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.国際  投稿日:2023/6/27

「非軍人」プリゴジンの「クーデター騒ぎ」


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#26

2023年6月26日-7月2日

【まとめ】

・「ワグネル」創設者プリゴジンは、ロシア軍拠点を占拠後、前進を「中止」した。

・プリゴジンは「軍隊」を知らないがゆえに戦争で失敗した「非軍人」に過ぎない。

・革命後ロシアの混乱の原因を作った「軍閥」に似ているだけに恐ろしい。

 

今週の焦点は何と言ってもロシアでの「クーデター騒ぎ」だろうが、まずは、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きから始めたい。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心は以下のとおりだ。

6月27日火曜日 NATO事務総長、リトアニア訪問から帰国

【26日からのリトアニア訪問だったが、リトアニアといえば、対露強硬派で次回NATO首脳会議の主催国だ。事務総長はリトアニア首脳に同国のNATOに対する「貢献に感謝」し、首脳会議関連の話をしたと報じられた。ベラルーシの隣国リトアニアにとってプリゴジンの動きは気が気ではなかろう。これだから、欧州の陸上国境は恐ろしい。】

6月28日水曜日 欧州大統領、フィンランド、エストニア、ブルガリアの首相と会談

【これもNATO事務総長の出張と軌を一にした欧州諸国の外交の一部だろう。ロシア国内が混乱する中で「対ウクライナ支援」についての結束は不可欠だ。】

7月1日土曜日 スペイン、EU議長国に(半年間)

【スペインが議長国になること自体は結構だが、たった6カ月で議長が代わるのも如何なものか?これでは日本の「持ち回り制」と大差ないではないかね?】

7月2日日曜日 パキスタン外相が訪日(3日まで)、仏大統領が訪独(4日まで)

【パキスタン現外相は昨年8月、ASEAN関連外相会議が開かれたカンボジアで林外相と会っているが、確か訪日は初めて。しかし、調べてみたら、同外相は6月27日から中国で開かれるWorld Economic Forum’s (WEF) “Summer Davos”に出席後日本に来るらしい。やっぱりね。】

7月3日月曜日 アルゼンチンでメルコスール首脳会議(4日まで)

【日本外務省のHPによれば、南米南部共同市場(メルコスール)とはアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイが1995年に域内の関税撤廃等を目的に発足させた関税同盟とあるが、後に加盟したベネズエラは「国民の人権が守られていない」として資格停止になっている。色々問題はあるものの、中南米では最も有力な経済の枠組みであり、その動向は注目される。】

さて、話をロシアに戻そう。先週末は多くのロシア専門家が再びロシア国内の騒動に振り回されたようだ。「ワグネル」創設者エフゲニー・プリゴジンは6月23日、「軍指導部の悪事を阻止する」と発言し、24日朝にロシア南西部のロシア軍拠点を占拠、首都モスクワへ北上する動きを見せた。

ところが、同日夜には「流血を避けるため」前進を「中止」したと発表。プリゴジンはルカシェンコ大統領の仲介でベラルーシに「移動」するという。この36時間ほどの騒ぎは一体何だったのか。詳細は今週の産経新聞コラムに書いたのでご一読願いたいのだが、申し訳ないが、一部専門家の珍回答、迷解説には驚くばかりである。

▲写真 コンスタンチン宮殿で外国投資家との会合に出席するロシアの億万長者で実業家、ケータリング会社 のオーナー、エフゲニー・プリゴジン氏(2016年6月16日 ロシア ・ サンクトペテルブルク)出典:Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images

例えば、「敵の失敗を安易に突くな」という格言があるのに、ロシア内部の混乱に乗じてウクライナ軍の総攻撃を主張する元米軍人がいた。ホワイトハウスが「米国は無関係で干渉しない」と述べているのは、正しい対応だ。これ以外にも、珍説や迷答が少なくないが、詳細は今週木曜日の産経新聞で。

問題の本質は、プーチンがプリゴジンと同様、「非軍人」であることだ。今回の騒動を戦前の二・二六事件と比較する見方もあったが、それは青年将校に失礼。所詮プリゴジンは「軍隊」を知らないがゆえに戦争で失敗した「非軍人」に過ぎないからだ。彼は革命後ロシアの混乱の原因を作った「軍閥」に似ているだけに恐ろしい。

〇アジア 

海上自衛隊護衛艦「いずも」が20日にベトナム中南部カムラン湾に寄港。「いずも」の寄港は2019年6月以来、4年ぶりとか。25日には米原子力空母「ロナルド・レーガン」がダナンに寄港。米空母のベトナム寄港は3年ぶりだという。欧州情勢とは別に、日米はインド太平洋でやるべきことをやっているようだ。

〇欧州・ロシア

中国の国務委員兼外相がロシア外務次官と北京で会談、ロシア側によれば中国側は「ワグネルの反乱を受けたロシア政府の対応への支持を表明」したそうだ。中国側も「ロシアが国家の安定を維持し、発展と繁栄を実現することを支持する」と述べたそうだが、ロシアはどうしても中国側の支持が欲しかったのだろうな。哀れだ。

〇中東

NHKが見出しで「岸田首相 中東3か国歴訪で調整 石油市場の安定化呼びかけへ」と報じた。「ウクライナ情勢も背景に、先行きの不透明さも指摘される国際石油市場の安定化に向けた対応を呼びかける見通し」だというが、何と陳腐な分析だろう。今中東湾岸で起きていることを本当に知れば、こんな記事にはならないだろうに。

〇南北アメリカ

CNNが機密文書に関するトランプ前米大統領の内輪の発言を録音したテープを再生しつつ詳しく報じた。トランプ氏は相手にイラン攻撃計画に関する「機密文書」を見せながら「凄いだろう?」などと発言。普通なら驚くべき内容なのだが、もう慣れてしまったせいか、「やっぱりね」という感想しかない。これこそ驚くべき話なのだが・・・。

〇インド亜大陸 

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:道路の検問所に立つロシア警察。プリゴジン氏創設のワグネル・グループは、ロシア軍指導部を打倒するためモスクワまで「全力で行く」と誓った。ウクライナで戦闘を続けていたこのグループは国境を越えてロシアに戻り、ロシアのウクライナ戦争の司令塔であるロストフ・ナ・ドヌを制圧した。(2023年6月24日 ロシア・モスクワ)出典:Photo by Epsilon/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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