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.経済  投稿日:2022/12/7

会員制リゾートホテルもワーケーション


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

 

【まとめ】

・ワーケーション市場が拡大基調、23年には1000億円超へ。

・鬼怒川の新築会員制リゾート、ワーケーションを意識した造りに。

・インフレが高進する中、賃金も上がるサイクルを実現しないとワーケーションもこれ以上拡大しない。

 

「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語、「ワーケーション」市場が熱い。

矢野経済研究所によると、コロナ禍によりテレワークが加速したことで、2021年度の国内ワーケーション市場規模は約700億円と見込まれ、その後拡大基調が続き、2022年度は845億円、2023年度には1084億円に到達するという。

図)

出典)矢野経済研究所

その背景にテレワークの普及があることは間違いない。多くのビジネスパーソンが仕事は自宅でもできる、と知ってしまった。満員電車に揺られてまで出社する必要はないと皆気づき始めたのだ。筆者の周りを見ても、オフィス勤務が大幅に減ってしまった人が結構いる。

そうした中、2022年度は「ワーケーション」が本格的に市民権を得た感がある。筆者はフリーランスであり、基本的に土日も都内で仕事をしている。地方に行って仕事をするとどうなるのか、興味はあったが2021年までは移動制限もそれなりに厳しく、実現できずにいた。

それが今年に入り、思い切って山梨県の八ヶ岳や山中湖などの貸し別荘に行き、2、3日滞在して「ワーケーション」を実践してみた。するとどうだろう。森の中で澄んだ空気を吸っていると、リフレッシュするだけでなく、仕事もはかどるではないか。これが世に言う「ワーケーション」効果か!

いまさらながら仕事をする環境を変えることの大切さを再認識した。60代後半の筆者ですらそうなのだから、働き盛りの30代、40代はなおさらなのではないか?

そんなことを考えていたら、会員制リゾートホテルの新規開業があるというので見に行った。

場所は栃木県日光市の鬼怒川。鬼怒川といえば全国的に有名な温泉だが、一体いつ行ったか思い出せないくらい久しぶりだ。

新宿から電車で2時間と意外と近い鬼怒川。東武鬼怒川線東武ワールドスクウェア駅のすぐそばに「東急ハー ヴェストクラブ VIALA 鬼怒川渓翠」(注1)はあった。

施設は一言で言うとゴージャスそのもの。全58室(内10室は一般販売用客室)は58㎡~158㎡の広さ。全客室に温泉露天風呂が完備されている。

写真:各部屋にある温泉露天風呂。目の前は鬼怒川の渓谷と山並みだ。

ⒸJapan In-depth編集部

このリゾートホテルのキーワードは2つ。1つ目はサステナブル。レストランは、ガスを使わず、薪火だけで地元の食材を調理する。その薪木は、栃木県や隣県の森の間伐材を使用し、薪を使用した分、植樹寄付活動を行うなど徹底している。また、電力は100%再生可能エネルギーを使用する予定だという。

写真:館内のレストラン「炅」。調理のために薪をくべる様子。

ⒸJapan In-depth編集部

2つ目は「ワーケーション」。屋外デッキなどでもWi-Fiが使えるほか、館内にはモニター付きテレワークブースが設置されている。

写真:テレワークスペース。壁面に大型モニターが設置されている。

ⒸJapan In-depth編集部

部屋によっては、コンサバトリー(サンルーム)があり、引き戸を閉めれば外の景色も見える開放的な独立空間になる。これも、ワーケーションを意識して設計したという。ようは、会員制リゾートをして、「ワーケーション」を無視できない時代になったということなのだろう。

写真:奥がコンサバトリールーム。引き戸を閉めると外が見える開放的な閉鎖空間になり、仕事に集中できる。

ⒸJapan In-depth編集部

その会員制リゾート市場も活況を呈している。日本生産性本部の「レジャー白書」によると、会員制リゾートの2018年の市場規模は3970億円。以前のピークだった1998年の2600億円を上回る。コロナ禍で2020年には3000億円を下回ったがその後復調している。

東急不動産によると、「東急ハー ヴェストクラブ VIALA 鬼怒川渓翠」の会員権(1部屋12口)は既におよそ8割が売却済みだという。購入層は会員権を資産として保有する60代以上の富裕層がメインで、ほとんどの人がキャッシュで購入するという。

一方で、30代、40代のパワーカップル(夫婦共に高収入な層)にも客層を広げたいと担当者は話していた。施設を「ワーケーション」仕様にしたのも、彼らにアピールしたいという思惑からだろう。

写真:客室のテラスから見える鬼怒川。緑色の川面が美しい。川のせせらぎが一日中聞こえ、その音で癒やされる。

ⒸJapan In-depth編集部

「ワーケーション」がブームといっても、まだまだ日本人は働き蜂。オフィス回帰の動きもあるし、なにより賃金が増えない。ワーケーションしたくても先立つものがなければどうにもならない。

東京商工リサーチの調べによると、2021年度の上場3,213社の平均給与は、前年度と比較可能な3,102社では前年度より増えたのは2,087社(構成比67.2%)と約7割に達したというが、読者諸氏にその実感はあるのだろうか?エネルギーコストの上昇とインフレによる食料品価格の上昇で帳消しだろう。

最後になんとも夢のない話になってしまったが、「ワーケーション」の効用は疑うべくもない。2023年。「ワーケーション」で私たちの生産性が上がり、その結果、企業が潤い賃金が上がる。そんな理想的なサイクルが回るような年にしたい。いや、しなければならないだろう。そんな思いを抱いて東京に戻ってきた私であった。

注1)「東急ハー ヴェストクラブ VIALA 鬼怒川渓翠」

12月9日開業。東急不動産株式会社が開発し、東急リゾーツ&ステイ株式会社が運営する会員制リゾートホテル「東急ハ ーヴェストクラブ」の自社で開発した施設としては4年ぶり、「VIALA」シリーズの第6弾。

トップ写真:「東急ハー ヴェストクラブ VIALA 鬼怒川渓翠」外観

ⒸJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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