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.政治  投稿日:2024/10/2

“令和の除目”の勝ち組、負け組は


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・石破新内閣が発足。高市早苗氏の党役員就任〝拒否〟など挙党体制確立とはいかず。

・自民党役員、閣僚人事は従来と大きく様変わり。多数の無派閥議員、新人の入閣、派閥均衡の解消など。

・いずれも総裁選勝利に協力、貢献した議員への論功行賞、旧弊打開とはいえず。

 

■ 1000年前と変わらぬ風景

現在放映中の大河ドラマ、「光る君へ」でも時々描かれた平安時代の「除目」(じもく)。

どの貴族をどの官職に就けるかという、現代風に言えばいわば組閣または〝内閣改造〟だ。

「光る君へ」の主要な登場人物、清少納言の枕草子にも登場する「除目に司えぬ人の家」の物語はこうだ。

ポスト待望組である貴族の屋敷に一族郎党が集まっている。牛車や人の出入りが激しい中、飲み食いしながら吉報を待つが、会議が終わった頃合いになっても、いっこうに動きがない。

不審に思った一人がおそるおそる聞いてみると、「殿は某国の前司になられました」との答え。今風にいえば、さしずめ「先生は前の〇〇大臣です」といったところか。

これを聞いた人々はがっかり、すっかり失望、興ざめし、一人二人、こそこそと去っていく・・・ 

ひと昔前の組閣風景が1000年以上前のそれとそっくりであることに心底、驚かされる。

■ 負け組、旧安倍派、勝組は無派閥

さすがに〝令和の除目〟は平安時代とは趣が異なっているが、それでも、今度の組閣人事でも悲喜こもごものドラマがあった。

もっとも悔しい思いをしたのは、何といっても総裁選の決選投票で逆転負けを喫した高市早苗前経済安保担当相だろう。

石破新総裁から総務会長ポストを提示されたが、「応援してくれた仲間を処遇してほしい」との理由で、辞退したと伝えられる。

その言葉を額面通りに受け取る人は少ない。土壇場でうっちゃりを食わされた無念さを抑えきれないなのか、新総裁に対する〝反主流宣言〟なのか、その真意はともかく、「善戦」という表現は全く不十分、ほとんど勝利をつかみかけていただけに、幹事長以外のどんなポストも自分には軽すぎると考えても不思議はない。

野に置くには恐ろしい存在で、新総理・総裁が政権内部に封じ込めようと考えたのは当然だったろう。

ただ、自民党が苦しい総選挙を戦わざるを得ないという中で、党の団結を揺るがすような高市氏の行動は国民にどう映るか。

石破氏からみても、自らは無派閥、政権基盤が弱いとはいいながら、総理・総裁となればその立場は強大だ。やはり無派閥の高市氏も、安倍晋三氏という強大な後ろ盾を失い、総裁選にも敗れたいま、どの程度影響力を維持できるか。 

石破首相が その気になれば、高市氏とその陣営に対し徹底的に〝冷や飯〟を食わせることは簡単だろう。総選挙が終わるのを待って首相は締め付けにでるかもしれない。高市氏に耐える覚悟があるか。

一人の入閣者も出なかった旧安倍派も屈辱を偲んでいることだろう。

政治資金パーティ-をめぐる裏金、キックバック問題の震源地であることを考えれば、新首相としても配慮のしようがなかった。自業自得、首相を責めるのは逆恨みだろう。

■ 無派閥、将来石破派へ移行?

今回の組閣で、多数が入閣した無派閥組は〝勝ち組〟だ。

首相を除く19人の閣僚のうち、11人にのぼる。岸田前内閣退陣時の2人から一挙に増えた。

自民党派閥の多くが解消した〝新生・自民党〟の萌芽なら歓迎すべきだが、実のところ、無派閥議員のうち、村上誠一郎総務相、岩屋毅外相、赤沢亮正経済再生担当相らが総裁選での推薦人に名を連ねていた。

何のことはない、やはり論功人事であり、これら各氏が、いずれ「新石破派」を構成、派閥の再編成につながるのではないかという懸念、疑念も少なくなかろう。

旧岸田派は、小野寺五典政調会長に加え、閣内には石破氏と総裁の座を争った林正芳官房長官が再任された。旧二階派からも伊東良孝地方創生担当相ら2氏が入ったが、決選投票で石破氏を支持したことへの謝意だった。 

■ 首相、坦々たる大路歩めず❔

石破内閣にとって最初で最も難しい人事は終わった。

党内が嬉しさ、悔しさを超えて党が団結できるかに総選挙の帰趨がかかっているといっても過言ではなかろう。 

決選投票で高市氏を支持した麻生派に対して首相は、麻生太郎元首相を党最高顧問にすえ、鈴木俊一総務会長に起用するなど一定の配慮をみせたが、麻生最高顧問は、臨時総務会後の記念写真撮影に収まることを拒否するなど、元首相とは思えない子供じみた態度で反発を示した。

「令和の除目」を何とか乗り切った新首相にとって前途多難、絶大な権力にもかかわらず、坦々たる大路を行歩むことは、まだまだ先になるようだ。

トップ写真:自民党総裁に選出された石破茂衆議院議員(2024年9月27日東京都千代田区)出典:Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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