれば、コアな保守層からの反発が怖い。
話をひとまず総裁選に戻して、第一回の投票では1位であった高市候補が、決選投票で逆転負けを喫したわけだが、一夜明けて「意外な敗因」が漏れ伝わってくるようになった。
総裁選前日、高市候補の「最後のお願い」が、電話でなくショートメールだったから、というのである。これで彼女の誠意を疑った議員が結構いたのではないか、と「岸田陣営に近いある議員」が語ったのだとか。
阪神が優勝を逃した原因は、ここ一番、というところでの三振やエラーがまま見受けられたからだが、いくら自民党でも、
「大事な場面で電話でなくショートメールを使ったのが敗因だ」
「肉声を聞かねば誠意が伝わらない」
などというアナログ人間が、それほど大勢いるとは考えにくい。
「それはその議員の感想でしょ」
で片付けてもよいのだが、それでは本誌のコンセプトに反するので、高市候補の敗因について、もう一度冷静に振り返ってみよう。
前回も少し触れたことだが、岸田首相から、自身の陣営に対して、
「石破候補と高市候補とで決選投票になったら石破支持」
という通達のようなものが出ていた、と言われている。
これは事実であると広く認識されているようで、元大阪市長の橋下徹弁護士など、
「派閥解消を訴えてきた当人が、もっとも派閥的な動きをするとは」
と憤りを隠そうともしなかった。
いずれにせよ、10月1日に石破政権が船出することはすでに既定のことで、
「野党との論戦を経て」
解散総選挙で国民の信を問うこと、その日程も10月27日投開票ですでに調整が始まった、とも報じられている。
そこで気になるのは支持率だが、毎日新聞が公表した最新の世論調査によると、石破新総裁に「期待する」と回答した人は52%で、高齢層ほど支持率が高いようだが、いずれにせよ「期待しない」の30%を大きく上回った。自民党支持率も33%で、前回調査の29%からやや回復した。
とは言うものの、新たな総理総裁が誕生した際には、期待する、支持する、と答える人が多くなるのが世論調査の常で(世に言うご祝儀相場)、実際のところ次の総選挙では自民党はかなりの逆風に晒されることは不可避、と見る向きも多い。
そもそも、どうして過半数の人が石破新総裁に「期待する」と答えたのかと言うと、歴代の総理総裁に対して堂々と直言する人だったから、という理由だと考えられる。
本連載でも以前に触れたことがあるが、安倍首相が
「自衛隊を憲法に明記し、憲法違反だとの議論が1ミリも起きないようにしたい」
としながら、
「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」
との憲法の条文(9条2項)はそのまま残す、などという噴飯物、もとい、なかなかユニークな憲法解釈を開陳した際、自衛隊はれっきとした戦力である、と忖度抜きの正論をぶつけたのが石破氏であった。これに激怒した安倍元首相は、石破だけは首相にさせない、と息巻いたとも伝えられるが、その「遺言」もかなわなかった。
そうではあるのだけれど、新たに船出する石破政権が、安倍政権の「負の遺産」を清算できるかと言えば、それは難しい。石破政権誕生の舞台裏を見れば一目瞭然で、派閥の論理で首相の座に就くことができた人が、派閥力学を無視できるとは考えにくい。
ここでまた「そうではあるのだけれど」と言葉を継がねばならないが、次回の総選挙について、自民党にかなり厳しい結果が出るだろうが、政権交代に至るとまで考えている人はほとんどいない。
次回・最終回でこの問題を見る。
トップ写真:高市早苗衆議院議員(2024年9月27日東京千代田区)出典:Hiro Komae – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。