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.政治  投稿日:2021/10/30

【ファクトチェック】麻生太郎氏「温暖化のおかげで北海道のコメがうまくなった」発言は“不正確”


Japan In-depth編集部(石井日菜)

【まとめ】

・自民党の麻生太郎副総裁「温暖化のおかげで北海道のコメがうまくなった」などと発言。

・北海道立総合研究機構は「温暖化は米の美味しさにも影響する」としており、麻生発言の一部は間違いではなく、“ほぼ正確”といえる。

・しかし、北海道のブランド米誕生の背景には農民、農協ら関係者の努力があることは明らか。したがって、麻生発言は全体として“不正確”。

 

自民党の麻生太郎副総裁は10月25日、北海道小樽市で衆院選の公認候補と街頭演説し「温暖化のおかげで北海道のコメがうまくなった」などと発言した。この発言に対し、北海道農民連盟から、「今までの北海道米を作る生産者の努力と技術を蔑ろにするような発言は断じて許されない」などの抗議を受けた。

それにより岸田文雄首相が謝罪するなど、波紋を呼んでいる。

今回はこの発言についてファクトチェックする。

「温暖化のおかげで北海道のコメがうまくなった」

麻生氏は、北海道産の米について、「昔、『やっかいどう米』と言うほど売れないコメだったが、うまくなった。農家のおかげか、違う。温度が上がったからだ。それを輸出している。これが現実だ」などと発言した。

北海道の米が、好評価を受けているのは、農家のおかげではなく、温暖化により気温が上昇しているからだと主張している。

まず、「温暖化の米作りに対する影響」について見てみる。

温暖化が北海道の米に及ぼす影響

温暖化による農作物への影響は、悪いことばかりではないという研究結果が、一部研究機関から出ている。

北海道立総合研究機構による「第23回 地球温暖化と農作物」での農業研究本部中辻敏朗氏は、「温暖化は米の美味しさにも影響する」と述べている。

米に含まれるアミロースは、穂が実る期間の気温が高いほど少なくなる傾向がある。アミロース含量が少ない方が、粘り気があり、日本人好みの味になるという。

北海道米は、かつて市場評価が低かった。しかし、代表的な北海道米である「ゆめぴりか」や「ななつぼし」は、日本穀物検定協会が定める食味ランキングで今や10年以上連続で最高ランクの特Aランクを獲得している。

また、温暖化によって、穂が出る時期が早まることで、収量の増加も期待できるという。

農業協同組合新聞は、今後、温暖化によって米の収量は増加する地域と減少する地域の二極化すると述べている。北海道の一部が潜在的収量増大地域となっているのがわかる。

▲図 2060年代の米の潜在的収量の変化 出典:農業協同組合新聞

北海道の米の収穫量は、現在、米どころの新潟県に次いで第2位をキープしている。(出典:農林水産省「令和2年産水陸稲の収穫量」より)

これらの結果から、将来的に温暖化が進行しても、北海道の米は、質・量共に向上するのではないかと予測されている。

麻生氏の「温暖化のおかげで北海道のコメがうまくなった」との発言は、その部分だけ取り出せば、「ほぼ正確」である。

では、麻生発言の何が問題だったのか。

農家や農協のおかげではない

麻生氏は、発言の中で、北海道の米について、「温暖化のおかげ」であり「農家や農協のおかげではない」と発言した。

しかし、北海道米が、先に述べたような高評価を受けるに至ったのは、温暖化の影響だけではなく、農家の方々の努力の賜物である。

「不毛の大地」から、品種改良や栽培に工夫を重ね、北海道米を全国的に広めた。温暖化の影響だけではたどり着けなかった。北海道農民の米作りの努力の歴史を見てみよう。

北海道で初めて米が生産されたのは1692年との記録が残っている。しかし、当時の寒さの厳しい環境ではうまく作れなかった。

「北海道稲作の父」と呼ばれる中山久蔵氏が、米作りに挑戦し、1873年に「赤毛」という品種で米作りに成功した。今から約150年前のことだ。

1980年には、北海道庁がおいしい北海道米の品種育成のためのプロジェクト「良質米の早期開発」を開始。1988年に北海道米のイメージを一新する新品種「きらら397」が誕生する。

2001年、「粘り」に着目して開発された「ななつぼし」が誕生。冷めてもおいしく、粘りが長持ちする品種は、北海道米の新境地を切り開いた。

2003年には道南の気候に適した「ふっくりんこ」、2008年に北海道米の自信作「ゆめぴりか」が誕生した。

2011年には日本穀物検定協会の食味ランキングで、平成22年産の「ななつぼし」と「ゆめぴりか」が、北海道米初の最高位「特A」を獲得するに至った。2017年には、平成28年産の「ゆめぴりか」「ななつぼし」「ふっくりんこ」が、食味ランキングで特Aを連続獲得し、北海道米の品質の高さを証明した。

北海道では、寒冷地・北海道ならではの育種や良食味品種の開発が長年行われてきた。また、ホクレン農業総合研究所が新品種開発を外部の研究機関と共同で取り組むなど、今でもたゆまぬ努力が続けられている。

こうした北海道の農民や関係諸機関の不断の努力があってこそ、美味しい北海道米が生まれたのだ。(参考:北海道の米づくり

こうした経緯を否定するような麻生氏のこの発言は「不正確」と判定する。

温暖化を肯定?

麻生氏の一連の発言は、温暖化を肯定していると捉えられても仕方がない内容である。

一方で、発言の3日前の10月22日には、政府より5年ぶりに地球温暖化対策計画が閣議決定されたばかりである。計画では、2030年度までに温室効果ガスを46%削減することを目標に掲げている。

麻生氏の発言は、政府の温暖化対策計画と矛盾するとの指摘がある。

北海道農民連盟の大久保明義氏は、以下のように発言している。

「国連でも採択されたSDGs(持続可能な開 発目標)の実現に向け、政府が2050年までに二酸化炭素 (CO2)の排出量を実質ゼロにする「脱炭素社会」を目標 に掲げているなかで、地球温暖化を肯定するような言葉を発することは、自民党の重要ポストにある副総裁の発言としては有るまじき由々しき事態と言わざるを得ない。また、地球温暖化防止対策に取組んでいる企業や国民にとっても耳を疑うような発言として捉えられる」

国をあげて地球温暖化対策に取り組む中、麻生氏の発言の趣旨は政治家としては適切ではなかった。

・判定

温暖化によって、北海道の米の質が上がったり、収量が増加したりするという研究結果はあるため、「温暖化のおかげで北海道のコメがうまくなった」という部分は「ほぼ正確」である。

しかし、温暖化の影響だけで、北海道米が発展してきたわけではない。農家や農協のたゆまぬ努力があったことは否定すべくもない。また、温暖化を肯定するととらえかねない発言は、政府や社会全体の方針とも矛盾が生じる。

よって、麻生太郎氏の発言は全体として「不正確」と判定する。

 

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トップ写真:麻生太郎自民党副総裁 出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images




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