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.国際  投稿日:2022/2/22

ウクライナ巡り政府・与党で場外乱闘 遠因は岸田政権の〝親露政策〟継続?


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】
・ウクライナ危機のさ中、林外相が露側と経済協力協議。自民・高市政調会長が外相を批判、福田総務会長は擁護。
・両氏の発言が政治的思惑、政局がらみとすれば、国際的危機への日本の真剣さが疑われる。
・安倍内閣の親露、親プーチン政策が遠因。北方領土交渉”暗礁乗り上げ”の今、ウクライナ問題で日本も露に強い姿勢を。

 

  ウクライナ情勢をめぐって政府・与党内で見苦しい〝場外乱闘〟が展開された。

 林芳正外相がロシア側と経済協力について協議したことを、自民党の高市早苗政調会長が批判、福田達夫総務会長は逆に外相を擁護した。

 政府・与党の足並みが乱れていては、ロシアの侵攻が現実になった場合、有効な対抗策をとることはできまい。

 こうした争いが生じた背景には、そもそも、安倍内閣以来の度を越した〝親露〟〝親プーチン〟の姿勢から、岸田内閣も脱却できずにいるという深刻な状況があるようだ。

ウクライナ危機に関わらず、日露関係進展を期待

 ことの発端は2月15日、林外相が、日露貿易経済政府間委員会のロシア側議長、レシェトニコフ経済発展相と行ったテレビ会談。

 外務省の説明によると、林外相はウクライナ危機の中にあっても、経済分野での日露協力が幅広い関係発展に資するよう対話を続けたいと述べ、協力の現状などについて議論した。

 ウクライナ情勢について、「主権・領土一体性の原則の下、緊張を緩和し、外交的解決を追求するよう求める」との日本政府の立場を伝えたという。


写真)ロシアのレシェトニコフ経済発展相とテレビ会議方式での協議に臨む林芳正外相(2022年2月15日 外務省)
出典)外務省ホームページ

高市氏「ロシアを利する」、福田氏「あらゆるチャンネル重要」

 これに異論を唱えたのが高市政調会長だ。翌々日の党の会合で、政府が先進7カ国(G7)と連携し、侵攻した場合の制裁発動を検討中であることに言及。「G7の結束を乱そうとするロシアを利する。大変強い懸念を覚えた」と外相を強く批判した。

 反論した福田総務会長は、「あらゆるチャンネルをキープすることは大事」(2月18日の記者会見)と指摘。「会談したという一事をもってどうこういう考えはない」と述べた。

 それにしても、与党の政調会長が公開の席で、閣僚を名指しして批判、いや非難するというのだから驚く。

政局がらみの岸田批判と擁護か

 高市氏は昨年秋の臨時国会でも、中国念頭の人権侵害非難決議を採択するよう自民党の茂木敏充幹事長に要請、拒否されると「悔しい」と憤慨して見せた。

 〝政敵〟に対するような発言で政府・党の方針を批判するあたり、次の総理の座に並々ならぬ意欲を示す高市氏が、間接的に岸田首相を批判したと勘繰られてもやむをえまい。

 一方の福田氏も、昨年の岸田新体制発足にあたって、当選3回、閣僚経験がないまま党3役の一角を射止めた。大先輩の高市氏に平然とかみつくあたり、祖父、父が総理という血筋を差し引いても、その度胸はなかなかというべきだろう。


写真)福田達夫総務会長
出典)内閣府ホームページ

 みずからを抜擢してくれた岸田首相への〝忠誠心〟から内閣を擁護したのかもしれないが、それだけに、これまた政治的、政局がらみの発言と受け止められかねない。

 ウクライナをめぐる与党幹部の発言が、そういう印象を与えるとすれば、国際的な危機に対する日本の真剣さを疑われることにもなろう。

この時期の対露経済対話は適切か

 両氏の発言の真意がどこにあるかは措くとしても、外相がこの時期に、ロシア閣僚と経済協力について話し合うというのは、やはり、適当さを欠いたというべきだろう。

 ウクライナをめぐる緊張については、ここで詳しく論じる必要はあるまい。

 各国は、「第2次大戦後最大の危機」として、軍事侵攻が強行されたなら、貿易のドル決済からの締め出しを含むかつてない規模の制裁を行う構えだ。

 そうした中で、外相がロシア側と経済協力について話し合い、「幅広い分野で日露関係全体を発展させる」などと呼びかけているのだから、各国がそれを知ったなら、強い疑念を抱かれるのは必定だ。

