中国1人当たり年間可処分所得の実態
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・全人口13〜14億人の平均可処分所得は1日3500円未満。低所得層では1日約334円。
・スーパーリッチは少なくない。上位1%が総資産に占める割合は30.6%。
・都市と農村、業種間の貧富の差は大きく、常に社会不安がつきまとう。
『中国統計年鑑』(2021年版)を参考にしながら、「中国の1人当たりの年間可処分所得(税金や社会保険料を除いた“手取り”)」について考えてみたい。なお、最新の統計は、一昨年(2020年)の数字である(ここでは「購買力平価」を捨象する)。
同年鑑では、中国全体を5つの階層(各20%ずつ)、すなわち(1)低所得層、(2)下位中所得層、(3)中所得層、(4)上位中所得層、(5)高所得層に分けている。
仮に、今の中国の人口が13億人だとしよう。すると、各階層は2.6億人である。ならば、(1)+(2)は5.2億人、(1)+(2)+(3)は7.8億人、(1)+(2)+(3)+(4)は、10.4億人となる。
他方、14億人の場合、各階層は2.8億人である。すると、(1)+(2)は5.6億人、(1)+(2)+(3)は8.4億人、(1)+(2)+(3)+(4)は、11.2億人となるだろう。
目下、1元は約18円のレートだが、2020年当時、元と円の年平均レートは約15.48円だった。
さて、各層の1年間の可処分所得(いわゆる「“手取り”年収」)は、(1)低所得層は7868.8元(約12万1809円)、(2)下位中所得層は1万6442.7元(約25万4533円)、(3)中所得層は2万6248.9元(約40万6333円)、(4)上位中所得層は4万1171.7元(約63万7338円)、(5)高所得層は8万0293.8元(約124万2948円)である(図表を参照のこと)。
▲表 筆者作成
▲図 著者作成 出典:同上
もしかすると、「“手取り”年収」よりも、1カ月当たりの可処分所得、すなわち「“手取り”月収」の方が、よりイメージしやすいのではないか。
(1)低所得層は約1万0151円、(2)下位中所得層は約2万1211円、(3)中所得層は約3万3861円、(4)上位中所得層は約5万3112円、(5)高所得層は約10万3579円である。
ちなみに、1日当たりに換算すれば、(1)低所得層は約334円、(2)下位中所得層は約697円、(3)中所得層は約1113円、(4)上位中所得層は約1746円、(5)高所得層は約3405円となる。
以上の数字から、次の事が言えるのではないか。
(1)と(2)と(3)をすべて併せた7.8〜8.4億人は、1日当たり1200円未満の可処分所得しかない。あるいは、(1)と(2)と(3)と(4)をすべて併せた10.4〜11.2億人は、1日当たり1800円未満の可処分所得しかない。中国全人口の13〜14億人でも、平均1日3500円未満の可処分所得だと言えよう。
それにもかかわらず、中国にはスーパーリッチが少なくない。後述するように、高所得層中、ごく一部が同国資産全体のかなりの部分を保有しているのではないだろうか。
例えば、『フォーブス(Forbes)』誌によると、2021年、「世界長者番付・億万長者ランキング」で、50位までに中国勢が10人も占めている。
第13位に、中国最大の飲料会社「農夫山泉」の創業者、鍾睒睒(689億米ドル)。15位に、「テンセント」の馬化騰(658億米ドル)。
21位に、ECプラットフォーム「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」黄峥〔コリン・ホアン〕(553億米ドル)。第26位に、「アリババ」のジャック・マー〔馬雲〕(484億米ドル)。
▲写真 アリババグループ創業者のジャック・マー氏(2017年9月20日、ニューヨーク市で開催されたブルームバーググローバルビジネスフォーラムで講演) 出典:Photo by John Moore/Getty Images
第35位に、物流会社「順豊エクスプレス」(「SF」Express)の王衛(390億米ドル)。第37位に、家電メーカー「美的集団」の何享健(377億米ドル)。39位の「バイトダンス(動画共有サービス「TikTok」を運営)」の張一鳴(356億米ドル)。
44位に、「牧原食品」秦英林とその一族(335億米ドル)。45位に、「NetEase」(網易)の丁磊〔ウィリアム・ディン〕(330億米ドル)。第50位に、不動産「碧桂園集団」の楊惠妍〔同社の創始者、楊国強の次女〕(296億米ドル)。
ちなみに、日本人で50位以内にランクインしたのは、第29位、「ソフトバンクグループ」の孫正義(454億米ドル)、及び、第31位、「ユニクロ」の柳井正とその一族(441億米ドル)の2人だけだった。
▲写真 香港の一角(2016年) 出典:Photo by Frédéric Soltan/Corbis via Getty Images
ところで、「任沢平チーム」は、2021年の中国の所得の現状および国際水準と比較分析した研究論文を発表(任沢平「「任沢平が語る中国の所得分配に関する報告書2021:現状と国際比較」『東東有魚私募網』2021年8月19日付)した。
主な論点は以下の通りである。
第1に、中国のジニ係数(0〜1の間。数値が低いほど平等)は依然、高い水準にあるが、近年は的確な貧困緩和政策等によって縮小している。ただ、中所得層は、高所得層や低所得層に比べ、所得の伸びが鈍い。
第2に、中国のジニ係数は2000年に0.599だったが、2015年には0.711まで上昇した。2020年、中国住民の上位1%が総資産に占める割合は30.6%に達している。
第3に、中国では社会的流動性が低下している。特に、低所得層が高所得層に転じる可能性は低い。
第4に、構造的に、都市と農村の格差、地域と業種の格差がある。都市と農村の格差は、中国における所得格差の大部分を占める。また、地域格差も顕著で、東部と西部の格差が大きい。他方、業界の所得格差だが、情報技術部門の賃金が最も高く、農林漁業部門の賃金が最も低い。
以上のように、中国の貧富の差は大きい。そのため、常に社会不安がつきまとう。
トップ写真:中国・上海の夜景 出典:owngarden/Getty Images
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この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。