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.政治  投稿日:2022/3/7

幻のワクチン担当大臣


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・国民の最大関心事ワクチン接種担当の堀内大臣の姿も声も見えない。

・国会で答弁が野党からの批判を浴びる場面が目立つ。「答弁能力に懸念」との指摘あり。

・コロナ禍という国家非常時に、岸田首相は派閥内の利害や恩義を国民の福祉に優先させた。一刻も早く適格なワクチン大臣の任命を。

 

君はワクチン担当大臣を見たことがあるか?

ついこんなことを問いたくなる。岸田内閣に存在するはずの新型コロナウイルスへのワクチンの扱いを担当する大臣がその存在を少しも感じさせないからだ。

いまの日本国民にとっての日常生活での最大関心事といえば、まずはコロナウイルスの感染防止対策だろう。至近にすでに感染した人がいるという家庭も多いだろう。だからとにかく感染を防ぐ、予防措置をとる、というのが切迫した課題である。となると、最も気になるのはワクチンの接種だろう。

ワクチンをいつ、どこで、どのように受けるべきか。国民にとってのこの緊急の関心事にまず応じるのは公共機関の責務である。日本の政府の切迫した責任である。だがその政府の責任の頂点に立つはずの岸田内閣のワクチン担当大臣が姿も声もみせないのだ。

そもそもいまのワクチン担当大臣がだれであるかを知っている国民は少ないだろう。

私自身、新聞、テレビ、インターネットなど仕事として広範に注意を払っているが、ワクチン担当大臣の動向に気がつくことがない。影さえみえてこないのだ。

▲写真 河野太郎前ワクチン接種担当相(2021年6月8日) 出典:首相官邸ホームページ

菅義偉政権の時代は河野太郎氏がワクチン担当大臣として、それなりの活動が目についた。ワクチン接種をどう進めるかを公開の場で語っていた。ところが岸田政権になると、ワクチン担当大臣は消えてしまったようなのだ。

このミステリーの真相はちょっと調べるとすぐにわかった。

まずいまのワクチン担当大臣は堀内詔子(ほりうち・のりこ)衆議院議員である。正式のタイトルはワクチン接種推進担当大臣、堀内氏は山梨県2区選出、当選4回の議員である。

ところがこの堀内大臣は明らかに大臣としての能力に欠陥があるようなのだ。国会などでの答弁がしどろもどろで、政府を代表して発言させることがためらわれる、というのだ。

主要新聞にもすでに堀内議員が大臣としての能力に欠けるという趣旨の報道が多数、あった。そのうちの一つ、朝日新聞2021年12月16日朝刊の記事の記述を以下に抜粋しておこう。なお記事の見出しは「悩める堀内ワクチン相 揺れる答弁 『政府に迷惑かけられない』」となっていた。

「堀内詔子ワクチン担当相の国会での答弁が野党からの批判を浴びる場面が目立っている」

「岸田首相が抜擢したが、ほかの閣僚からも堀内氏の答弁能力に懸念の声が上がっている」

「立憲民主党の木戸口英司議員の質問にも堀内氏は緊張した表情で手元のメモを読みながら『迅速な情報提供を』などと説明したが、質問とかみ合わず、別の議員からは『違うページを読んでいるんじゃないか』と声が上がった」

「堀内氏の答弁はその後も安定せず、事務方の官僚が答弁を引き取った。出席議員からは『なんのための担当大臣なんだ』とヤジが飛んだ」

「堀内氏は『自分の発言で政府や党に迷惑はかけられない』とか『自分がどこまで手を出してよいのかわからない』と漏らす」

この記述だけでも堀内詔子という人物が大臣には適していないことが自明だといえよう。ちなみにこの種の堀内大臣の不適格性を指摘した同様の記事は毎日新聞にも出ていた。

▲写真 岸田文雄首相(2022年2月25日 首相官邸) 出典:Photo by Rodrigo Reyes Marin-Pool/Getty Images

なぜこんな人物がいま日本国民の最大関心事ともいえるワクチン接種の最高責任者に任じられたのか。その理由はひとえに岸田首相の自己派閥の重視だといえそうだ。

堀内議員は岸田氏の属する宏池会、岸田派の期待される若手なのだという。しかも堀内議員の父親の故・堀内光雄元通産相は岸田氏をいろいろと世話した実績もあるのだともいう。

以上の背景が任命の理由だとすれば、岸田首相は派閥内の利害や、自身の利害、恩義をこのコロナ禍という国家非常時に国民の福祉に優先させた、ということになってしまう。

一刻も早い適格なワクチン担当大臣の登場を望みたい。

トップ写真:堀内詔子ワクチン接種担当相(2021年11月20日) 出典:首相官邸ホームページ




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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