クリミア併合時も実効性欠く甘い制裁

 思えば、2014年にロシアがウクライナ南部のクリミアを併合した時の日本政府の対応も鈍かった。

 当時の安倍政権が課した制裁は、関係者へのビザ発給停止、66個人、16団体の資産凍結、ロシアの主要銀行による新規証券募集、発行の禁止、武器禁輸などだった。

 資産凍結された個人、団体はいずれもウクライナ国内の協力者らだけ、ロシア要人は含まれず、またロシア向け武器輸出はないから、実効性はほとんどなかった。

 アメリカ、欧州による貿易、経済分野での協力、軍事協力、エネルギー企業5社への技術供与停止などに比べれば大きな違いだ。(参照:2022年1月29日掲載『毅然さ欠く日本のウクライナ危機対応 クリミア併合時の轍踏むな』

毒殺未遂、欧米の制裁横目で〝誕生会〟

 今回と似たケースとして思い出すのは、2018年3月、英国内でロシアの元情報部員父娘が神経剤で襲撃され重症に陥った事件だ。

 欧州各国はロシアの情報機関が関与しているとして、外交官追放など強い手段をとったものの、その最中に日本は、あろうことかロシアのラブロフ外相を東京に招いて河野外相との間で外相会談を行い、昼食会では、その日が誕生日というラブロフ氏にバースデーケーキを振る舞うおまけまでつけた。

 英国のメイ首相(当時)が直前、安倍首相に電話、制裁への同調を強く求めた直後であるにもかかわらずだ。

G7歴訪の帰途、追放されたロシアを訪問

 日本政府とくに安倍政権の度を越したとも思える親ロシア、親プーチンの姿勢を示すケースはほかにもある。 

 2016年5月、日本で開かれたG7首脳会議(伊勢志摩サミット)の直前、議長の安倍首相が欧州各国を歴訪、首脳と事前会談を行ったが、その帰途、何とロシア・ソチに立ち寄り、プーチン大統領と会談した。

 G7首脳との準備会談の帰途に、追放されたロシアを訪問するという無神経さに、欧州各国の首脳はさぞ不快だったろう。

ロシアのG7復帰、欧州は反対、日本賛成

 2019年夏、フランス・ビアリッツで開かれたG7サミット(主要国首脳会議)で、トランプ米大統領が、ロシアをG7に復帰させるべきだと主張した際、安倍首相は「ロシアが国際的問題に建設的な形で参加することが望ましい」と真っ先に歓迎の意向を示した。他の参加国はいずれも、慎重姿勢だったが。

 翌年、トランプ大統領が自国での開催を控えて、同様の議論を蒸し返した時には、やはり日本の茂木外相(当時)は、一年限りのゲストという条件付きながら、明確に賛意を示した。

 クリミアの原状回復がなされず、日本にとっても北方領土返還が実現しないにもかかわらず、ロシアのG7復帰に賛成するというのだから理解を超えるというほかはない。


写真)G8サミットの写真撮影に臨む安倍首相(当時)とプーチン大統領(2007年6月8日 独・ハイリゲンダム)
出典)Photo by Sean Gallup/Getty Images

無意味で危険なロシアへの譲歩

 安倍氏が首相在任中に、プーチン氏と会談したのは27回にのぼった。ウマが合ったのだろうが、やはりロシア首脳との良好な関係が、北方領土問題へ好影響をもたらすことへの期待感があったろう。

 安倍氏は2018年秋、シンガポールでプーチン氏と会談した際、「1956年の日ソ共同宣言を平和条約交渉の基礎とする」ことで合意した。日本にとっては、従来の「4島返還」から「2島返還」への大転換だった。

 しかし、日本の思い切った譲歩にもかかわらず、ロシアは2島の返還すら応じず、領土問題の解決のめどは全く立たない状況に再び陥っている。

 もはや、ロシアに〝鼻薬〟などかがせる必要はあるまい。

 ウクライナ危機のさ中にあって、日本側がロシアとの経済協議を行った真意は明らかではないが、この期に及んでなお、領土問題進展を期待してのことだとしたら、ナンセンスというほかはない。

 安倍氏は、シンガポール合意の後、国会審議で「私たちの主張をしていればいいということではない。それで(戦後)70年間一歩も進展がなかった」と説明したが政策転換によって状況は変わったか。それによって、島は返ってきたか。

 ロシアに譲歩をすることほど無意味、かつ危険なことはない。

トップ写真)ウクライナ危機のさ中、ロシアと経済協力協議をした林外相を批判した高市早苗政調会長。
出典)Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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