買った服が野菜になって戻ってくる
Japan In-depth編集部(石田桃子)
【まとめ】
・循環型ファッションの発信拠点が東京港区にオープン。
・生分解性製品「和紙」を使った衣服などの開発。「古着を地球に還す」農園運営による「衣→食」循環型モデルを提案。
・都心の店舗から発信、顧客とのコミュニケーションを通し新たなコミュニティー構築を目指す。
近年注目を集める「循環型ファッション:circular fashion」。Japan In-depthでも取り上げた(過去記事:注目集める「循環型ファッション」)。
その新モデルを掲げるベンチャー企業がある。クレサヴァ株式会社。サステナブルな生地素材を開発、着用後の服を回収し再利用する循環型システムを提案する。今回、メインブランド「aloof home」を主力とした「”衣”から”食”へ繋ぐ循環型モデルショップ」を東京港区南青山にオープンする。
■ “衣”から“食”へ繋ぐ循環型モデル
「aloof home」の製品は、生分解性を持つ天然素材である「紙」でできている。生分解性とは、微生物によって分解され土に還る性質だ。使用後の製品は回収し、京都府美山(みやま)に所有する農園で、肥料として再利用する。農園で育った野菜は顧客に還元する。
▲画像 「クレサヴァのサイクル(生分解性サイクル)」 出典:FUNDINNO/クレサヴァ株式会社
■ サステナブルな生地開発
以前はユニクロのデザイナーを務めていたという社長の園部皓志氏。次第にファッション業界の大量廃棄問題について考えるようになった。
ファッション業界は、最新の流行をとり入れた衣服を大量に生産・販売する。消費者が衣服を買い替え、古着は廃棄するのが前提だ。生産者は流行を過ぎた在庫を大量に処分している。
園部氏は、この問題に正面から向き合う決意を固め、今から3年前に独立した。業界ではリサイクルに取り組むところも出始めていた。
「私はとりあえず、生地を開発しようと考えた。(なぜなら)リサイクルは結局、新たなごみを生み出すのと変わらない手法だからだ」
まず園部氏は、「土に還る生地」を模索した。生地開発の経験や、それまで培った人脈が活きた。発見した最適な素材は「和紙」だった。
「日本に誇れる技法が世界に発信できる。なぜだれもやらないんだろうと思った」
和紙は、生分解性に加えて、調温、抗菌、消臭、軽量、紫外線カットなどの性質を持つ。衣服として優れた機能だ。
それだけではない。土壌に敷くだけで微生物の活性化を促し、栄養価の高い農作物を育てることが検証されているという。
▲画像 美山農園(白い部分が衣服) 出典:クレサヴァ株式会社提供
■ 新しい販売システム
天然素材の衣服には、コストがかかる。高価格から手が出ないという消費者も少なくない。そこで「aloof home」は新しい購入システムを開発した。使用期間に応じた価格設定で「循環型モデル」を生活にとり入れやすくする試みだ。
まず第1ステップとして、消費者は、90日、180日、365日の期間を選ぶ。それぞれ定価の65%、40%、15%オフで商品を買うことができるというユニークな期間型購入システムだ。
第2ステップとして、初回購入・更新の際に購入金額の8%のポイントが還元される。(会員限定)
さらに第3ステップとして、購入から1年後に、「BIO RETURN」と名付けて、購入1年以上2年未満の場合10%の、2年以上3年未満で15%、3年以上で20%のポイントをバックする仕組みも導入した。
回収した商品は地球に還す。
購入の選択肢により、還元ポイント数が変わる仕組みで、貯めたポイントは同社のサステナブル商品と交換が可能だ。これも消費者に循環型モデルを体験・共感してもらう仕組みの一つだろう。
■ ホテル業界へ展開
クレサヴァ株式会社として最初のプロジェクトは、逗子マリーナ「マリブホテル」のプロデュースだった。園部氏は、ホテル業界にも同様の大量廃棄問題を見い出した。
「ホテルの欠点はリネン。150回洗ったら捨てられてしまう。それを見ていると(衣服と)同じことが起きているんだなと感じた」
そこで、リネン用品も生分解性製品のラインナップに追加。使用後は、ホテルで提供される食材を育てる農園で再利用するという循環型システムを計画している。
▲写真 リネン用品とホームウェア ©︎Japan In-depth編集部
■「Miyama Farm and Resort」
自社運営のリゾート施設も計画中だ。循環型「衣・食・住」モデルを体感できる施設を、京都府南丹市(なんたんし)美山町(みやまちょう)に建設する。
「美山で5反ほど農園を管理していて、そのとなりに6棟くらいの茅葺の家がある。もう人を迎え入れるような体制はできた」
▲写真 美山農園 出典:クレサヴァ株式会社提供
スパやグランピングなどの施設を追加し、「aloof home」の会員を招待する計画だ。
「日本でしかできないような内容を世界に発信する。皆さんにそれを見て頂けると良い」
このビジネスモデルに興味を持った海外企業からの問い合わせがすでにあるという。コロナ禍が落ち着くのを待って、来年には視察に訪れる予定だ。
■ 循環型ファッションを身近に
▲写真 「aloof home」南青山店 ⓒJapan In-depth編集部
南青山のモデルショップは、11月11日にオープンする。
店内には、「aloof home」製品のほか、サステナブルに特化したセレクトグッズを展示している。
特徴的なのは、バーカウンター。美山農園の作物をつかったドリンクを提供する。
「(循環型ファッションを)身近なものにするために、日々私たちがお客様と会話して、コミュニティーを作っていきたい」
顧客との活発な交流から、コミュニティーを構築していく考えだ。現代ファッション業界の、情報やDXをめぐる競争からは一歩距離を置く。南青山店のバーカウンターは、その象徴ともいえる。
「今は昼間カフェとして営業しますが、将来的にはバーもやりたい」
クレサヴァ株式会社が目指すのは、「誰もがサステナブル意識を持って服を着る世界」。店舗がその「home」になれば良いと園部氏は期待している。
(了)
トップ写真:クレサヴァ株式会社社長 園部皓志氏 ©︎Japan In-depth編集部